従業員のエンゲージメントを高めるには「ジョブクラフティング」という手法を取り入れることが有効です。
本記事ではジョブクラフティングの概要や方法、モチベーションの向上が従業員および企業にもたらすメリットについて解説します。
目次
ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティングとは、日常業務を単調なルーティン業務として捉えるのではなく、仕事の本質を根本的に見つめ直すことで、業務に対するやりがいを高める教育手法を指します。ジョブクラフティングは比較的新しい概念であり、日本では2016年頃から認知され始めました。
ジョブクラフティングの目的は、上司の指示や会社命令に従って「無理やり仕事をやらされている」と感じるのではなく、「自ら主体的に業務に取り組んでいる」と意識を変えることです。この意識転換により、従業員のモチベーションが向上するだけでなく、前向きな姿勢で業務に取り組むことで新たなアイデアが生まれやすくなると期待されます。
ジョブデザインとの違い
ジョブクラフティングと同じような概念として「ジョブデザイン(職務設定理論)」があります。ジョブデザインは企業が従業員に向けてやりがいのある仕事を計画的に割り振る考え方です。両者は「やりがい」に焦点を当てた理論ですが、主体がどちらにあるかという点で大きな違いがあります。
ジョブデザインは企業側(経営者側)が主導的に行動するため、従業員は受け身の立場として考えられます。一方でジョブクラフティングでは、従業員が自ら積極的に行動することを目指す考え方です。つまり両者は根本的なアプローチが異なり、似ているようで実は違った考え方なのです。
ジョブクラフティングの効果
モチベーションが向上する
従業員がやりがいを感じると、モチベーションが高まります。モチベーションが高い従業員は、仕事に対して前向きに取り組む傾向があります。
また従業員の満足度が高い企業は離職率が低く、従業員の主体的な行動が増えて業務の生産性が向上します。結果として、モチベーションの向上は企業全体にポジティブな影響をもたらし、さらに優秀な人材が集まりやすい環境が整います。
創造的なアイデアが生まれやすくなる
ジョブクラフティングを取り入れると、創造的なアイデアが生まれやすくなります。それまで単なるルーティンのように捉えていた業務を見直すことで、仕事について考える時間が増えるからです。その結果、仕事に対する新たな気付きが得られるだけでなく、業務を効率化するアイデアが湧きやすくなります。さらにジョブクラフティングによって人間関係が円滑になれば、そこから新たな発想が生まれることも考えられます。仕事において、自分自身や同僚との関わり方を工夫することで、より協力的で創造的な環境が築かれます。このような環境があれば、新たなアイデアや解決策が生まれやすくなるでしょう。ジョブクラフティングは、仕事に対する新しい視点を提供し、業務の向上とチームの成果にプラスの影響をもたらします。
生産性が向上する
仕事に対しての向き合い方を変えることで、生産性が向上します。従業員が自らの仕事にやりがいを見いだし、これまで以上に積極的に業務に取り組むことで、企業に勢いをもたらします。目標に向かう意欲が保たれ、企業への帰属意識が高まる効果も期待できます。
また、生産性の向上とともに、従業員はどうすれば業務を効率よく進められるかを自発的に考えるようになります。チームで作業手順や役割分担を話し合い、各自の強みやスキルを活かした人員配置が自然に行われます。これらのプロセスを繰り返すことで、組織全体が活性化する効果も見込めます。ジョブクラフティングは、従業員の主体性を引き出し、生産性向上と組織の発展に貢献します。
ジョブクラフティングが注目されている背景
仕事の複雑化
ジョブクラフティングが注目を集めている理由のひとつは、仕事の複雑化です。現代ではインターネット技術の発達により技術革新のスピードが増し、世界全体、そして日本でも状況が変わっています。数十年前には貴重であったスキルや資格も、今では当たり前になりつつあります。
特にAIツールの発展により、誰でも簡単に画像や動画の作成、ノーコードでのサイト制作が可能になりました。こうした社会の変化により、仕事も複雑化し、組織が個々に対応することが非常に難しくなってきました。
このような問題を解決するために、従業員が自分自身の仕事にやりがいを見つけ、自発的にスキルを習得することが重要になりました。ジョブクラフティングにより、従業員が自ら学び成長する仕組みを作り上げることが必要です。
組織と労働者の関係性の変化
もうひとつの理由は、トップダウン(上から下への指示)の考え方が薄れてきたことです。かつては、多くの日本企業で上司の指示に従うことが成果を出す方法とされてきました。しかし、働き方改革や消費者の価値観の変化により、単純に指示通りに働くだけでは十分ではなくなってきています。
また従業員の中には、企業の歯車として働くことに違和感を覚える人も増えています。自分の「やりがい」を求めて転職したり、副業を通じて新たな分野に挑戦する人も増えています。組織と労働者の関係が変化する中で、従来の考え方だけでは従業員を引き留めることは難しくなっています。ジョブクラフティングは、個々のやりがいを尊重し、主体的な働き方を促進することで、従業員の満足度や組織の活性化につながると考えられています。
3種類のジョブクラフティング
厚生労働省によれば、ジョブクラフティングは以下の3種類に分けられます。
1.作業クラフティング
作業クラフティングとは、仕事のやり方に工夫を加えることを指します。いつも同じやり方で毎日の仕事を続けると、飽きてしまい成長も見込めません。そこで、普段の仕事に新しいアプローチを取り入れたり、新しいツールや方法を試したりすることで、マンネリを脱する可能性があります。
たとえ仕事の内容が変化させづらいものであったとしても、日常の作業手順をより効率化できないか見直したり、外部のサポートを検討したりするなど何かしら工夫の余地はあります。作業クラフティングは、仕事をより楽しく効果的にするためのアプローチです。自分の仕事に対してアイデアを出し、改善することで、より充実感を得ることができるでしょう。
2.人間関係クラフティング
人間関係クラフティングとは、周囲の人と上手くやり取りするための工夫です。仕事を円滑に進めるためには、良好な人間関係を築くことが大切です。緊張感が強く、上司の機嫌を気にしすぎるような職場では、成果を上げるのが難しいでしょう。一方で、自分の取り組みが認められ、周囲に理解してくれる人がいれば、やりがいを感じることができます。
そのため、自分の部署だけでなく、普段あまり接触がないチームと積極的にコミュニケーションを取ることをおすすめします。仕事を円滑に進めるためには、お互いを理解し合い、協力し合うことが重要です。人間関係クラフティングを意識して、より良い職場環境を築くことが大切です。
3.認知クラフティング
認知クラフティングとは、仕事の捉え方や考え方に工夫をすることです。普段行っている仕事を単調なルーティンワークだと思わず、「やりがい」を積極的に見つけることを意味します。毎日同じ仕事をしていると「自分は何のために働いているのか」と疑問に思うこともありますが、そういった時こそ仕事を俯瞰して広い視野で捉えることが重要です。
自分が行っている作業がどう役立ち、誰が喜んでくれるのか、その過程を考えることで仕事に取り組む意義を再認識できます。認知クラフティングにより自分の役割の重要性を実感することで、仕事に対するモチベーションが高まります。
ジョブクラフティングのやり方
ジョブクラフティングの手順を説明します。
現状分析
まず自分が置かれている現状を分析することから始めましょう。日々どういった仕事に取り組んでいて、そこにはどのようなスキルが求められるのか、また仕事を通じて何が身につくのかといった項目をひとつずつ振り返り、紙などにメモしていきます。その際、できるだけ細かく、また具体的に書くことでこの後の工程がスムーズに進みます。
自己分析
次に、現状分析の結果をもとに「自分は何ができるのか」を考えていきましょう。その際、次の3つの軸で深掘りしていくことをおすすめします。
・関心があること:仕事で嬉しいと感じる瞬間、やりがい
・強みやスキル:自分の能力やスキル
・大切にしている価値観:仕事を通じて獲得したいものや大事にしたいこと
また、この際も紙などに記録を残しておくことが大切です。
仕事に対するアプローチの変更
自己分析の工程で書き出した情報をもとに、現在の状況を改善できるか考えてみましょう。たとえば、部長のスケジュール管理というタスクに対して、「縁の下の力持ち」として活躍できるやりがいを感じていたとします。この場合、ビジネスパーソンに欠かせない「時間管理能力」を伸ばすチャンスです。また、コミュニケーションスキルの高さを強みとしているのであれば、それを活かして、部全体の雰囲気も向上させられるかもしれません。
このように、何気なく捉えていた仕事が実は自分の成長につながる可能性があることに気付くと、仕事との向き合い方も変わってくるかもしれません。自己分析を通じて自分の強みややりがいを見つけ、それを活かす方法を考えることで、より充実感を持って仕事に取り組めます。
人間関係の見直し
最後は人間関係を見直していきましょう。前述したように、自分が「縁の下の力持ち」として誰かの役に立つことにやりがいを感じている場合、以下のようなことを考えてみましょう。
・部長のスケジュールわかりやすくするために、新しい方法を研究してみる
・部長が部下とより密にコミュニケーションを取るためのアイデアを考える
このようなことを考える中で、「自分のアイデアが誰かに喜んでもらえる」「誰かの役に立つ」という期待が生まれ、仕事がより楽しいものになります。自分の仕事に対するやりがいも増し、より良い人間関係を築くことができるかもしれません。相手のニーズに合ったサポートを提供することで、自分だけでなくチーム全体のパフォーマンスが向上することが期待できます。
企業がジョブクラフティングを推進する方法
今の仕事内容を見直す時間を設ける
まず、今の仕事内容を見直す時間を設けることが大切です。従業員が常に忙しく日常業務に追われているような状況では、ジョブクラフティングについてゆっくり考えることは困難です。そのため、できれば半日以上、職務を見直す時間を取れるようにスケジュールを調整しましょう。その際、座学を織り交ぜながらジョブクラフティングについて理解を深めるのもおすすめです。
ある程度の裁量を与える
次に、ジョブクラフティングを普及・定着させるには従業員に一定の裁量を与えることを意識しましょう。部下から「こんなアイデアがある」と提案された場合、上司はそれを即座に否定せず、ある程度の裁量を与えることが大切です。従業員に自由に創意工夫をしてもらうことで、効果的なジョブクラフティングを促進できます。
仕事が属人化しないように気をつける
最後に、ジョブクラフティングでは仕事が個人に依存しすぎる恐れがあるので注意しましょう。個人の裁量に任せると、創意工夫が生まれやすい一方で、属人化のリスクが高まります。そのため、仕事のやり方や進め方についてはこまめに社内で共有する習慣を作ることが重要です。また、属人化に対する対策も考えておくことが大切です。ジョブクラフティングを活用する際には、従業員の自由な発想とチーム内での共有をバランスよく行うことがポイントです。
まとめ
ジョブクラフティングとは日常業務を代わり映えのないルーティンとして捉えるのではなく、仕事のありかたを根本的に見つめ直すことで業務にやりがいを感じるようにする教育手法のことです。ジョブクラフティングによって従業員のモチベーションおよび生産性が向上するほか、創造的なアイデアが生まれやすくなるといったメリットがあります。
ジョブクラフティングは日本において比較的新しい概念ではあるものの、近年注目されている考え方のひとつです。ぜひこの機会に理解を深め、自社の経営に役立ててみてください。
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