1on1×研修×テストを連動させる育成設計法

1on1×研修×テストを連動させる育成設計法

研修予算は確保した。1on1も導入した。eラーニングのプラットフォームも入れた。──それなのに、「この投資でどれだけ人が育ったのか」と経営層に聞かれると、即答できない。こんな状況に心当たりはないでしょうか。

厚生労働省の令和6年度調査によると、能力開発に何らかの問題を感じている事業所は79.8%。産労総合研究所の調査では従業員1人あたりの教育研修費用は平均32,943円で、1,000人規模なら年間約3,300万円に達します。問題は投資額の多寡ではなく、それだけ投じていながら効果を証明する手段を持っていないことです。

本記事では、多くの企業がすでに導入している1on1ミーティング・研修(Off-JT)・筆記試験(アセスメント)の3つを歯車のように噛み合わせることで、学びの定着と行動変容を飛躍的に高める設計法を、学術的エビデンスと企業事例をもとに解説します。

📌 この記事で分かること

・「研修だけ」「1on1だけ」「テストだけ」では成果が出ない構造的な理由
・テストを受けること自体が学習を促進する「テスト効果」の科学的根拠
・17の研究をまとめて判明した1on1の効果と、「効かないやり方」の特徴
・ニトリHD・カネカ・KDDI等の実践事例と、中小企業への応用例
・6か月で回せる設計図、標準タイムライン、概算コスト
・1on1が失速する4パターンとその処方箋
・導入3ステップ、KPIテンプレート、チェックリスト

目次

1. なぜ今、キャリア開発の「仕組み化」が必要なのか

1-1. 数字が語る「やりっぱなし」の現実

冒頭の数字をもう少し掘り下げます。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、Off-JT受講率は37.0%にとどまり、キャリアコンサルティングを実施していても「効果が見えにくい」(37.4%)という声が目立ちます。

国際比較のデータはさらに厳しい現実を映します。OECDのPIAACデータでは、日本の仕事関連訓練への参加率は35%。デンマークやニュージーランドの55%と20ポイントもの開きがあります。日本企業は研修に「参加させている」つもりでも、国際的に見ると学びの機会そのものが限られているのです。

出典:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(2025年)/JILPT「企業のキャリア形成支援施策導入における現状と課題」労働政策研究報告書 No.223(2023年)

1-2. 「研修だけ」「1on1だけ」「テストだけ」では動かない

なぜ単体施策ではうまくいかないのか。研修(Off-JT)は知識の「供給」に強い反面、学んだことが職場で使われる割合は時間とともに急速に下がっていきます。1on1ミーティングは内省と対話の「場」として強力ですが、議題も基準もなければ「最近どう?」で始まる手応えのない30分になりがちです。筆記試験(アセスメント)は現状把握に有効でも、「点数が出て終わり」では行動変容に結びつきません。

それぞれに固有の強みと限界がある。だからこそ、組み合わせが必要です。

1-3. 3要素の「役割分担」を知れば設計図が見える

3施策を組み合わせる発想は、実はシンプルです。

施策 役割 何を実現するか
アセスメント(筆記試験) 個別最適化の起点 「誰が」「何を」「どのレベルで」学ぶべきかを可視化する
研修(Off-JT) 知識・スキルの供給 診断結果に基づいて必要な学びを提供する
1on1ミーティング 振り返りと実践の支援 学びを振り返り、職場実践の障害を取り除き、次の一歩を決める

この3要素を「診断→学習→対話→再診断」のサイクルとして回すことで、個々の施策ではカバーしきれない「学びの定着」と「行動変容」が生まれます。便宜上、本記事ではこの三位一体の仕組みを「トライアングル育成」と呼ぶことにします。特別な手法ではなく、すでに多くの企業が持っている3つのピースを正しく組み合わせるだけのことです。

ここで一度、自社の現在地を確認してみてください。

🔍 自社チェック:「育成の三点セット」は噛み合っていますか?

□ 研修の効果を「満足度アンケート」以外の方法で測定している
□ 1on1で「研修で学んだことを職場でどう使ったか」を定期的に話している
□ テスト結果を、次の研修テーマや1on1の議題に反映する仕組みがある
□ 研修・1on1・テストの3施策が、同じキャリア目標に紐づいている
□ 経営層に「研修投資の回収率」を定量的に報告できる

3つ以上チェックできたなら、かなり先進的です。1つ以下なら、3つのピースはあるのに噛み合っていない状態。次章以降の設計法で大きな改善余地があります。

2. なぜこの組み合わせが効くのか:3つのエビデンス

社内で施策を提案するとき、「なぜこの組み合わせなのか」を端的に語れることが武器になります。押さえるべきエビデンスは3つだけです。

2-1. テスト効果:試験は「評価」ではなく「学習促進装置」

人事担当者にとって最も意外な事実から始めます。テストを受けること自体が、学習効果を高める。これは「テスト効果」と呼ばれ、過去20年の教育心理学で繰り返し確かめられてきた、最も信頼性の高い発見の一つです。

具体的には、こんなことがわかっています。

・研修後にテストを受けたグループは、同じ時間を復習にあてたグループより、1週間後の記憶保持率が大幅に高い
・繰り返しテストを受けることで、長期記憶への定着が2倍以上に改善する
・まだ学んでいない内容でも、事前にテストを受けるだけで、その後の学習効果が上がる(プレテスト効果)

いずれも複数の実験で何度も確かめられており、研究者のあいだでは「まず間違いない」とされている結論です(詳細は巻末の参考文献4〜6を参照)。

つまり研修前のテストは「今の力を測る」だけでなく、「これから学ぶ準備をする」効果も持ちます。研修の前後にテストを組み込むことで、テストは「点数をつける装置」から「記憶を定着させるエンジン」に変わります。

2-2. 研修転移:学んだことが「教室の外」で使われる条件

研修転移の研究が繰り返し示しているのは、研修の効果を左右するのは研修そのものの質よりも「研修後の職場支援」だということです。上司が学びの実践を後押しするか、職場に試行錯誤を許す雰囲気があるか。学んだことが忘れ去られるかどうかは、ここで決まります。

「研修+コーチング」の二段構えが定着を助けることも、複数の研究で裏づけられています。つまり、1on1を「研修後のフォロー」として明確に位置づけることがカギです。「研修で学んだフレームワーク、先週の商談で使ってみた?」と問いかけるだけで、定着率は大きく変わります(参考文献9〜11)。

2-3. 1on1の効果とその条件

17の研究をまとめて分析した結果、職場での1on1コーチングには明確な効果があることがわかっています。注目すべき点が2つあります。対面とオンラインで効果に大きな差がないこと、つまり1on1はリモートでも十分機能すること。そして効果を左右するのは面談の「回数」よりも「誰が何をいつ確認するか」というフォローの仕組みだということです。

一方で、「1on1やメンタリングをやりさえすれば効果が出る」わけではないことも、別の大規模な研究で示されています。「どう設計するか」で結果が変わる。ここにテストが効きます。テスト結果という「共通の地図」があることで、1on1の対話は「最近どう?」から「この領域の得点が伸びたのはなぜだと思う?」に変わり、内容の密度が上がるのです(参考文献7〜8)。

📌 稟議書に書ける「3行の根拠」

①テスト効果:受験すること自体が記憶の定着を助ける(複数の心理学研究で確認済み)
②研修転移:研修後に上司がフォローするかどうかが、効果の最大の分かれ目
③コーチング効果:1on1には明確な効果あり。ただし回数より「仕組み」が重要

この3点をテスト×1on1×研修で同時に押さえるのがトライアングル育成の設計思想です。

3. 実践事例:何が、どう変わったのか

理論だけでは「うちでもやろう」にはなりません。ここでは、各社が公開している統合報告書・採用サイト・ESG情報などをもとに、トライアングル育成に近い設計で成果を出している企業の取り組みを整理します。導入前の課題→何をやったか→どんな成果が出ているかの流れで見ていきましょう。

※ 以下の事例は各社の公開情報に基づく筆者の分析であり、当社が各社の取り組みに関与したものではありません。

3-1. ニトリHD:1on1×キャリアプラン×配転教育の統合運用

出典:ニトリ採用サイト「人材教育」ニトリHD統合報告書2025

背景:ニトリHDは「2032年に3,000店舗」という成長戦略を掲げ、それを支える人材の多能工化が経営課題でした。単一スキルの深掘りではなく、複数の職務を横断できる人材をどう育てるか。

取り組みの概要:採用サイトや統合報告書によると、全社員に対して1on1+キャリアカウンセリングを実施し、半期ごとのキャリアプラン提出を義務化。さらに計画的な配転教育(数年ごとの異動)を組み合わせ、キャリアプランの実現と組織ニーズのマッチングを1on1で継続的にすり合わせています。

ポイント:「キャリアプラン提出」がテストに相当する可視化機能を果たし、1on1がその解釈と実行支援を担い、配転教育が学びの機会を供給する。3点セットを半期サイクルで回し続ける仕組みが、同社の人材育成の核になっています。

3-2. カネカ:1on1×研修投資×DX試験で「人の心に火をつける」

出典:カネカ ESG「1on1を柱とした人材育成」

背景:化学メーカーであるカネカは、デジタル化への対応と次世代リーダーの計画的育成という二つの経営課題を抱えていました。現場の技術力だけでは競争優位を維持できない時代に、全社的な人材育成の仕組みが求められていました。

取り組みの概要:ESG情報によると、2018年度に1on1を全社導入し、上司がメンバーの中長期育成イメージを持って具体的にフィードバックする仕組みを構築。2023年度からは部門長・メンバー向けワークショップも開始し、1on1の質向上に研修費用を約2倍に拡充しました。さらに全社員向けにIT・DXリテラシー教育と大規模試験を導入し、スキルの可視化を進めています。OFF-JTへの投資は2027年度に3億円(2022年度比1.5倍)とする計画です。

ポイント:1on1が「日々のマネジメントそのもの」と位置づけられ、研修とDX試験が1on1の対話の質を支えている点がトライアングル育成の構造そのものです。試験で現在地を可視化し、研修で知識を補い、1on1で成長の方向を擦り合わせるサイクルが、経営層のコミットメント(次世代リーダー塾には会長・社長が全セッション参加)によって駆動されています。

3-3. 先進企業の人的資本開示に見る「3点セット」

統合報告書や公開資料を見ると、上記以外にも3要素を同居させるケースが増えています。

企業 取り組みの核 出典
KDDI KDDI版ジョブ型人事制度の中で1on1による成果・キャリアのすり合わせ+30専門領域の階層別研修 KDDI採用サイト
SCSK 「iCDP」19職種の専門性認定制度+上司との中長期キャリア共有 人材育成
静岡FG 1on1ミーティング導入+行内資格認定制度の新設+研修体系の刷新 統合報告書日銀提出資料

「研修をやっています」だけでなく、「診断→学習→対話→可視化のサイクルを回しています」と投資家に語れることが、人的資本経営の説明力を高めています。

3-4. 中小企業への応用:神奈川県リスキリング事業の実証

出典:神奈川県リスキリング人材育成事業成果報告書(PDF)

「大企業だからできるのでは」という疑問に先回りしておきます。神奈川県が中小企業向けに実施したリスキリング事業は、参加企業の多くが従業員50人未満。専任の人材開発担当者もいないケースが大半でした。

取り組みの概要:事業サイトおよび成果報告書によると、DXスキル診断(事前)→個別最適化した学習カリキュラムの策定→オンライン学習(60時間)+月1回程度のオンライン実践ゼミ(現場の実務家が講師)→ラーニングパートナーによる月1回の面談で学習進捗を伴走支援→振り返り、という流れで実施。トライアングル育成の構造そのものです。

結果:成果報告書では、参加企業が実際にDXプロジェクトを立ち上げ、社内システムの刷新やSNSマーケティングの改善、データ分析による営業力向上など、具体的な業務成果を挙げた事例が多数紹介されています。ラーニングパートナーとの月1回の面談(1on1に相当)が学習継続の鍵となり、参加者からは「学びを実行に移すスピード感が上がった」「社内全体でDXを進められた」といった声が報告されています。

専任担当者がいなくても「診断→学習→面談→可視化」のパッケージが整っていれば回せる。トライアングル育成は規模を問わず機能します。

3-5. 活用できる公的制度

厚生労働省の「セルフ・キャリアドック」は、キャリアコンサルティング面談とキャリア研修を組み合わせた体系的な支援の仕組みで、トライアングル育成はここにアセスメントを加えた発展形と位置づけられます。厚労省のお墨付きがある枠組みをベースにしている点は、社内稟議の際に後ろ盾になります。

また、Off-JTとOJTを組み合わせた訓練は人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の対象になる場合があります。テスト結果を効果測定の根拠として助成金申請に活用することも可能です。

出典:厚生労働省「変化する時代のキャリア開発の取組み(事例集)」/厚生労働省「人材開発支援助成金パンフレット

4. 「トライアングル育成」の実践設計

ここから具体的な設計に入ります。全体フロー、タイムライン、各施策の設計ポイント、そして導入に必要なコスト感を順に示します。

4-1. 全体フロー:診断から始まり、対話で回す

ポイントは、テストが3回入ること(プレ・ポスト・フォローアップ)、そして1on1も3回構造化されていることです。「研修を受けて終わり」がそもそも構造的に起こりえない設計です。

順序 施策 目的
事前アセスメント(知識テスト+スキル診断) 現状スキルの可視化、個別課題の特定
1on1①(診断結果の解釈+学習計画策定) 本人Willと組織Needの擦り合わせ
研修+理解度チェック(小テスト) 知識・スキルのインプット+研修中の理解度チェック
事後テスト(ポストテスト) 理解度の測定+テスト効果による学習強化
1on1②(省察+職場実践の障害除去) テスト結果をもとに振り返り、次のアクション設定
実践(OJT) プロジェクト配置等での学びの適用
フォローアップテスト(間隔をあけた反復テスト) 定着度確認+長期記憶への定着促進
1on1③(成果の振り返り+次サイクル設計) 結果の振り返り、配置・次学習への意思決定

4-2. 6か月タイムライン:現場が動ける粒度で

時期 施策 実施のポイント
第0〜2週 ベースライン診断(スキル診断・知識テスト) オンラインテストで事前テストを実施。「今の自分を知る」ことが出発点
第2〜4週 1on1①(キャリア対話+学習計画策定) テスト結果を対話の起点に。「何を学ぶか」を本人と合意する
第1〜4か月 研修(オンライン中心+月1回の集合ゼミ) 理解度チェック(小テスト)を組み込む
第2〜5か月 1on1②(隔月〜毎月の転移支援面談) 「研修で学んだことを職場でどう使ったか」を対話の軸にする
第5〜6か月 事後評価(再テスト・成果レビュー) オンラインテストで伸び率を測定。数値で「変化」を可視化
第6か月 1on1③(学習効果の解釈+次サイクル設計) 配置転換や次の学習テーマへの意思決定につなげる

留意すべきは1on1②の期間です。研修期間中に月1回以上の1on1を設けることで、学びが「研修の教室」と「日常の職場」を行き来する流れが生まれます。金曜日の研修で学んだフレームワークを月曜日から使い始め、翌週の1on1で「使ってみてどうだったか」を振り返る。この反復こそが転移を生むのです。

4-3. 概算コスト:「いくらかかるのか」を経営に示す

大企業の人事が稟議を通すとき、最初に聞かれるのは「で、いくら?」です。以下は対象者50名・6か月間のパイロット運用を想定した概算です。

項目 概算費用(50名) 備考
オンラインテストツール 月額数千円〜数万円 SaaS型テストツールの利用料。プレ・ポスト・フォローアップの3回実施
テスト問題の設計・作成 20〜50万円 自社作成なら人件費のみ。外部委託の場合の相場
研修(外部講師・eラーニング) 50〜200万円 テーマ・形式・回数で大きく変動。既存の研修があれば追加コスト不要
1on1の人件費(管理職の工数) 約75万円 1回30分×3回×50名=75時間。管理職の時間単価1万円で計算
人事部門の企画・運営工数 約50万円 担当者0.2人月×6か月として概算
合計(パイロット50名・6か月) 約200〜400万円 1人あたり4〜8万円。既存研修がある場合はさらに圧縮可能

産労総合研究所の調査による1人あたり教育研修費用の平均(約3.3万円)と比較すると、やや上回る水準です。ただしこれは「効果測定の仕組みを内蔵した投資」です。従来の研修が「効果不明の3.3万円」だったのに対し、トライアングル育成は「効果を数値で示せる4〜8万円」。経営層への説明ではこのフレーミングが重要です。

💡 コストを抑える3つの工夫

(a) 既存研修に「テスト+1on1」を後付けする:研修自体を新規開発せず、いま実施している研修にプレ/ポストテストと1on1を追加するだけでも効果が出る
(b) 助成金を活用する:人材開発支援助成金(人材育成支援コース)で研修費用の一部をカバーできる場合がある
(c) オンラインテストツールで運用を効率化:自動採点・即時フィードバックにより、テスト実施の人件費を大幅に削減できる

4-4. 筆記試験の設計ポイント

テストを「やらされるもの」から「成長のエンジン」に変えるために、以下の設計原則を押さえましょう。

プレテスト(研修前)は2つの目的を持ちます。ベースラインの測定と、「事前に問題を見ておくだけで、その後の学習効率が上がる」というプレテスト効果の活用です。「この問題は答えられなかった」という経験が、研修中の注意を鋭くします。

ポストテスト(研修直後)は理解度の確認に加え、テスト効果による記憶の再強化を担います。研修内容とテスト内容が直結していることが必須です。研修で扱わなかった内容が出題されると、学習者の信頼感が損なわれます。

フォローアップテスト(1〜4週間後)が真の差を生みます。間隔をあけた反復テストは長期記憶への定着を劇的に高めます。このタイミングは1on1②と連動させるのが理想です。テスト結果を手元に置きながら「この領域は定着しているけど、こちらはまだ弱い」と対話を進められます。

テスト形式は、記述式のほうが「自分の言葉で考える」ぶん記憶に残りやすいですが、運用負荷を考えると選択式と記述式の組み合わせが現実的です。オンラインテストツールを活用すれば、出題・採点・結果分析を効率化できます。

4-5. 1on1の設計ポイント:「失速パターン」を知っておく

1on1は導入こそ容易ですが、定着が難しい施策です。大手メーカー管理職へのインタビュー調査やコーチング設計の研究から浮かび上がる典型的な失速パターンと処方箋を整理します。

失速パターン 現場で起きていること 処方箋
①管理職間の実施ばらつき ある部署では毎週30分の濃い対話、別の部署では四半期に1回の形式的面談 議題テンプレートの整備+上司向け1on1トレーニング。「テスト結果のどこを見るか」を標準化する
②「うちは既にやっている」認識 日常の業務打ち合わせと「キャリアについて考える対話」の区別がつかない 1on1の目的を「振り返りの支援」と「研修で学んだことの実践フォロー」に絞る管理職向け研修
③時間リソース不足 プレイングマネジャーが「1on1の時間が取れない」と訴える テスト結果を起点にすることで、短時間でも内容を濃くする。目的を「研修後フォロー」と「診断結果の解釈」に絞り込む
④面談回数のKPI化→形骸化 「月1回実施率100%」を目標に、10分で終わる形式的面談が量産される 回数ではなく「フォロー設計の質」をKPI化。誰が・何を・いつ確認するかを明確にする

4-6. 研修の設計ポイント:「イベント」から「サイクルの一部」へ

研修設計で最も重要なのは、テストと1on1との接続を前提にすることです。研修内容はテスト問題に反映される。テスト結果は1on1で解釈される。1on1で設定した課題は次の研修テーマになる。この循環を前提にカリキュラムを設計することで、研修は「単発イベント」から「成長サイクルの一部」に変わります。

具体的には、研修を「テスト可能な単位」で設計するのがコツです。Day1は○○、Day2は△△と分け、対応するテスト問題を用意できる粒度にする。研修で深く扱ったトピックがテストに出ず、軽く触れただけの内容が出題されていた。こうしたパイロット運用でよく起きる「ずれ」を防ぐには、研修とテストを同時に設計するプロセスが不可欠です。

5. KPI設計と導入ステップ

5-1. カークパトリックモデル×二点観測

研修効果の可視化で共通言語になるのがカークパトリックの4段階評価モデルです。多くの企業がLevel 1の満足度アンケートで止まっていますが、トライアングル育成ではテストがLevel 2を、1on1がLevel 3をカバーし、効果の可視化をLevel 3まで一気に引き上げます

Level 評価層 指標例・測定方法 トライアングル育成での位置づけ
1 反応(Reaction) 研修満足度アンケート 研修で測定
2 学習(Learning) テスト得点・合格率・伸び率(プレ→ポスト→フォローアップ) ← テストがカバー
3 行動(Behavior) 上司評価、職場実践の頻度(1on1記録・360度評価) ← 1on1がカバー
4 成果(Results) 業績データ・KPI分析、キャリア自律指標 長期的な事業成果として測定

5-2. 導入初期のKPI候補

初年度から精緻なKPIを追おうとすると現場が疲弊します。まずは以下の4指標から始めましょう。

No. 指標 目安・ポイント
1 参加満足度 「満足」+「とても満足」の合計。目安:80%以上
2 業務有用性 「役立つ」+「大いに役立つ」の合計。目安:85%以上
3 挑戦意欲・学習継続意欲 「今後も学びたい」と回答した割合
4 テスト得点の伸び率 事前→事後→フォローアップの3点推移。「伸び」は個人の成長を可視化する最も強力な指標であり、1on1での対話の起点になる

5-3. 導入3ステップ

Step 1:設計と準備(1〜2か月目)。対象者とテーマを選定します。全社一斉ではなく、特定部署やテーマ(「新任マネジャーのリーダーシップ」「全社DXリテラシー」など)に絞ったパイロット運用から始めるのが現実的です。テストの設計と1on1の議題テンプレートの準備を並行して進めます。

Step 2:パイロット運用(3〜4か月目)。小規模チームで❶〜❽のフルサイクルを回します。この段階の目的は完璧な運用ではなく、プロセス上の課題を洗い出すことです。「テスト問題と研修内容がずれていた」「1on1の時間配分が合わなかった」。こうした調整ポイントはパイロットでしか見つかりません。

Step 3:データ分析と全社展開(5〜6か月目)。パイロットの結果を分析し、KPIの達成度と課題を整理します。経営層への報告では「テスト得点がこう変化し、1on1で確認した職場での行動にこういう変化が見られ、中期的にはこういう成果につながる」というストーリーで語ると説得力が増します。

5-4. チェックリスト

💡 トライアングル育成の最小要件チェックリスト

(a) アセスメントの定義:何を、どのレベルで測るかを明確にする。測定対象が曖昧だとテスト結果の解釈も曖昧になる
(b) 1on1の議題と記録のテンプレート化:「テスト結果の確認」「研修で学んだことの実践状況」「次のアクション」の3項目を最低限の議題にする
(c) 研修カリキュラムの粒度設計:テスト可能な単位で研修を設計する(Day1:○○、Day2:△△と分け、対応するテスト問題を用意できる粒度にする)
(d) 評価ポイントの固定:事前・事後・フォローアップの3回のテストタイミングを決めておく。固定しないと運用が属人化しデータ比較ができない
(e) テスト効果の意義の共有:上司(1on1実施者)に「テストは部下を評定するためではなく、学びを定着させるためにある」という認識を浸透させる

6. まとめ:「測る」から「育てる」へ

冒頭のセルフチェックに戻ります。5つの項目のうち、この記事を読む前と後で、チェックできる数は変わったでしょうか。

「研修をやりました」「1on1を始めました」「テストを導入しました」。そう報告できる企業は多い。しかし、3つが噛み合って回っている企業はまだ少ない。だからこそ、今この設計に取り組むことが、人材育成における明確な差別化になります。

📌 トライアングル育成が同時に満たす3つの目的

①学習の個別最適化:テストによる診断と対象者別研修設計
②学習の職場実践(転移)の促進:1on1による研修後フォロー
③効果測定の明確化:テストデータと1on1記録による可視化

まずは一つの部署、一つのテーマから。筆記試験の設計と実施、結果の分析と共有、そして1on1での対話の起点づくりを、オンラインで効率的に始めてみてください。

参考文献

No. 資料名 内容
1 古田克利(2023)「1on1ミーティングの頻度と仕事の成果の関係」『デザイン科学研究』Vol.2 1on1の頻度がワーク・エンゲイジメントを介して仕事の成果に影響するJD-Rモデルによる実証
2 「1on1ミーティングの実施・定着における現状と課題」『キャリアカウンセリング研究』(2023)第24巻第2号 大手メーカー管理職9名へのインタビュー。1on1定着の条件
3 「キャリア自律と転機経験・仕事経験からの学び」『産業・組織心理学研究』(2016) キャリア自律に影響する要因として、上司との垂直的交換関係の重要性を実証
4 Roediger & Karpicke (2006) “Test-Enhanced Learning.” Psychological Science テスト効果の代表的実験。1週間後の記憶保持率がテスト群で大幅に上回る
5 Karpicke & Roediger (2007) “Repeated Retrieval During Learning.” Journal of Memory and Language 繰り返しテストが長期記憶保持を100%以上改善
6 Richland, Kornell & Kao “The Pretesting Effect” 事前テストが学習効果を高める「プレテスト効果」の検証
7 Jones, R.J. et al. (2016) “The Effectiveness of Workplace Coaching: A Meta-analysis” 職場コーチングのメタ分析(17研究統合)。統計的に有意な正の効果を確認。対面/ブレンデッドの形式差は小さい
8 Eby, L.T. et al. (2008) “Does Mentoring Matter? A Multidisciplinary Meta-Analysis” メンタリングは幅広いアウトカムと関連するが、効果量は概して小さい。制度設計の質が鍵
9 Tonhäuser, C. et al. (2016) “Determinants of transfer of training” 研修転移は時間とともに低下。個人・職場環境・支援要因が決定因
10 Martin, H.J. (2010) “Improving Training Impact Through Effective Follow-Up” 研修直後でなく「研修後の職場支援」で差が出る。マネジャー行動の重要性
11 Thach, E.C. (2002) “The impact of executive coaching and 360 feedback” 360フィードバック+コーチングの6か月プロセスでリーダーシップ改善。フォロー頻度と成果が相関
12 厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(2025年) OFF-JT受講率37.0%、能力開発に問題ありとする事業所79.8%
13 JILPT「企業のキャリア形成支援施策導入における現状と課題」(2023年) キャリアコンサルティング経験者11.2%。企業規模・年齢構成との関連
14 神奈川県「リスキリング人材育成事業」成果報告書(PDF) 満足度・業務有用性ともに高評価。参加企業の多くが従業員50人未満の中小企業
15 厚生労働省「変化する時代のキャリア開発の取組み(事例集)」 SCSK等のキャリア開発先進企業の事例。専門性認定制度、iCDP等

トライアングル育成の「テスト」と「1on1」、どちらから始めますか?

本記事で紹介した設計を実行に移すには、テストの仕組みづくり1on1の質の担保が出発点になります。ラクテスでは、それぞれの課題に合わせた2つのサービスを提供しています。

🔧 テストの仕組みをつくる

ラクテスは、研修前後の理解度テスト・スキル診断をワンストップで作成・運用できるオンラインテストツールです。自動採点、カテゴリ別スコアの可視化、設問プールの蓄積・再利用に対応。テスト問題の作成代行や専門家監修も承ります。

ラクテスのサービスを見る

🗣 1on1の質を外部で担保する

「上司のスキルに左右される」「本音を引き出せない」──こうした1on1の課題には、社外の専門家による1on1代行という選択肢があります。キャリアコンサルタントや産業カウンセラーが対話を担当し、エンゲージメント診断と掛け合わせて効果を数値化します。

社外1on1×診断の詳細を見る

なお、ラクテスを運営するサイトエンジン株式会社では、企業向け研修の実施オリジナル研修の企画開発・制作代行も行っています。テスト・1on1・研修を一貫して設計したいというご要望にもお応えできますので、あわせてご相談ください。


※ 本記事の内容は2026年2月時点の公開情報および学術論文に基づいています。

page top