社員の行動特性に着目した「コンピテンシー評価」を活用すると、公正な評価や客観的分析に基づいた人材育成が可能です。能力やスキルを抽象的に判断することなく、人事や社員にとって納得しやすい評価方法です。
コンピテンシー評価の作成手順やメリット・デメリットについて、詳しく解説します。
コンピテンシー評価とは
コンピテンシーとは、組織において高い成果を上げる人(ハイパフォーマー)に共通する行動特性を指します。さらに、優れた成果に結びつく行動や思考を選定して、その基準に沿って評価する方法が「コンピテンシー評価」です。この方法では「どの行動が仕事の結果に影響しているのか」といった表層的な要素だけでなく「なぜ社員がその行動をしたのか」という考え方などについても評価します。評価項目が具体的で、人事や上司は公正かつ客観的な評価を下すことができるため、社員が評価に納得しやすいメリットがあります。
コンピテンシー評価と混同しやすい評価方法が、職能資格制度(能力評価)です。職能資格制度とは、社員の能力やスキルを判断する評価方法で、長期的な人材育成のために活用されます。職能資格制度は「責任感」「協調性」「積極性」などの抽象的な基準を用いるため、コンピテンシー評価と比べて客観的な判断が難しい方式です。
また職能資格制度では、一度、遂行能力が評価されると、能力の低下や技能の喪失に伴って再評価されることがないため、年功序列に陥りやすい難点があります。これにより、実際には給料に見合った成果を上げていない従業員が高い評価を得続けるなど、公平性に欠けた運用となることが少なくありません。
従来は多くの日本企業が職能資格制度を導入していて、客観的な評価ができず社員の専門性が適切に評価されない課題がありました。これに対し、1990年代以降、客観的に社員を評価できる方法としてコンピテンシー評価が注目されました。
実際には、2000年ごろに大企業を中心に導入され始め、社員が納得できる評価方法として浸透しつつあります。
コンピテンシー評価の項目における6つの作成手順
コンピテンシー評価項目の作成手順は、以下の6ステップです。
1. コンピテンシー評価項目を洗い出す
まずは評価項目を決める準備として、候補を洗い出します。優秀な社員の行動や考え方、他社の導入事例などを参考にして評価項目の候補をなるべく多く挙げましょう。
あとから取捨選択するため、項目のひとつずつに時間をかけて検討する必要はありませんが、客観的に評価可能で内容に具体性のある項目を作成します。加えて、企業のビジョン(目指すべき理想の目標)や経営理念などの方向性に沿うことを意識し、実務で役立つ評価項目を作成します。先入観や固定概念に縛られず、企業のビジョンに合致する独自の内容を考えましょう。
2. コンピテンシー評価モデルを設定する
評価項目を作成する際、企業が求める人物像のモデル「コンピテンシー評価モデル」の設定が大切です。設定したモデルは、評価項目の基礎になります。評価モデルには「理想型モデル」「実在型モデル」「ハイブリッド型モデル」の3つがあります。
理想型モデル
理想型モデルは、企業が求める理想的な人物像を想定して設定したものです。経営方針やビジョンに沿って理想とするモデルを想定し、評価項目の細部を具体的に作成します。理想型モデルは、企業の特色に合わせて評価項目を決めるため、比較的簡単に作成できるメリットがあります。また、モデルとする人物がいなくても設定できるため、現状の組織に理想とする社員がいない場合に有効です。ただし、作成した内容が現実とかけ離れてしまう可能性がある点に注意しましょう。
実在型モデル
実在型モデルは、実際に仕事で成果を上げている社員を参考にして設定します。実在する人物を参考にするため、企業の実情に合ったモデル設定が可能です。実在型モデルでは、企業にいるハイパフォーマーから考え方をヒアリングしたり、行動を観察したりして設定します。このとき、どのような行動や思考が成果に結びつくのかを詳細に分析し、行動特性を正しく把握することが重要です。抽出した行動特性のうち、ほかの社員が再現しにくい、企業の業績アップに結びつかない要素を選定し、項目から省きましょう。
ハイブリッド型モデル
理想型モデルと実在型モデルを組み合わせて、それぞれのメリットを活かしたものがハイブリッド型モデルです。まず実在型モデルで評価項目を設定し、参考にした社員に足りない行動特性を理想型モデルで補います。
このモデルは社員全員にとって効果的であり、企業全体の成長が見込めます。例えば、実在型モデルのみで作成した評価項目では、すでに能力のある社員のスキルアップや自己成長につながりません。ハイブリッド型モデルでは、ハイパフォーマーにとっても足りない項目も補完できるため、能力にかかわらず意義をもち、また現実に即した範囲での理想をモデル化するため乖離が起きにくいメリットがあります。
3. ハイパフォーマーを分析し項目を抽出する
コンピテンシー評価項目を作成するために、高い生産性をもち成果を上げている社員を選びます。参考になる社員が企業にいる場合、実際の行動を観察・分析して、評価項目を抽出しましょう。ここでは、基準にする社員の行動だけでなく「なぜその行動をするのか」といった考え方が重要です。したがって、ハイパフォーマーに直接ヒアリングし、行動や考え方に関するデータを収集します。ヒアリングの内容としては、以下の例が挙げられます。
・良い成績を出すために、どのように行動したのか
・なぜその行動をしようと考えたのか
・どのようなことを考えて仕事に取り組んでいるのか
・行動する前にいくつかの選択肢で比較検討したか
実際の行動内容の把握に加えて、行動理由を聞き出すことでハイパフォーマーの思考を把握できます。この分析結果はコンピテンシー評価項目に大きく影響するので、ヒアリングや分析に時間をかけて、正確に把握することが重要です。
4. コンピテンシー・ディクショナリーを活用する
組織にハイパフォーマーにある人材がいない場合、理想型モデルを設定します。コンピテンシー評価項目の作成時に「コンピテンシー・ディクショナリー」を活用すると、理想型モデルの項目を細かく設定できます。コンピテンシー・ディクショナリーは評価項目を絞り出す際に使用され、評価項目が体系的に整理されたものです。下記6つを大きな領域として、20以上の項目に分類できます。
・「達成・行動」:達成思考やイニシアチブ、情報収集など
・「援助・対人支援」:対人理解、顧客支援志向など
・「インパクト・対人影響力」:組織への理解、関係構築など
・「管理領域」:他者育成や指導、チームワーク、チームリーダーシップなど
・「知的領域」:分析的志向や概念的志向、技術的専門性など
・「個人の効果性」:自己管理や柔軟性、組織コミットメントなど
前述した通り、評価項目を作成する際には企業の実態に即したものを選定することが大切です。コンピテンシー・ディクショナリーをヒントにしつつ、企業の経営理念やビジョンに応じて、臨機応変に評価項目を設定しましょう。
5. 企業の方向性とコンピテンシー項目を照らし合わせる
はじめのステップで洗い出した評価項目が、企業のミッション(存在意義)やビジョン、バリュー(社員の思考や行動指針)に沿っているかを確認します。またハイパフォーマーの行動分析やヒアリング結果から抽出した評価項目も、企業のビジョンと照らし合わせましょう。
企業が目指している方向性に合わない評価項目が含まれていると、コンピテンシー評価が実務で機能しなくなるため、ひとつずつ慎重に厳選する必要があります。
また、経営層とのすり合わせも重要です。経営者との意見と食い違った場合は、評価項目を選定した背景や、企業が達成すべき項目を再確認します。最終的に、現場と経営層の意見が一致すれば、評価項目の選定は完了です。
なお、組織を取り巻く状況や経営方針の変化に伴って、評価すべき項目は変化します。また、十分に検討して作成しても、必ずしも項目が業績向上に直結するとは限らないため、運用しながら改善を続けていきましょう。長期的に企業の方向性を現場とすり合わせていくことで、高い効果を発揮する評価項目を構築できます。
6. モデル化したコンピテンシーにレベル設定をする
最終的に選んだ評価項目にレベルを設定することで、社員がどの段階まで達成したのかを定量的に把握できます。選定した評価項目に対して、それぞれ次の5段階にレベル分けするのが一般的です。
・レベル1:上司や先輩から指示を待つ「受動的な行動」
・レベル2:最低限の業務をこなす「通常行動」
・レベル3:自ら目的を設定する「能動的な行動」
・レベル4:自らの行動で状況を変える「創造的な行動」
・レベル5:独自性をもって発想する「リーダーシップを発揮する行動」
このように、評価項目レベルの数値が高くなるほど自発的な行動が求める内容になります。
具体例として、「新人教育」の評価をレベル分けすると、以下のようになります。
・レベル1:自発的に行動せず、上司の指示を受けてから新人への指導を行う
・レベル2:上司から依頼された内容を、新人にミスなく指導できる
・レベル3:自ら新人に必要なものを考え、自発的に資料を用意するなどの行動をとる
・レベル4:教育システムの導入を提案し、新人教育の効率化を図る
・レベル5:人事や上司が状況を共有できるように、教育マニュアルをシステム化する
上記の例を参考にし、企業に求められる課題や社員の現状を踏まえて、それぞれの評価項目に適切なレベル設定をしましょう。
コンピテンシー評価のメリット
コンピテンシー評価を導入するメリットは、次の8つです。
評価結果に対する納得度が上がる
コンピテンシー評価の導入により、評価される社員の納得度が上がります。なぜなら、評価内容が具体的でわかりやすく、設定された項目に基づいて評価者の心情に左右されない客観的な評価を得られるためです。
また前述の通り、実績・結果を重視する年功序列や成果主義では評価が難しいプロセスを重視します。ひとつの成果に対して、そのプロセスにかかわった全員を評価するため、最終的な成果を出した個人のみならず、それをサポートしていた他の社員についても目を向けられることになります。
このように、具体的な指針や透明性をもった評価によって被評価者が公平感を得ることで、会社が求める人材へと成長しようというモチベーションの向上につながります。
採用面接に活用できる
コンピテンシー評価は、企業にとって理想の人物像を想定して作られているため、採用面接に活用可能です。評価項目に照らし合わせて志望者へヒアリングすることで、企業に適する人材を発見でき、ミスマッチを防げます。
採用面接では、面接官の主観で判断すると、志望者を一人ひとり公平に評価できません。コンピテンシー評価の項目は客観的に判断できる内容のため、面接官の主観が入りにくく採用に失敗しない可能性が高まります。
質問する際には、具体的に「これまでに何かを成し遂げたエピソード」と、それに加えて「なぜその行動をしようと考えたのか」を聞き出します。ここで得られた行動と考え方をコンピテンシーに照らし合わせ、会社に向いた人材であるかを評価しましょう。
人材育成の効率化が図れる
コンピテンシー評価を導入した場合、人材育成の効率化が可能です。コンピテンシー評価は、どの行動が成果に結びつくのかを明らかにするため、社員のスキルアップにつながる重要な指標となります。
具体的に設定された項目をもとに、社員は自身が改善すべき課題や、さらに伸ばせる長所を発見できます。コンピテンシー評価に基づいた行動指針を作成し、社員全員へ周知すれば、社員一人ひとりが成果を上げるための行動を認識できるため、自発的なスキルアップに期待できます。
経営ビジョンの浸透で業績向上が期待される
コンピテンシー評価を明確にして周知すると、社内全体への経営ビジョンの浸透が期待できます。コンピテンシー評価項目は、会社が求める理想に即して設定されているため、企業の方向性が反映されます。
なお、社員に周知する際には上司が面談の機会を設けてコンピテンシー評価を共有することをおすすめします。社員それぞれに目標をもって成果につながる行動を促せば、企業が求める人物像を鮮明にイメージでき、経営ビジョンに沿って行動するようになるため、経営戦略の実現による業績向上へとつながります。
会社のビジョンと評価の方向性が合致する
人事評価が企業の方向性と合致することも、コンピテンシー評価を導入するメリットです。従来の職能資格制度を採用している場合、経営戦略の転換などを起こすにあたって、人事評価が経営ビジョンと乖離したままとなってしまうケースが見られます。
コンピテンシー評価は、ビジョンや経営理念に合うよう適宜理想的な基準を再設定することで、企業の方向性に合った評価を下せます。
評価に手間がかからない
コンピテンシー評価の基準は具体的であるため、一人ひとりにかける評価の手間が少なく済みます。基準が曖昧な評価では、上司がそれぞれの部下に対してどう評価すべきか、などから考える必要があるため、手間がかかるうえにその時の気分や主観に内容が左右されます。
コンピテンシー評価ではそれぞれの項目に、その達成度を「できているか」「できていないか」で評価するため迷わず、手間や時間がかからずに済みます。また、評価にかける時間が短縮されれば、人事や上司の業務効率化にも寄与します。
生産性が向上する
コンピテンシー評価を活用することで、社員の生産性が向上可能です。社員が自ら課題を見出し、改善行動に結びつけるためには、評価基準や目標とするモデルが明確でなければなりません。コンピテンシー評価では基準が明確で、企業が理想とするモデルを把握しやすいので、社員は自主的に行動を改善できます。これにより評価アップや昇給につながり、さらにモチベーションが上がります。モチベーションが高い社員は新たなアイデアを発想したり、積極的に行動の改善を続けるため生産性が上がり、結果として企業の業績が向上します。
キャリア開発に適用できる
コンピテンシー評価は、社員のキャリア開発に適用できます。社員は「どのような行動ができる人材になりたいか」や「どのように考え方を習得したいか」を考え、参考になるコンピテンシーモデルを探すことが重要です。目標とすべき人が身近にいると、普段から行動を観察して学べるので、成長意欲が促進されます。また理想の人物像を社員自らイメージすることで自発的に行動でき、効率的なキャリア開発が可能です。
コンピテンシー評価のデメリット
コンピテンシー評価には「導入までに時間がかかる」「評価モデルの選定や分析が難しい」「環境の変化に適応しにくい」といったデメリットもあるため、導入する際には注意が必要です。
導入までに時間がかかる
コンピテンシー評価の作成・導入までには、一定の期間を要します。作成手順として述べた通り、作成時には多くのプロセスを踏み、各プロセスで細かい設定や具体的な内容を盛り込む必要があります。
また、コンピテンシー評価項目を具体的にするためには、部署や職種、等級ごとの細かな設定が重要です。ハイパフォーマーからのヒアリングや経営者とのすり合わせなど、周りの人を巻き込む必要があり、短時間で導入するのは困難です。またコンピテンシー評価は、基本的に決まったテンプレートはないため、一から作成しなければならず労力を要します。
評価モデルの選定や分析が難しい
コンピテンシー評価の理想的なモデルが現場の方向性と合致しない場合、企業の業績向上につながらない可能性があります。評価項目の作成時にハイパフォーマーが実践する行動を直接聞き出しても、必ずしもその行動が高い成果につながっているとは限りません。
作成後には、実際の運用を通して企業の業績にどう影響しているかをモニタリングし、改善を繰り返すことで適切な評価モデルを選定し直しましょう。
環境の変化に適応しにくい
コンピテンシー評価項目は、細かい内容も具体的に定めているので、環境の変化に適応しにくいことがデメリットです。企業は成長段階や事業フェーズ、市場の変化に応じて、課題となるポイントが変わるため、社員に求められる行動も変化します。
具体例を挙げると、社員10名程度の企業規模では、従業員個人に対する裁量が大きく、業務遂行にはスピード感が求められます。一方で1,000名以上の企業で大きなプロジェクトを遂行するためには、個人が独断せず、周りの人と関わり合いながら慎重に行動する必要があります。
このように企業の成長段階によって、求められる人物像は変化するため、その都度評価項目の見直しが必要です。また、段階が大きく変化したあとには、項目を作り直しに際して、モデルの抽出を一から取り組まなければなりません。
評価項目の改定には、年単位の時間を必要とする場合もあり、大きな労力を要するので、環境の変化に素早く対応できないことが難点です。
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コンピテンシー評価で候補者の中から自社に合った人材を絞り出したあとは、「ラクテス」で自社の業務に必要なスキルが身についているかどうかテストを行うのがおすすめです。
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まとめ
コンピテンシー評価を導入するには、企業が理想とする人物像やハイパフォーマーの分析を通じて成果につながる要素を洗い出し、企業の方向性と一致するかを検証して評価項目を作成します。コンピテンシー評価は具体的な評価方法のため、社員は納得して評価を受け入れ、自発的な行動促進によって生産性の向上が期待できます。さらに採用面接や人材育成、キャリア開発にも活用可能です。企業に求められる課題を見直し、コンピテンシー評価を導入してみてはいかがでしょうか。