従業員の定着率を上げるための社内サーベイ活用

定着率を上げる

従業員の定着率を上げるためには、まず「なぜ人が辞めるのか」を知り、それを解消する取り組みを継続していくことが大切です。特に中小・中堅企業では、一人ひとりが担う役割が大きい分、離職が起きると業務効率や社内ムードへの影響も大きくなりがちです。その状況を改善するうえで有効な手段のひとつが従業員サーベイです。社員の生の声を集めて課題を見える化し、それに合わせて対策を打ち、効果を検証していく――そんな流れを回すことで、着実に職場の定着率を高めることができます。以下では、サーベイを活用した離職率改善の方法を具体的に整理してみました。

1. 離職が企業にもたらすコストと影響

離職が増えると、企業は次々に新たな採用を行わなければならず、そのたびに求人媒体費やエージェント手数料などのコストがかさみます。中途採用の場合は一人あたり数十万円から数百万円の費用がかかるケースも珍しくありません。こうした採用コストに加えて、教育や研修に費やした時間とお金も、早期に辞められてしまえば回収できなくなってしまいます。
さらに、長く在籍していた社員が辞めると、その人が持っていたノウハウや人脈が失われるだけでなく、周囲のモチベーション低下や顧客との関係維持といった面にも影響が及びます。離職率の高さは、単なる人事上の問題にとどまらず、企業の成長力全体を損ねるリスクとなり得るため、定着率を上げる取り組みはコスト削減と組織強化の両方から見ても重要だといえます。

2. サーベイのメリットと改善プロセス全体像

サーベイの最大のメリットは、匿名性を確保しながら社員の本音を集められる点です。上司や同僚を気にせず意見を伝えられるため、面談だけでは把握しづらい不満や要望が浮き彫りになりやすいという特徴があります。結果として得られた定量・定性データを分析することで、離職が起きやすい原因を客観的に見つけ出しやすくなります。
そのうえで、サーベイの実施から離職率改善の流れをシンプルに整理すると、以下のようになります。まずサーベイを実施・回収してデータを分析し、結果から原因を推測して仮説を立てます。次に、その仮説に基づいて対策を企画・実行し、一定期間後に再度サーベイや離職率を確認することで効果を測定します。このサイクルを継続することで、離職率だけでなく、社員のモチベーション向上や組織文化の改善にもつながっていきます。

3. すぐに使える従業員サーベイの質問例

サーベイの設計段階で「何を知りたいか」を明確にしないまま実施すると、結果をどう活かせばよいか分からなくなることがあります。下記のような質問例は、比較的多くの企業で汎用的に活用できるものです。回答項目には「満足」「やや満足」「どちらともいえない」「やや不満」「不満」のように段階を設けつつ、自由記述も併用してみてください。

  • 職場の人間関係やコミュニケーションにどの程度満足していますか。
  • キャリアパスや昇進の制度は分かりやすいと感じますか。
  • 評価の基準や昇給の仕組みに納得感はありますか。
  • 給与や福利厚生について改善してほしい点はありますか。
  • ワークライフバランスは保ちやすいでしょうか。業務量や勤務時間への不満があれば具体的に教えてください。
  • 会社のビジョンや経営方針をどの程度理解し、共感していますか。

サーベイを実施するときには、目的を明確に伝え、回答者の匿名性をしっかり守ることが重要です。また「結果をどう活かすつもりなのか」を説明しておくと、社員も真剣に回答しようという気持ちになりやすくなります。

4. 分析と原因仮説の立て方

サーベイが返ってきたら、まずは全体の傾向を把握しつつ、部署・役職・年齢・勤続年数などの切り口ごとに分析を進めてみてください。たとえば、若手層からは「キャリアパスの不透明さ」が多く挙がっているのに、管理職候補の中堅層では「評価制度」への不満が強いといった具合に、立場や勤続年数の違いで不満や要望は大きく異なります。
数字が示す事実はもちろんですが、自由記述欄に書かれている生の声も重要なヒントになります。「これがネックになっているのではないか」という仮説を立て、その仮説に対する対策が現実的かどうかを検討することで、施策の優先順位をつけやすくなります。

5. 経営層や管理職の巻き込み方

従業員サーベイで原因が見えてきても、経営層や管理職が動かないと、対策が実行に移されないまま終わる恐れがあります。そうならないためには、まずサーベイの結果をしっかり共有し、「離職がもたらすコストとリスク」を具体的に示すことが大切です。たとえば新卒社員が1年以内に辞めると、採用費や研修費の合計で1人あたり数十万~数百万円のコストが発生するだけでなく、職場の雰囲気にも悪影響を及ぼすという数字と背景を説明してみてください。
さらに、対策の立案段階から経営層や管理職の意見を取り入れ、現場ごとの事情を反映させることで、主体的に協力してもらいやすくなります。トップダウンだけでなくボトムアップの提案もしやすい仕組みづくりを心がけると、組織全体で離職防止に取り組む文化が育ちやすいでしょう。

6. よくある離職原因と対策事例

6.1. 人間関係が原因の場合

社内の人間関係が原因で辞めたいと思う社員は少なくありません。具体的な対策としては、上司と部下の1on1面談を定期的に行う、管理職向けのマネジメント研修を実施する、部署を横断したプロジェクトやイベントを増やすなどが挙げられます。人間関係が改善するだけでも、社員が「この職場で働き続けたい」と思う確率は高まります。

6.2. キャリアパスが原因の場合

将来のビジョンが見えないと、特に若手や中堅社員は不安や不満を感じやすいです。ジョブローテーション制度や社内公募制度を整備し、部署を超えたキャリア形成のチャンスを提供すると、自分の成長や働き方の選択肢を幅広く意識できるようになります。定期的なキャリア面談で上司が関心を持って話を聞いてくれるだけでも、転職を考えにくくなるケースは多いものです。

6.3. 評価制度が原因の場合

評価基準や昇給ルールが分かりにくいと、多くの社員が「不公平ではないか」と感じ始めます。サーベイでその声が顕著なときは、評価項目やプロセスを社員に向けて明確に開示し、評価面談で具体的なフィードバックを行う流れを作ることを検討してみてください。特に管理職が各社員の業績や成長度合いをどのように判断しているかが不透明だと、不満が高まりやすいので注意が必要です。

6.4. 給与・報酬が原因の場合

給与面や報酬制度に対する不満が多い場合は、業界や地域の水準を改めてチェックしながら、昇給や手当の仕組みを見直す必要があります。大手との比較で大きな差がある場合は、インセンティブ制度や福利厚生の充実といった形でカバーできないか検討するのも手段の一つです。明確な評価基準と連動させれば、社員のモチベーション向上にもつながります。

6.5. ワークライフバランスが原因の場合

長時間労働や休暇の取りづらさが原因で社員が疲弊すると、離職率は上がりやすくなります。実際にどの部署が忙しいのか、どのくらい残業が発生しているのかなど、サーベイと併せて業務量を数値化して把握し、働き方改革の施策を検討してみてください。リモートワークやフレックスタイム、休暇取得の推進など、社員の声をもとに柔軟な仕組みを導入することで、仕事とプライベートの両立がしやすい環境を整えることができます。

7. 成功事例とよくある失敗ポイント

ある中堅IT企業は、毎月の簡易サーベイと四半期ごとの評価面談をセットで運用し、1年で離職率を10ポイントほど下げたといいます。社員から寄せられた改善要望を経営層が迅速に反映し、上司が日頃の面談で社員の成長や貢献度を具体的に伝えたことで、やりがいと将来の見通しが得られたという事例です。
一方で、サーベイを実施したものの結果を十分に活かせず、実質的な変化が起こらないケースも少なくありません。せっかく社員が本音を伝えてくれても、経営層や管理職が動かないと「アンケートをとるだけで終わった」と感じさせ、逆に不満を増大させてしまう可能性があります。

8. 対策の実行と効果測定

対策を立てたら、あとは現場できちんと運用し、定期的に効果を確かめることが大切です。施策を導入してから半年後、1年後などにサーベイを再度行ったり、離職率の推移を追いかけたりして、どこが改善し、どこが依然として課題なのかを把握します。もし期待したほどの効果が得られない場合は、仮説や対策の内容を見直し、再度サーベイや面談で情報収集する流れを続けてみてください。こうしたPDCAサイクルを回すことで、離職率だけでなく組織全体の課題把握と改善スピードも格段に上がっていきます。

9. まとめと次のアクション

定着率の向上は、長期的な視点で考えれば企業の採用コスト削減や組織強化につながります。実際、社員が安心して能力を発揮できる環境が整っている企業ほど、離職率は下がり、成長のスピードも加速しやすくなるものです。
最初は小規模なサーベイや簡易的なアンケートから始める方法でも十分効果があります。結果をしっかりと分析し、仮説を立てて対策を打ち、また測定するという一連の流れを根気強く続けることが鍵です。社員の声を大切にし、課題を見つけたらすぐに手を打つ姿勢を示すことで、信頼関係も強化され、企業全体の雰囲気も変わっていくでしょう。どうぞサーベイを活用して、従業員が長く活躍できる職場づくりに挑戦してみてください。

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