昇進昇格試験での小論文運用ガイド 設問設計や採点時の注意点まとめ

「来期から昇進試験に小論文を導入することになった。でも、何から手をつければいいのか分からない」──そんな人事担当者の方に向けた実務ガイドです。

昇進昇格の判定は、多くの企業で日常の上司による評価(人事考課)、面接、適性検査、業績評価など複数の手法を組み合わせて行われています。小論文試験はそのうちの一つで、面接や日常業務の観察だけでは把握しにくい「論理的に考え、文章で表現する力」や「課題を発見し、解決策を構想する力」を測るために導入されます。

この記事では、小論文試験をはじめて企画・運用する方が、設計から採点、結果の活用までを一通り進められるよう、実務の流れに沿って解説します。専門的な統計手法にも触れますが、概念の理解に必要な範囲にとどめています。

📌 この記事で分かること

小論文試験の全体像(企画→出題→採点→結果活用)/評価項目の全体メニューと等級別の選び方/5段階採点の基準と「採点アンカー」のつくり方/採点者間のバラつきを防ぐ8つのステップ/AI採点の活用可能性と注意点

1. 昇進昇格試験における小論文の位置づけ

従業員1,000人以上の大企業の約76%が、一般社員から管理職への昇進昇格時に何らかの試験を実施しており、そのうち約7割が筆記試験・論文を含んでいます(リクルートマネジメントソリューションズ調べ)。とはいえ、小論文の結果だけで合否が決まることはまれです。多くの場合、以下のような複数の評価を総合して判定が行われます。

評価手法 主に測れること 小論文との関係
上長評価(人事考課) 日常業務の成果、勤務態度、チームへの貢献 小論文では測りにくい「日常の行動」を補完する
面接・プレゼン 対人コミュニケーション力、臨機応変な対応力 小論文と役割を分け、異なる能力を測る
小論文 論理的思考力、課題発見力、構想力、文章力 面接や日常評価では見えにくい「考える力」を可視化する
適性検査・知識試験 基礎能力、専門知識の正確さ 小論文では測りにくい客観的知識を補う

なお、適性検査・知識試験については、サイトエンジン株式会社が運営するオンラインテスト作成サービス「ラクテス」で、昇進昇格試験にも使える800種類以上のサンプルテストが公開されています。すべてのサンプルテストが編集可能で、出題範囲を組み合わせてカスタマイズできるため、知識面の評価はラクテスのテストで行い、小論文では「考える力」の評価に集中する、という役割分担も効果的です。

小論文試験を設計する際には、「他の評価手法で何を測っているか」を確認し、小論文でしか測れないことに焦点を当てるのがポイントです。すべてを小論文で測ろうとすると、評価項目が多くなりすぎて採点の負担が増え、結果のブレも大きくなります。

💡 設計のコツ

まず「面接で聞けること」「上長評価で見えること」を書き出し、そこでは見えにくい能力を小論文の評価対象にしましょう。たとえば「リーダーシップ」は面接で深掘りし、「論理的な課題分析力」は小論文で測る、といった役割分担が効果的です。

2. テーマの決め方と出題形式

2-1. よく出題されるテーマ

昇進昇格試験の小論文では、受験者が自分の業務経験と結びつけて論じられるテーマが適しています。頻出テーマには以下のようなものがあります。

テーマ例 測れること
「職場における私の役割と課題」 自身の立場の認識、当事者意識、課題発見力
「自部門の業務改善提案」 問題分析力、解決策の具体性、実行計画力
「当社の中期ビジョンへの貢献」 経営理解、全社的視点、中長期的な思考
「マネジメントにおいて大切なこと」 リーダーシップ観、部下育成への意識

対象の等級が上がるほど、個人の業務範囲を超えた「全社的・経営的な視点」を求めるテーマが適しています。

2-2. 出題形式の決め方

出題形式は主に3つの要素で構成されます。

字数: 一般的には800〜2,000字程度です。短すぎると論述の深さを評価しにくく、長すぎると採点の負担が増えます。初めての導入であれば1,200字前後が目安です。

時間: 会場での筆記試験であれば60〜90分が一般的です。近年増えているWeb方式(パソコンで受験する形式)では、やや短めの45〜60分に設定するケースもあります。

実施方法: 会場集合型とWeb方式があります。Web方式は会場手配が不要で受験者の負担も軽い反面、不正防止の仕組み(監視カメラ、画面録画など)の検討が必要です。

3. 採点基準のつくり方

採点基準は、小論文試験の品質を左右する最も重要な要素です。基準が曖昧だと、採点する人によって評価がバラバラになり、受験者からの信頼も得られません。ここでは実務で使いやすい設計手順を紹介します。

3-1. 採点方式を選ぶ

採点方式は大きく2種類あります。

方式 やり方 メリット デメリット
分析的採点(おすすめ) 「論理性」「課題認識」など項目ごとに点数をつけ、合計する 採点の根拠が明確。項目ごとのフィードバックが可能 項目が多いと採点に時間がかかる
総合的採点 答案全体の印象で1つの点数をつける 採点が速い。答案全体の質を直感的に評価できる なぜその点数なのか説明しにくい。バラつきが大きくなりやすい

昇進昇格試験のように受験者のキャリアに直結する試験では、「なぜこの評価なのか」を説明できることが重要です。分析的採点を基本とすることをおすすめします。

3-2. 評価項目の全体メニュー

以下の表は、小論文の採点で考慮しうる評価項目の全体メニューです。すべてを使うわけではなく、出題テーマ・対象等級・職種に応じて必要な項目を選び、選んだ項目の中で配点を設計します。「重要度」は一般的な優先度の目安で、高=多くの試験で中心的に評価される項目、中=テーマによって選択される項目、低=特定のテーマで補足的に評価される項目です。

評価カテゴリ 評価項目 何を見ているか 重要度 対象等級
文章力・表現力 文章構成力 序論・本論・結論の構成が明確で、全体として一貫した流れがあるか 全等級共通
論理的展開 主張と根拠の関係が明確で、飛躍や矛盾なく議論が展開されているか 全等級共通
日本語表現の正確性 文法・語彙・敬語の使用が適切で、誤字脱字がないか 全等級共通
読みやすさ・明瞭さ 適切な段落分け、簡潔な文章で読み手に伝わる表現ができているか 全等級共通
設問対応力 設問への的確な回答 問われている内容に正面から回答しており、論点がずれていないか 全等級共通
字数・形式の遵守 指定された字数・形式・条件を守っているか 全等級共通
時間内完成度 制限時間内に十分な質と量の論述ができているか 全等級共通
企業理解・組織適合性 経営理念・ビジョンの理解 企業理念・ミッション・ビジョンを正しく理解し、自分の言葉で語れているか 全等級共通
企業文化・価値観への共感 社風や行動指針を理解し、自身の考えや行動と結びつけて論じているか 全等級共通
自社事業・戦略の把握 中期経営計画や事業戦略の内容を踏まえた議論ができているか 中堅層以上
社内制度・仕組みの理解 人事制度・評価制度・業務プロセスなど社内の仕組みへの理解があるか 中堅層以上
知識・専門性 業界・市場の理解 自社が属する業界の動向・競合環境・市場トレンドを正確に把握しているか 中堅層以上
職務専門知識 担当業務領域における専門知識の深さと正確性が十分か 中堅層以上
経営・ビジネス知識 財務・マーケティング・人事・法務など経営全般の基礎知識があるか 中堅層以上
最新トレンドへの感度 DX・AI・サステナビリティなど最新の経営テーマへの理解があるか 中堅層以上
問題解決・思考力 課題発見力 表層的でなく、本質的な課題を的確に特定・言語化できているか 中堅層以上
分析力 データや事実に基づいた多角的な分析ができているか 中堅層以上
解決策の具体性 実現可能で具体的な解決策を提案できているか 中堅層以上
独自性・創造性 既存の枠組みにとらわれない独自の視点やアイデアがあるか 中堅層以上
実行力・当事者意識 当事者意識・主体性 評論家的でなく、自分自身が実行する主体として論じているか 中堅層以上
実行計画の具体性 施策の優先順位・タイムライン・リソースなど実行面の考慮があるか 中堅層以上
成果へのコミットメント KPIや目標設定など、成果を測定・追求する姿勢が見られるか 中堅層以上
視座・思考の深さ 視座の高さ・全体最適の視点 部分最適でなく、全社的・経営的な視点から課題や施策を論じているか 管理職層
中長期的な視点 短期的な対処にとどまらず、将来を見据えた考察や展望ができているか 管理職層
多面的な考察と判断 メリット・デメリット・トレードオフを踏まえた議論ができているか 管理職層
影響範囲への配慮 提案が及ぼす周辺領域・関係者への波及効果まで考慮しているか 管理職層
コンプライアンス・倫理観 法令遵守の意識 関連法規やコンプライアンスへの配慮が適切になされているか 全等級共通
企業倫理・社会的責任 CSR・ESGなど企業の社会的責任に対する理解と意識があるか 管理職層
情報管理・リスク意識 機密情報の取り扱いやリスクマネジメントへの意識が見られるか 中堅層以上

3-3. 対象等級の考え方 ─ 等級に応じた項目の選び方

上の表の「対象等級」は、その項目をどの等級の試験から使うかの目安です。上位等級の試験では、下位等級の項目もすべて含めて評価します。

対象等級 どんな項目か
全等級共通 どの等級の試験でも評価する基本項目。文章力・設問対応力・企業理念の理解・コンプライアンス意識など、昇進昇格者に共通して求められる要件。
中堅層以上 主任・係長クラス以上の試験で加わる項目。専門知識の深さ、問題解決力、実行計画の具体性など、より高度な能力を測る。
管理職層 課長・部長クラスの試験で加わる項目。視座の高さ、中長期的な視点、多面的な考察など、経営層に求められる思考の質を測る。

等級に応じて、以下のように項目の選択範囲を広げていきます。出題テーマに直接関係しない項目は除外し、選択した項目の中で合計100%になるよう配点を設計します。

試験区分の例 選択対象 選択の目安
主任・係長クラス 全等級共通の項目から選択 文章力・設問対応力を中心に5〜8項目程度
課長候補クラス 全等級共通 + 中堅層以上から選択 知識・問題解決力を加え8〜12項目程度
部長候補クラス 全等級共通 + 中堅層以上 + 管理職層から選択 視座・思考の深さを加え10〜15項目程度

💡 テーマに応じた配点のコツ

たとえば「自部門の課題と解決策」がテーマなら、「課題発見力」「解決策の具体性」など問題解決系の項目を多く選んで配点を高くします。「当社の中期ビジョンへの貢献」がテーマなら、「経営理念の理解」「自社事業・戦略の把握」などの企業理解系を重視します。

なお、サンプルテストをそのまま使うだけでは、自社の等級要件や人材要件に合った評価は難しい場合があります。ラクテスを運営するサイトエンジン株式会社では、700種類以上のテストを作成してきた専門チームが、企業ごとの等級要件・出題テーマに合わせた独自の昇進昇格試験の作成を代行しています。択一式・記述式・論述式など目的に応じた出題形式の選定から、採点基準の策定まで対応可能です。作成した問題の著作権はすべてお客様に譲渡されるため、納品後の編集や問題の追加も自由に行えます。「自社でゼロからつくるのは難しい」という場合は、外部の力を活用するのも選択肢です。

⚠️ 項目の重複に注意

「論理的展開」(文章力)と「分析力」(問題解決)はどちらも「論理性」を含んでいます。前者は「文章としての論理構成」、後者は「事実やデータに基づく考察の多角性」に焦点を当てて区別してください。各項目が何を測っているかを一文で説明できなければ、統合を検討しましょう。

3-4. 5段階の評点スケール

選択した評価項目ごとに、以下の5段階で採点します。各項目の点数に配点の比率(ウェイト)を掛け合わせて総合点を算出します。

点数 レベル 判定基準の目安
5 卓越 期待水準を大幅に上回る。独自の洞察や具体的な提案があり、実務への展開が明確に想像できる。
4 優秀 期待水準を上回る。十分な知識と論理性に基づき、説得力のある論述ができている。
3 標準 期待水準を満たす。基本的な知識・論理性があり、求められる要件をおおむね充足している。
2 やや不足 期待水準をやや下回る。知識や論理性に一部不足があり、説得力に欠ける部分がある。
1 不足 期待水準を大きく下回る。基本的な理解不足や論理の破綻が見られる。

⚠️ 「3点」に集中しやすい問題

5段階で採点すると、「1点や5点をつけるのは気が引ける」という心理が働き、3点に評価が集中しがちです(中心化傾向)。これを防ぐには、次に紹介する「採点アンカー」で各点数の境目を具体的に示すことが効果的です。

3-5. 採点の目安(アンカー)をつくる

採点アンカーとは、「何が書かれていれば何点か」を各項目・各点数について具体的に書き出したものです。これがないと、同じ答案を読んでも採点者によって点数がバラバラになります。採点基準の中で最も重要な要素です。

以下は「論理的展開」という項目の採点アンカーの例です。実際の採点では、選択したすべての項目についてこのレベルのアンカーを作成します。

点数 レベル 「論理的展開」の採点アンカー例
5 卓越 主張に対して複数の根拠を提示し、根拠同士の関係(補強・対比など)も明示。想定される反論にも先回りして論じており、読み手が結論に至る過程を自然にたどれる。
4 優秀 主張と根拠が明確に対応しており、論の展開に飛躍がない。段落間のつながりも意識されている。
3 標準 主張と根拠の対応関係はおおむね読み取れるが、一部に論理の飛躍や説明不足がある。全体の流れとしては破綻していない。
2 やや不足 主張はあるが根拠が不十分、または根拠と主張の結びつきが弱い。段落間の接続が唐突な箇所がある。
1 不足 主張が不明確、または主張と根拠が対応していない。話題が飛躍し、全体として何を論じているか把握しにくい。

採点アンカーを書くときの3つのポイント

① 境界を明確にする: 特に「3点と4点の境目」「2点と3点の境目」は採点者の判断が分かれやすいところです。「ここまでなら3点、ここからは4点」と線引きできる具体的な記述を盛り込みましょう。

② テーマに応じた具体例を入れる: たとえば「自部門の業務改善」がテーマなら、「現状の数値を示したうえで改善目標を設定しているか」「改善施策の優先順位が根拠とともに示されているか」など、実際の答案で出てくる内容に即した基準にします。

③ 肯定形で書く: 低い点数の記述が「〜がない」「〜が不足」だけにならないよう、どの点数でも「何が書かれているか」を肯定的に記述すると、採点者が答案の中から該当要素を探しやすくなります。

4. 採点の進め方 ─ バラつきを防ぐ8つのステップ

採点基準をどれだけ丁寧につくっても、運用が雑だとバラつきは残ります。以下の8つのステップに沿って進めることで、採点の一貫性と公平性を確保します。

段階 工程 やること
1 採点基準表の整備 第3章で作成した評価項目・配点・採点アンカーを一覧にした「採点基準表」を作成し、採点者全員に配布する。
2 試し採点(パイロットテスト) 本番前に過去の答案や模擬答案を使って実際に採点基準表で採点してみる。「この基準だと判断に迷う」「この表現では人によって解釈が割れる」という箇所を洗い出し、基準表を改善する。
3 事前すり合わせ 採点開始前に、代表的なサンプル答案(良い答案・普通の答案・弱い答案)を全採点者で採点し、結果を突き合わせる。点数が分かれた項目について議論し、採点基準の解釈を統一する。
4 独立採点 各答案を2名以上の採点者が、互いの点数を見ずに独立して採点する。答案の順番もランダムにして、順序による影響を防ぐ。
5 食い違いチェック 2名の採点者の点数差が一定以上(例:同じ項目で2点以上の差、または総合点で15%以上の差)の答案を抽出し、第三者が再採点する。
6 一致度の測定 ICC(級内相関係数)などの指標で採点者間の一致度を数値で確認する。0.75以上を目標とし、最低でも0.7を確保する。基準を下回る項目は採点アンカーを見直す。(ICCの目安は後述)
7 偏りの補正 採点者ごとの平均点・バラつきの幅を比較し、特定の人が全体的に甘い(厳しい)傾向がないか確認する。偏りがあれば統計的な補正を行う。
8 フィードバック 採点結果全体の傾向(一致度、食い違いが多かった項目など)を分析し、採点者にフィードバックする。次回に向けた改善材料にする。

💡 最も重要なステップ

8つの中で特に効果が大きいのは、Step 2(試し採点)とStep 3(事前すり合わせ)です。研究でも、公式な研修やすり合わせを行わない場合に採点の一致度が大きく低下することが繰り返し確認されています。この2つに十分な時間をかけることで、Step 5以降の食い違いを大幅に減らすことができます。

8つのステップを社内だけで回すのが難しい場合、外部の支援を活用する方法もあります。サイトエンジン株式会社では、採点代行や採点者向けの研修、試験運用全体の事務局代行にも対応しています。「Step 2〜3のすり合わせをどう進めればいいか分からない」「採点の工数を社内で確保できない」といったケースでは、部分的に外部に任せることで品質と効率を両立できます。

4-1. 一致度の指標「ICC」について

Step 6で使う「ICC(級内相関係数)」は、複数の採点者がどれくらい同じ基準で採点できているかを0〜1の数値で表すものです。1に近いほど一致度が高いことを意味します。

ICCの値 一致度の目安 実務での対応
0.5 未満 低い 採点基準や研修の大幅な見直しが必要
0.5〜0.75 まずまず(中程度) 初回採点ではこのレンジになることが多い。すり合わせで改善を図る
0.75〜0.9 良好 昇進昇格試験の目標水準。すり合わせ後にこのレンジを目指す
0.9 超 非常に高い 理想的。採点基準と研修が十分に機能している状態

初回の採点では「まずまず(0.5〜0.75)」にとどまるケースが多いですが、事前すり合わせ(Step 3)を丁寧に行うことで0.75〜0.9(良好)に改善することが、複数の研究で報告されています。なお、ICCと合わせて「一致率」(2名の採点者が同じ点数をつけた割合)も確認しておくと、より具体的に状況を把握できます。目安として70%以上を目指しましょう。

4-2. 定性コメントの併用

数値化された採点に加え、採点者による総合所見(自由記述コメント)を併用することをおすすめします。数値だけでは捉えきれない受験者の潜在能力や成長可能性も記録できます。コメントの観点(例:「この受験者の最大の強みと改善点をそれぞれ一つ記述してください」)をあらかじめ統一しておくと、コメントの質と一貫性が高まります。

5. 採点者が気をつけたい「評価のクセ」

人が人を評価するとき、無意識のうちに判断が偏ることがあります。これを「認知バイアス」と言います。採点者がこうしたクセの存在を事前に知っておくだけでも、影響を大きく抑えることができます。

評価のクセ どういうこと? 防ぎ方
ハロー効果 文章がうまい答案を読むと、内容面の評価も引きずられて甘くなる 文章力と内容面を別々の項目として独立に採点する
真ん中に寄る傾向(中心化傾向) 「1点」「5点」をつけるのに抵抗があり、つい「3点」に集中する 各点数の具体的な目安(アンカー)を見ながら採点する。すり合わせで2・4の評点を練習する
甘辛の傾向 採点者の性格や経験により、全体的に甘い(または厳しい)採点になる 事前すり合わせで基準を統一。採点後に採点者ごとの平均点を比較する
順序効果 優れた答案の直後に読む答案が、実際より低く評価されやすい 採点する順番をランダムにする。一度に大量に採点しない
文章バイアス 文章の巧拙が内容面の評価に過度に影響する 内容面の項目を先に採点してから、文章力の項目を採点する

特に効果的な対策は「項目別一括採点」です。答案ごとに全項目を採点するのではなく、まず全答案の「課題認識」だけを一通り採点し、次に全答案の「解決策の具体性」を採点する、という方法です。ハロー効果と文章バイアスの両方を抑制でき、同じ項目について一貫した基準で判断しやすくなります。採点の負荷は増えますが、昇進昇格試験のように公平性が求められる場面では導入をおすすめします。

6. AI採点の活用可能性と注意点

ChatGPTなどの生成AIを採点に活用できないか、という関心が高まっています。2025年以降の研究では、AIが人間の採点者と中程度〜良好な一致度を示す場面も増えてきました。ただし、昇進昇格試験への導入にはいくつかの注意点があります。

6-1. AIにできること・まだ難しいこと

AIが得意なこと AIにまだ難しいこと
採点面 文章の構成チェック、誤字脱字の検出、論理の一貫性の確認 「この施策は本当に自社で実現可能か」「この人は現場を分かっているか」の判断
運用面 大量の答案を短時間で処理、一貫した基準での事前スクリーニング 組織固有の文脈を踏まえた判断、受験者への丁寧なフィードバック

6-2. 推奨される活用方法

現時点では、AIを最終的な採点者として使うのではなく、以下のような補助的な活用が現実的です。

形式チェックの自動化: 字数が足りているか、指定された形式に沿っているかなど、機械的に判定できる部分をAIに任せることで、採点者は内容面の評価に集中できます。

事前スクリーニング: 答案数が非常に多い場合、AIによる事前評価で重点的にレビューすべき答案を絞り込むことができます。

食い違い時の参考値: Step 5の食い違いチェックで、2名の採点者の評価が大きく割れた場合に、AIの採点結果を参考値として議論の材料にできます。

採点者研修の材料: AIの採点結果と人間の採点結果を比較し、採点基準の解釈を議論する材料として活用できます。

6-3. 導入時に確認すべきこと

データの取り扱い: 答案には社内情報が含まれることがあります。外部のAIサービスを利用する場合は、データの取り扱いポリシーを必ず確認してください。

バイアスへの注意: AIは特定の文体や表現パターンを優遇する傾向があり、独特な書き方をする受験者に不利に働く可能性があります。AI採点の結果は、必ず人間が確認する体制を設けてください。

受験者への説明: AIを採点プロセスに組み込む場合は、「補助的に使用していること」「最終判断は人間が行うこと」を受験者に伝えることが望ましいです。

AIのバージョン変更時: AIサービスはバージョンアップで採点の傾向が変わることがあります。更新後はサンプル答案で変化がないか確認してください。

6-4. 受験者によるAI利用への対応

受験者側がAI(ChatGPTなど)を使って答案を作成するケースも増えています。AI生成の文章は、体裁や論理構成は整っていますが、「自分の現場で何が起きているか」「具体的にどう行動するか」といった実体験に基づく記述は薄くなりがちです。

対策としては、採点基準で「自身の業務経験に基づく具体的なエピソードや数値」を高く評価する項目を設けることが効果的です。また、小論文の内容について面接で質問する仕組みを設けると、本人の理解度を確認できます。

7. まとめ ─ はじめの一歩

ここまでの内容を、実施の流れに沿って整理します。

段階 やること この記事の該当章
企画 小論文で何を測るか決める(他の評価手法との役割分担) 第1章
出題 テーマ・字数・時間・実施方法を決める 第2章
基準づくり 全体メニューから項目を選び、配点・スケール・アンカーをつくる 第3章
採点 8つのステップに沿って公平に採点する 第4章
品質管理 認知バイアスに注意し、ICCで一致度を確認する 第4〜5章
改善 結果を分析し、次回の基準・運用に反映する 第4章 Step 8

完璧な採点基準を最初からつくることは難しく、その必要もありません。大切なのは、「つくる→試す→直す」のサイクルを回すことです。Step 2(試し採点)の段階でうまくいかない部分が見つかれば、本番前に修正できます。

小論文試験は、上長評価や面接と組み合わせることで、昇進昇格の判定をより多角的で納得感のあるものにしてくれます。この記事が、その第一歩の助けになれば幸いです。


昇進昇格試験の設計・運用でお困りですか?

サイトエンジン株式会社が運営するラクテスでは、昇進昇格試験に使える800種類以上のサンプルテストをご用意しています。すべて編集可能で、出題範囲を組み合わせてすぐにご利用いただけます。

さらに、700種類以上のテストを作成してきた専門チームによる独自試験の作成代行も承っています。ヒアリング・要件定義から構成案作成、問題作成、修正・最終確認まで、ワンストップで対応します。

  • 出題設計・採点基準の策定(択一式・記述式・論述式など多様な形式に対応)
  • 採点の代行
  • 採点者向けの研修(すり合わせの進め方、認知バイアス対策など)
  • 試験運用の事務局代行(受験者への案内・答案回収・スケジュール管理など)
  • 作成した問題の著作権はすべてお客様に譲渡
  • ISMS(ISO/IEC 27001)取得済み・秘密保持契約(NDA)にも対応

「サンプルテストをまず試したい」「独自の昇進昇格試験をつくりたいが社内にノウハウがない」など、お気軽にご相談ください。

ラクテスのサンプルテストを見る テスト作成代行について相談する

※ 本記事の内容は一般的な実務ガイドです。評価項目の選定・配点設計・採点アンカーの作成は、貴社の人事制度・等級要件・出題テーマに合わせたカスタマイズが必要です。上長評価や面接評価との配点バランスを含めた総合的な評価体系の設計についてもご相談ください。

page top