企業が持つ、もっとも重要な資源のひとつである「ヒト」を効果的に活用することは、企業の発展に大きく寄与します。しかし、退職や事業拡大に伴う人員不足に、場当たり的に対処していては後手に回りますし、最大効率での発展は望めません。この記事では、「ヒト」を効率的に活用し、企業が成長していくために必要な要員計画と人員計画に関して、それぞれの目的や立て方、違いについて詳しく解説します。
目次
要員計画とは?
要員計画とは、企業が経営方針や事業目標を達成するために立てられるもので、企業の重要な経営資源のひとつである「ヒト」に関して、効果的に採用・配置・能力開発などをするための計画です。そのため、事業計画が変われば必然的に要員計画も見直しが必要となります。事業を拡大するためには人員が必要になりますし、離職や産休・育休などにより、従業員の増減は必ず発生します。
新しく人を採用するのも育成するのも時間がかかるものです。人員の急な増減で慌てないよう、どのように「ヒト」を活用するのか計画を立てておくことが重要です。
要員計画の策定では、人件費の予算内で正社員や業務委託、部署や階級など、どこに何人配置するか必要な人員数を検討します。そして、要員計画には、人材配置や人材採用、異動、能力開発などの計画が紐づきます。要員計画で大枠を作ることで、そのあとの計画を軸からぶれずに策定することが可能です。
たとえば、業務量よりも多く人員を配置してしまうと余計な人件費がかさみます。あるいは、採用のターゲットを固めないままスキルや特性がマッチしていない人を採用してしまうと、早期離職につながり、既存社員の負担が増え、さらに離職者が出るという悪循環に陥るかもしれません。個々のスキルや業務の変化に伴い、ある部署では人員不足だけど別の部署では実は人員過剰になっているということもあり得るでしょう。そういった詳細を詰めていく前の段階として、広い視野で人員数を検討するのが要員計画です。
少子高齢化が進む現代では、採用市場は長らく売り手市場となっており、今後も採用難が続く見込みです。限られた求職者の中から自社にマッチする人材を見つけることは容易ではありません。また、IT化・グローバル化が進む現代では、多種多様な人材を採用し組織力を高める企業も多くなってきました。つまり、現代の採用市場において、企業はこれまでよりも多くのライバルたちの中から、優れた人材を選ばなければならなくなっています。そのため、採用に関して戦略的な手を打つために、以前にも増して要員計画に注目が集まっています。
要員計画の目的
要員計画の目的は、企業の将来に対する人材戦略を明確にすることです。要員計画があることでその後の配置や採用、能力開発などの計画が立てられ、最終的に経営数値目標や事業計画の達成につながります。
要員計画を立てることで、たとえば下記のようなことが期待できます。
- 要員計画を立てる過程で、企業の現状の課題が明確になります。それを解消するためにはどこに何人人員が必要か検討することで、より部署の役割や業務量も明確になっていきます。
- 部署ごとの適正人数を検討する際は、一人当たりの適正業務量も考えるため、このあとの人員計画を立てる際、異動についての判断基準のひとつにもなります。もし適正量を超えて業務を抱えている人がいれば人員の補充が必要ですし、適正業務量に満たない仕事しかできない人がいる場合は他の部署で活躍できないかなどを検討できます。
- 今の事業と将来の事業のギャップを見ることで、必要な能力開発や教育が何なのかを明らかにできます。結果的に、将来事業が成長した際に活躍できる人材を今から育成することが可能です。
急な人員増減は企業の成長スピードを鈍化させます。新しく人が増えれば教育コストがかかり、反対に人員が減れば業務過多となり効率的な仕事ができなくなるかもしれません。人員の増減を予測し要員計画を立てることで、必要な準備ができ、無理のない採用・教育スケジュールを立てられます。
人員計画とは?
人員計画は、要員計画をより具体的にするために立てられ、人員の適正、能力、ポテンシャルといった人材の質を重視した、人員配置や人員採用に関する計画です。
「人員」計画ではありますが、これを人事のみで策定し実行することは困難です。経営方針や事業計画とのすり合わせが必要なため、経営層を巻き込む必要があり、業務量や必要人員は現場の日ごろからの感覚も重要です。人員計画は、経営層が目指している経営数値目標や事業計画を達成するために、企業全体で同じ方向を向き戦略を実行するための重要な役割を果たします。
人員配置や人員採用を行うためには、部署や役職の役割、部署ごとのほしい人材像を言語化し、社員のスキル・特性と、業務やMVVとのミスマッチを防ぐ必要があります。「ヒト」は企業の貴重な資源であるため、自社のこれからの経営方針などを踏まえ、中長期的な視点から人員計画を設定する必要があります。
人員計画の目的
経営数値目標や事業計画を達成するために、適切な人員配置や人員採用、能力開発などの計画を立案することが人員計画の目的です。長期的な人員計画を策定することで効率的な採用活動ができ、人材の育成を計画的に行うことが可能になります。
人員計画を立てることで、たとえば下記のようなことが期待できます。
- どの部署でどのような人材が必要なのかを把握することで、採用でのターゲットが明確になり、求職者・企業側ともにミスマッチが起こりづらい施策を打ち出せます。
- 既存社員の特性やスキルを明確にすることで、より活躍できる部署や役職への配置換えを行えるようになります。その結果、各社員それぞれが効率的に成果を生み出し、経営目標や事業計画の達成につながります。
- 必要な能力開発や教育を明確にして効率的・計画的に行うことで、将来成長した企業を支えられる人材を育てられます。
もし人員計画を立てなければ、たとえば入社後のミスマッチにより早期離職率が高くなったり、過剰採用により人件費がかさんだりする恐れもあります。また、将来的に必要なリーダー人材が不足し、企業の成長が鈍化することもあるかもしれません。
要員計画と人員計画の違い
要員計画も人員計画も、事業目標や計画を達成するための手段として「ヒト」の活用を考える際に策定されるものです。
ただし、要員計画はマクロ的な視点から、この部署には「何人必要か」という量的な観察をします。一方、人員計画はより詳細で長期的な視点から「どんな人が必要か」という質に注目して観察する側面があります。たとえば、この部署が数値目標を達成するにはどういった人材が必要か、この業務をより効率よく回すためにはどういった特性を持つ人材が必要か、といった具合です。
要員計画も人員計画も、どちらか一方のみでは精度の高い人材戦略とは言えず、要員計画を基盤として人員計画を策定することでより確度の高い計画となります。
要員計画と人員計画の立て方
要員計画で各部署の必要な人員数を検討したのち、人員計画でどのような人材をどのような戦略で採用・配置するか検討します。以下では、2つの計画の立て方を順序立てて詳しく解説します。
現状を把握する
まずは「要員調査」とも呼ばれる、現在の人員数や人件費の把握から始めます。各部署・各役職に何人配置されているのか、人件費の内訳はどのようになっているかなど、具体的に把握しましょう。人件費の内訳とは、基本給・時間外手当・賞与などの現金給与の他に、厚生年金保険料などの法定福利費、企業ごとに定めている法定外の福利厚生費・教育研修費などの費用も含みます。
現状を把握するための方法としては、トップダウン方式とボトムアップ方式の2種類があります。トップダウン方式とは、売り上げや利益などからまずは適正な人件費と予算(採算がとれる範囲)を割り出し、その予算内で必要かつ採用できる人数を割り出す方法です。一方、ボトムアップ方式では、各部署や役職、プロジェクトなどの現場のニーズを考慮し、業務量から不足人数を割り出します。
この2つの方法は、どちらもメリットがある一方でデメリットも抱えています。トップダウン方式だけでは、現場が必要だと感じている人員数とは乖離する場合があり、業務が依然として回らない状態が続いたり現場から不満の声が上がったりする恐れがあります。一方、ボトムアップ方式では、目標に近く、本当に必要な人員数を把握できますが、予算オーバーとなるリスクがあります。
そのため、まずはトップダウン方式で外郭が見えてから、ボトムアップ方式で割り出した人数を検証し、配置等で調整をしてもなお解消されない場合は予算の見直しを検討するといった流れがよいでしょう。どちらも使い、バランスのとれた人員数を出すことが重要です。
経営層と現場の意見をまとめる
冒頭で紹介した通り、要員計画や人員計画は経営数値目標や事業計画を達成するために立てられるものです。今後の事業拡大や経営層の変更があれば、計画にも大きな影響を与えるため、もし変更を予定しているのであれば策定時に共有する必要があります。現状の目標達成や事業戦略に対する進捗や修正の予定なども確認します。
また、現状における人員の過不足については現場が一番わかっているため、現場にヒアリングする必要もあります。目標達成に向けて人員補充は必要か、この部署はどのようなスキルを持った人材が活躍できるか、最適なスキルを持つ人材が来ることで必要な人員数を減らせるのではないか、時期による業務量の浮き沈みはあるかなど、現場でしか拾えない情報を集めましょう。
適正な人員数を決める
トップダウン方式(経営層側)とボトムアップ方式(現場側)の両者で出された情報をもとに、将来の人員や人件費の予測を立てます。その人員で目標数値や事業計画を達成できるのか、同業他社と比較して適切な人員であるかなども考慮します。トップダウン方式で割り出した人数と、ボトムアップ方式で必要とされた人数には乖離がある可能性もあるため、予算を調整し人員を増やすのか、異動や教育で効率化を図り人員を抑えるのかといった調整が必要です。また、直接部門と間接部門の人員数や人件費のバランスは、直接:間接=9:1が目安とされているため要チェックです。
適正な人数や人件費をさまざまな角度から分析して、要員計画書を作成します。要員計画書には「役職(等級)別」「職種別」「部署別」などさまざまなテンプレートがあります。企業の形態ごとに最適なテンプレートを使用しましょう。
適切な人員の確保と配置の計画を立てる
- これまでの要員調査・要員計画を踏まえ、人員計画を立てます。どのような人材が何人必要か、確保した後はどのように育成するか、既存社員がより活躍できる部署はあるかなど、企業の発展のために必要な人材確保や最適な人材配置の戦略を練ります。
- たとえば、採用に関する項目はこのようなものがあります。
- 何人採用するか
- どのような人材が必要か
- どれくらいコストをかけるか
- どこで求人をかけるか
- いつまでに採用するか
- 採用を見据え既存社員をどこに配属するか
要員計画を運用する際の注意点と対策
要員計画を立てる際、または実行する際に注意すべきポイントを紹介します。
要員計画を定期的に精査する
要員計画はPDCAを回す必要があるものと認識し、定期的に効果の測定と見直しを行いましょう。要員計画のゴールは事業計画等の達成であるため、効果が出ていなければ、意味のないものとなってしまいます。また、市場環境や業務は可変的なものであるため、ターゲットからの応募が得られなかったり、期待していたメンバーが思うように成果をあげられなかったり、社員が急に離職や育休・産休に入ったりすることはよくあります。そういった可能性も加味した計画を立てられるべきですが、もちろんすべてをカバーできるとは限らないため、都度計画の軌道修正が必要となります。
経営層と現場のニーズのバランスがとれているかどうか
要員計画は、企業の方針に関わる重要なものであるため、現場から離れたポジションの人が策定することもあり、トップダウン方式による情報に偏ってしまうことがあります。しかし、トップダウン方式のみに偏ってしまうと、現場の声が反映できておらず、離職率が悪化し、残った社員に負担が強いられることで、生産性の低下やさらなる離職につながる悪循環に陥りかねません。現場の声を集めるのは労力がかかりますが、丁寧にヒアリング・分析することが重要です。
プロに計画立案を依頼する
要員計画を立てる際、人事担当者の経験が浅い、専任の担当者がいないなど、内部リソースだけでは対応が難しい場合は、外部のコンサルティングサービスを活用するという手もあります。
要員計画は、企業の重要な経営資源である「ヒト」についてのもっとも基礎となる計画です。要員計画によって、その後の採用計画・育成計画・人事異動などが行われます。良質な計画を立てることこそが、企業の発展に大きく貢献するため、同規模・同業種へのコンサルティング実績が豊富なプロに計画立案を依頼することも検討しましょう。
人員計画を運用する際の注意点と対策
人員計画を立てる際、または実行する際に注意すべきポイントを紹介します。
人材の採用が困難な場合もある
たとえば専門性の高い業務では、スキルや経験のある人材を新たに採用する難易度が高いかもしれません。その際に、採用に費用をかけるのか、既存社員の教育に投資するのかという2択があります。スキルがある人を雇えれば即戦力になりますが、人件費も採用までの時間もかかります。一方、既存社員の教育も育成までの時間がかかりますが、新たな人件費はかかりません。自社のリソースや採用市場の状況などを加味して戦略を立てる必要があります。
離職率を抑える施策が必要
離職や休職を防ぐために、既存社員のケアやキャリア開発にも気を配るのが人員計画です。マネージャーとの相性が悪くないか、自己実現の機会があるかなど、今の企業での明るい未来を思い描けるような、効果的なサポートを検討・実施していく必要があります。人材開発プログラムを導入すれば、社員の成長を支援できるため、新しい人材を確保するコストの抑制にもつながります。
採用やチームビルディングの人材開発プログラム支援
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まとめ
要員計画は、企業の経営資源のひとつである「ヒト」を効果的に獲得、活用するための計画です。一方の人員計画とは、企業の事業計画や目標達成のためにどのように人員を獲得し、どのように活用するのかといった具体的な人材戦略を指します。
要員計画や人員計画を立てる際、ラクテスの導入は有効です。採用や異動を検討する際、適正診断やスキルチェックを実施し、採点データも一元管理できることから、データに基づいた判断ができます。また、能力開発や社内の昇進試験などにも使えます。
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