テレワークの普及、転職の増加など、働き方が多様化している現代において、適正な人事評価を行うにはどうすればいいか苦慮している企業も少なくありません。そんな中、行動特性や思考といった可視化しにくい能力を見極められる「コンピテンシー評価」への注目が高まっています。本記事では、コンピテンシー評価のメリットやデメリット、評価表作成のコツを解説します。Excel形式の評価表サンプルをダウンロードできますのでぜひ活用してください。
目次
コンピテンシー評価とは
コンピテンシー(competency)は、英語で「能力」「技量」という意味です。コンピテンシー評価とは、業務で優れた成果を出す人に共通した行動特性を評価基準として定め、人事評価を行う方法です。コンピテンシー評価では、成果を出せる行動につながる性格や価値観など、可視化しにくい要素を重視します。
コンピテンシー評価を行うメリット
コンピテンシー評価を導入すると様々なメリットが得られます。ここでは、その中でも特に重要な3つのメリットについて解説します。
コンピテンシー評価のメリットについて、以下の関連記事でも詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
コンピテンシー評価とは? 項目の作成手順やメリット・デメリットを解説
効率的な人材育成ができる
コンピテンシー評価では「どんな行動を会社が高く評価するか」という具体的な評価基準を全従業員に示します。従業員にとっては、現場でどのような対応や行動を取れば良いかが分かりやすく、日々の行動を改善しようというモチベーションが高まります。結果として、効率の良い人材育成につながります。
従業員を評価しやすい
コンピテンシー評価で用いられる評価基準は具体性が高いため、評価者の主観が入る余地が少ないのが特徴です。例えば「社会人としてのビジネスマナーを備えている」「スタッフを励まし、目標達成を促している」といったように、評価基準が明確です。そのため、人間関係などによって評価が左右される可能性が低く、より公正な評価が可能です。
従業員の納得が得られる
従業員は、自分に下された評価に対して、「どのような行動が評価されたか」「どのような行動が足りなかったか」という理由をはっきり知ることができます。評価に対して納得感が得られるため、従業員のモチベーションをむやみに低下させることがありません。評価に対する不満が減るため、離職率の低下が期待できます。
コンピテンシー評価を行うデメリット
コンピテンシー評価には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
導入までに時間と手間がかかる
まず、コンピテンシーの定義や分析に時間と手間がかかるというデメリットがあります。企業によってビジョンは様々であるため、評価基準は企業ごとに独自で定義する必要があります。その上、部署や役職ごとに、好ましい行動を具体的に例示しなければなりません。
メンテナンスが困難で環境変化に弱い
もう1つのデメリットは、評価基準の改定が難しく、環境変化に適応しづらいことです。企業の成長やビジネスを取り巻く環境の変化によって取るべき行動が変化した場合、コンピテンシーの再定義が必要になります。しかし、コンピテンシー評価の基準は具体的で細かな行動で定義されているため、改定するには時間とコストがかかることもコンピテンシー評価の弱点です。
コンピテンシー評価表のサンプル
コンピテンシー評価シートのサンプル(Excel)を無料でご用意しました。評価項目とその定義、具体的な行動の内容、評価点を記入する欄を設けています。また、本人と上司のコメントを記入できるようになっています。
コンピテンシー評価表は、人事評価だけではなく、採用のシーンでも活用できます。必要に応じて項目や内容をカスタマイズできますので、ぜひ下記からダウンロードしてみてください。
採用での活用については、後半で詳しく解説します。
コンピテンシーの評価項目
コンピテンシーの評価項目例を6つご紹介します。自社の評価項目を考える際の参考にしてください。
自己認知力
まず1つは「自己認知力」です。仕事を進める上で、自身の能力や特性を正しく理解できていることは大切です。また、自身の言動や振る舞いが適切かどうか、周囲にどんな影響を与えるかを自己認識できると、コミュニケーションが円滑になり、業務がスムーズに進められます。
自己認知力に含まれる能力としては、社会人として身につけておきたい「ビジネスマナー」、相手の立場や状況を想像して発言できる「思いやり」、「誠実さ」などが挙げられます。
自己認知力を測るには、自己分析のほかに他者評価も取り入れて、その結果の差がどのくらいあるかを見るのも一つの方法です。
コミュニケーション能力
2つ目は「コミュニケーション能力」です。仕事をする上で、人とのコミュニケーションは欠かせません。特にチームで協力して仕事を進めることが多い職種や、お客様と接する職種には必須の能力です。
コミュニケーション能力についての評価は、主観に左右されがちであるため、行動を具体的に設定するようにしましょう。
例えば、「出退社時に周囲に挨拶をしている」「チーム内の課題を発見し、共有している」等が例として挙げられます。
コミュニケーション能力を客観的に評価するには、複数人で評価を行うことも有効です。多面的な評価が集まることで主観に偏ることを防ぎ、評価に対する納得感を得やすくなります。例えば「自分の考えを分かりやすく伝えられる」「相手の質問の意図を理解し、適切な回答ができる」といった評価項目は、客観的な視点が必要であるため、複数人での評価に向いています。
意思決定力
3つ目は「意思決定力」です。意思決定力は、リーダーシップを発揮する必要がある役職や職種で特に重要となる能力です。意思決定力の行動目標例としては「問題が生じた際、即座に対応の方向性を定め、実行できる」「他者の意見を否定せずに取り入れられる」「途中であきらめずに実行を繰り返している」などが挙げられます。
意思決定力の評価については、上司だけでなくチームメンバーや部下からの評価も合わせて行うと、さらに適正な評価ができます。
業務遂行力
4つ目は「業務遂行力」です。社内で特に高い成果を出す「ハイパフォーマー」をモデルとし、その人物の行動をそのまま業務遂行力の評価項目とする方法があります。ハイパフォーマーの業務の進め方をヒアリングし、工程としてリストアップすることで具体的な評価項目を設定できます。
情報収集・活用能力
5つ目は「情報収集・活用能力」です。多くの情報の中から正しい情報を素早く判断し、収集する能力と、収集した情報を整理し活用する能力を評価します。また、周囲に積極的に情報を発信しているかどうかについても評価します。
統率力
6つ目の「統率力」は、管理職やチームのリーダーなど複数のメンバーをまとめる立場で求められるコンピテンシーです。具体的には、メンバーの業務進捗を管理する能力や、業務の割り振りを適切に行う能力、規則やルールの周知徹底ができる指示力を項目として設定します。
コンピテンシーの評価基準
コンピテンシーの評価基準や求めるレベルは企業によって異なり、基準の設定の仕方に定型はありません。企業の目的や目指す方向性に合わせて、評価基準を設定する必要があります。
評価の尺度には「共通基準」と「個別基準」の2種類があります。「共通基準」は企業全体・全従業員に適用できる5段階の評価尺度です。一方「個別基準」は、その職種や役職特有の行動や考え方ができているかを測るものです。共通基準と比較して、より具体的な行動内容や考え方を項目として設定します。
コンピテンシー評価表活用のコツ
コンピテンシー評価表を効果的に活用するために、おさえておくべきコツをご紹介します。
面接、採用にも活用する
コンピテンシー評価は人材育成や人事評価に活用できますが、面接や採用にも役立ちます。コンピテンシー評価を採用面接に取り入れれば、応募者の「行動特性」「思考」などの本質的な部分を見極められるため、自社の求める人物であるかどうかを判断しやすくなります。
面接での質問では、これまでに上げた具体的な成果を尋ねることに加え「なぜそのような行動を取ろうと思ったのですか?」「成果を出すためにどのような工夫をしましたか?」など、応募者の本質が分かるように掘り下げて質問するのがコツです。
オリジナルの評価基準を設定する
経営者の考える従業員の理想像と、社内で高い業績を上げる従業員の行動特性を掛け合わせ、コンピテンシーモデルを設定し評価基準を作成します。一からモデルを作成するのが困難な場合は、マックバー社CEOであるライル・M・スペンサーらが1993年に提示した測定尺度である「コンピテンシー・ディクショナリー」の中にある項目から選ぶことをおすすめします。コンピテンシーをモデル化する上での基本的な考え方が示されているため、役職や職種に関わらず転用できます。
コンピテンシー・ディクショナリー
コンピテンシー | コンピテンシーの項目 |
1.達成・行動 | 達成重視秩序・クオリティー・正確性への関心イニシアティブ情報探求 |
2.援助・対人支援 | 対人関係理解顧客サービス重視 |
3.インパクト・対人影響力 | インパクトと影響力組織の理解関係の構築 |
4.管理領域 | 他者育成指揮命令チームワークと協調チーム・リーダーシップ |
5.知的領域 | 分析的思考概念的思考技術的・専門的・マネジメント専門能力 |
6.個人の効果性 | セルフ・コントロール自己確信柔軟性組織へのコミットメント |
参考:http://www.nsweb.biz/coffee/0409compt_dic01.pdf
参考:https://media.bizreach.biz/19396/#co-index-5
評価基準を定期的に見直す
ビジネスを取り巻く情勢の変化や企業の目指す方向性の変更に伴って、従業員に必要とされる行動特性は変化します。そのため、コンピテンシーモデルは一度作って終わりにするのではなく、定期的に見直しを行いましょう。従業員が業績に貢献できる行動を取り続けられるように、長期的にコンピテンシーを改善していくことが大切です。
コンピテンシー評価と合わせて活用したい人事評価制度
コンピテンシー評価と合わせて活用できる人事評価制度を3つご紹介します。評価に対する従業員の納得感を高めたい方はぜひ参考にしてください。
MBO(目標管理制度)
MBO(Management By Objectives:目標管理制度)とは、個人またはグループごとに設定した目標に対する達成度で評価を決める制度で「マネジメントの父」と呼ばれる経営学者のP.F.ドラッカーが提唱しました。経営目標に基づいて従業員一人ひとりの具体的な目標を設定し、それに向かって日々業務に取り組むことで、企業全体の業績アップを目指すものです。
目標とする取り組み内容や期間を具体的に設定するため、評価がしやすく、従業員の納得感を得られるメリットがあります。
360度評価
360度評価とは、様々な立場の複数の人物によって、多角的に対象者を評価する手法です。上司、部下、同僚など、対象者を取り巻く様々な人物からの視点で評価を行うため、客観的で公平な評価が得られることがメリットです。従業員のモチベーションアップにつながりやすいことから、人材育成の一環として導入するケースが増えています。
ノーレイティング
ノーレイティングとは、人事評価において従業員のランク付け(rating:レイティング)を廃止し、数値や記号を使わずに対象者を評価する方法です。業績をランク付けする代わりに、1対1の個別面談の中で上司が目標設定とフィードバックを行い、評価する形を取ります。ノーレイティングでは、環境の変化に合わせたリアルタイムな目標設定が可能です。また、上司と相談しながら目標を設定できるため、従業員の納得感やモチベーションが向上しやすいというメリットがあります。
まとめ
優れた業績を上げる人の行動特性を評価基準とする「コンピテンシー評価」を行うことで、従業員を適正に評価することができ、評価への納得感を高められます。一方で、環境の変化に適応しづらいなどのデメリットがあることも認識する必要があります。
本記事ではコンピテンシーの評価項目例を6つご紹介したほか、評価表作成のコツを解説しました。コンピテンシーの導入を検討している方は、本記事で公開しているExcel形式のコンピテンシー評価シートをダウンロードしてご活用ください。コンピテンシー評価と合わせてMBOや360度評価、ノーレイティングなどの人事評価制度を活用するとさらに有効です。
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