企業の人事において「ジョブディスクリプション(職務記述書)」は活用しているでしょうか。人事担当者の中にも、「具体的にどのようなものなのか」「導入することによってどのようなメリットがあるのか」といったように、詳しいことまであまり知らない方は多いかもしれません。
この記事ではジョブディスクリプションについて、その概要や作成方法、また作成の際に役立つツールなど、包括的に紹介します。
目次
ジョブディスクリプション(職務記述書)とは
「ジョブディスクリプション」(job description:職務記述書)は、従業員の職務内容や評価方法などを企業側が詳しく記述した書類です。特に専門的な職務に見合った人材の採用や、その能力・成果に応じた適正な待遇を決定づけられるため、第三者から見ても公平感のある関係を築くことができます。
もともとは職務が限定された専門性の高い「ジョブ型雇用」が主流である欧米諸国において使われていたもので、ジョブ(職務)重視の人事システムにおいて有用なものとされています。
エンジニアやマーケターをはじめとする専門職においては、職務の内容や成果に対しての評価方法などがあいまいになりがちです。そのため従業員が不公平感や不安感を持つケースが多くなってしまうことにつながってしまいます。このジョブディスクリプションを運用することで、年齢や在職期間による年功序列ではなく職務内容のみに基づいて人材を評価できるようになります。
日本の企業でジョブディスクリプションが注目されている理由
2022年9月に日本企業でのジョブ型雇用の実態について調査するため、ラクテスは200社の人事担当者を対象にアンケート調査を実施しました。その中で、ジョブディスクリプション(職務記述書)の導入状況を調べたところ、「導入している」「導入を予定している」「導入を検討している」「導入検討を予定している」と答えた企業は合計約8割にも上りました。
調査の結果から、日本においてもジョブディスクリプションが注目されていることが分かりました。その理由として考えられる、企業を取り巻く背景や人材の取り扱いに関する状況について解説します。
関連記事:【2022年9月実施】ジョブ型雇用の導入率、運用状況、導入理由などに関するアンケート調査
働き方の多様化
近年急速に浸透してきた働き方のひとつにテレワークがあります。その他にも、育児や介護のために時短勤務を導入する企業が増えてきているなど、業務形態や働き方の多様性が増しています。
これまで多くの日本企業が採用してきた「メンバーシップ型雇用」(勤務地や業務内容などが限定されない雇用制度)では、このような多様性を求める労働者からのニーズに応えられず、人材の確保が難しくなっています。
そのため、個々の従業員に合わせた業務形態を明確化することを目的としたジョブディスクリプションの導入が必要となりつつあります。
ジョブ型雇用の普及
先述のように、雇用制度には大きく分けて「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」があります。日本の多くの企業では、主に新卒一括採用で採用し、組織内での異動によってそれぞれに業務を振り分けていくメンバーシップ型が一般的です。これは、多種多様な業務をこなせるゼネラリスト型の人材、特に幹部候補を育成する際には有用なものとされています。
一方で、専門職の人手不足や、ダイバーシティ経営に基づく外国人雇用の増加といった要因から、ジョブ型の雇用にシフトする企業が増えてきています。ジョブ型雇用とは、ジョブディスクリプションに基づき、人ではなく職務をベースとする雇用のことです。個々の従業員は与えられた職務に応じた専門性を問われるため、スペシャリストを育成することに有用な雇用制度とされています。
高い専門性を持った人材の必要性
少子高齢化が進み、人材不足がますます加速している近年では、従業員の側から企業に求められる働き方についての要求はより多くなっています。その中には、人事異動や転勤が少ないこと、可能ならばそれらがないことが大きな要件として存在します。しかし、従来のメンバーシップ型雇用では、育成できるゼネラリスト型の人材を育成し、またその能力を活用するにはどうしても人事異動や転勤を必要とする場合があるため、要求に応えることができません。
一方、ジョブ型雇用において人事異動は基本的に行わず、従業員はひとつの部署でずっと担当業務に従事することになります。そのため、企業が求める業務遂行能力と、労働者からの要求の両方を満たすことが可能になります。
そのため、ジョブ型雇用を採用し、高い専門性を持ったスペシャリスト型の人材を採用・育成していくことが、企業が人材不足の時代を生き抜いていくために必要な雇用形態であると考えられています。
ジョブディスクリプションのテンプレートと必要項目
ここからは、ジョブディスクリプションを作成するにあたって必要な項目を紹介します。
まず従業員の部署や職位、職務内容を定めた「ポジション」「業務・職務内容」などの項目が必要です。また、従業員の能力に関する「資格・経験」や、雇用条件に関する「給与・待遇」「評価方法」などの項目が挙げられます。
書き方やフォーマットなどに特定の決まりはありませんが、一例として下記にマネージャー職を想定したテンプレートを紹介します。
・【ポジション】営業職、マネージャー
・【業務・職務内容】新規取引先の開拓、企画立案、チームのマネジメント
・【具体的な職務内容】新規顧客への営業活動、売上拡大のための企画立案、経営会議への参加、部下の育成・メンタルケアおよび評価
・【職務責任】営業活動において、円滑な職務の遂行。マネージャーとして、部下の職務の監修およびフォロー。他部署マネージャーとの連携。
・【応募条件、必要とされる経験】4年制大学卒業以上、営業経験○年以上、マネージャー経験○年以上
・【求める資格】普通自動車免許、ビジネスレベルの英語(TOEIC△△△点以上)
・【給与・待遇】基本給○○万円、営業手当
・【評価方法】目標管理制度、360度評価
・【勤務地】東京都内のオフィスおよびテレワーク
このように、ジョブディスクリプションによって従業員の項目を明確化します。ここからは、それぞれの項目について詳しく解説しましょう。
ポジション
「ポジション」の項目においては、業務上の職制や職位について明確に記載します。同時に、部下の有無や、他部署との関係性についても記述しておくことで、業務内容のイメージがしやすくなります。
また、ジョブディスクリプションは採用時において事前に公開するため、自社独自の名称を使うことは可能な限り避けたほうが無難です。一般的に通じやすい名称を用いて記載するようにしましょう。
具体的な職務内容
「具体的な職務内容」は、実際にどのような業務を行うのかを具体的に説明する項目です。例えば営業職といっても業種や企業によって業務内容は多様であり、「顧客の元に出向くのか、それとも電話やメールを用いるのか」「新規開拓か既存顧客対応か」などが考えられます。「就業した際にどこまでの範囲で業務を請け負うことになるのか」「どんな内容の仕事を行うのか」などのイメージを明確化させることが重要です。そのため、できる限り具体的な業務内容を記述することが望ましいでしょう。
職務責任
「職務責任」では、職務を遂行するにあたって従業員が負うべき業務の範囲を具体的に記載します。ここで定められた範囲の業務を全うできない場合は責任を果たしていない、と判断するラインを策定します。これをはっきりさせておかなければトラブルの元になる可能性があるため、雇用前の段階において明確化しておかなければなりません。
求めるスキル・技能・資格・経験年数
「求めるスキル・技能・資格・経験年数」では、業務を遂行する上で必要なスキルや資格について、具体的に記載します。資格については具体的な等級やスコアなどを指定することが望ましいです。(英検○級以上、TOEIC○○○点以上、など)
また、経験年数からはその人のスキルがどのくらいであるのかが推定できるため、重要な項目です。
ジョブディスクリプション導入のメリット
ジョブディスクリプションを導入することで得られるメリットは、採用や人事管理、組織の生産性など、さまざまな分野に及ぶことが考えられます。
ミスマッチを防ぐ
採用時にジョブディスクリプションを求人情報として公開することで、「どのレベルの業務ができる人間を求めているのか」「どのような人物像を想定しているのか」といったことを具体的に示すことができるメリットが挙げられます。
必要なスキルがはっきりと明示されているため、採用後のミスマッチを減少させる効果が期待できます。求職者は自身のレベルと照らし合わせて、適正であるかどうかを判断した上で応募してくるようになるため、人材を最適化することが可能です。総じて企業・求職者の双方にメリットをもたらすことが考えられます。
組織の生産性を向上させる
それぞれのポジションに必要とされるスキルや資格、および能力をあらかじめ持ち合わせた人を採用することで、給与や育成、研修にかかる時間的・金銭的なコストの投資を最適化し、最大限の成果を生み出すことが可能です。
また、従業員が求める雇用形態や、特性に合わせたポジショニングを提供できることから、モチベーションの向上にもつながります。これによって業務の質が改善され、組織全体の生産性の向上につながります。
他にも、ジョブディスクリプションによって個々の業務範囲を限定することで不明瞭性が廃除され、業務効率化も期待できるでしょう。
人事評価の効率化が図れる
ジョブディスクリプションにあらかじめ記載しておくことで、人事評価基準を明確に示すことが可能です。従業員にとっては就業前から評価の基準が示されているため、公平感があります。また、業務内容や数値目標も明記されていることから、個々の従業員が目的を意識し、「今、何をすれば良いのか」「どのような働きをすれば目標に到達できるのか」といったことを自発的に考えられるようになるため、業務の効率化をもたらすでしょう。
また、ジョブディスクリプションに明示されている数値目標などを達成できているかどうか、という明確な基準ができるため、人事評価が非常にスムーズに行えます。
ジョブディスクリプション導入のデメリット
ジョブディスクリプションの導入には多くのメリットについて解説してきましたが、一方で懸念されるデメリットにも注意しなければなりません。
新卒採用には向かない
ジョブディスクリプションにおいて求めるスキルや業務経験を明示することにより、即戦力となる人材を採用するジョブ型雇用には役立つ一方、実務経験がない新卒者の採用には不利益が生じます。
新卒採用では、スキルよりも当人が持つポテンシャルの方が重要な要素です。新卒採用で入社する従業員にはゼネラリストとしての成長が求められ、多様な業務を経験させることで個々の特性を見極めるほか、将来的な幹部候補の育成を行うことが期待されます。
そのため、ポジションを固定して同じ業務をしつづける性質を持つジョブ型雇用においては、新卒採用は不向きであると考えられます。
業務が属人化するリスクがある
ジョブ型雇用におけるデメリットとしては、業務が属人化するリスクも挙げられます。ジョブ型雇用では、特定の業務に対して同じ人員が長期にわたって担当します。基本的には部署間での異動が行われないため、別部署との交流が少なくなる傾向にあります。そのため業務内容の相互理解に乏しく、業務が属人化することが懸念されます。
「この業務はあの人しかできない」といった属人化が常態化してしまうと、担当者の病欠や産休、有給休暇の消化時などの事態においては誰もカバーできなくなってしまいます。そのため、企業側でフォローアップできる体制を意識して築く必要があります。
ジョブ型雇用によるスペシャリストだけでなく、幅広い範囲の業務を担当できるゼネラリストも併せて育成していくことが重要です。
柔軟な対応ができなくなる恐れがある
ジョブディスクリプションによって個人が担当する業務の範囲を明確に定めることには、デメリットも存在します。
ジョブディスクリプションに個々の従業員が担当する業務の範囲が明記されているため、範囲外の業務は強要できません。そのため、部署間でのジョブローテーションなどを行うことが基本的にできず、組織全体が硬直状態に陥ってしまう危険性を考慮しなければなりません。
企業の成長していく過程や時代の変化への対応など、業務内容の変更を余儀なくされるケースはしばしば起こります。ジョブ型雇用に転換することで、組織として状況に対する対応力が削がれる可能性があることは念頭に入れておかなければならないでしょう。
また、従業員の間で、記述書に記載された仕事にしか取り組まないという風潮が生まれてしまうかもしれません。「自分の仕事ではないから」と、仕事の押し付け合いが発生してしまう可能性も考えられます。
ジョブディスクリプションの使い方
ここからは、ジョブディスクリプションの効果的な使い方や運用方法について解説します。いくつかのシチュエーションをピックアップし、それぞれの注意点を紹介します。どのような運用が効果的なのかをあらかじめ確認しておきましょう。
採用時での使い方
採用時においては、職務内容や必要な資格などが記載されたジョブディスクリプションを求人媒体で公開する利用方法があります。一般的にはWeb上の求人媒体が想定されます。求職者は事前に条件をすり合わせすることができるため、書類選考まで進んだ時点で双方の希望がある程度理解し合えている状態を作り出すことが可能です。
この方法における最も重要な点としては、現場の実態と乖離のない記載がなされていることが挙げられます。実務との相違がある場合、人材のミスマッチや早期離職の原因になってしまいます。そのため、対象職務の担当者に細かなヒアリングを行い、ジョブディスクリプションを実態に合った内容へと常に更新することが必要です。
人事評価での使い方
人事評価においては、ジョブディスクリプションに記載された評価基準に達しているかどうかを参照するために利用します。事前に示された項目内容が評価の対象になるため、私情や主観が交ることのない、客観的で公平な評価を行うことが可能です。
社員教育での使い方
社員教育の際には、ジョブディスクリプションの内容を通じて企業文化や社風を伝えられます。
ジョブディスクリプションには企業が求める人材の形が具体的に記述されているため、企業側からの「こうあってほしい」「こういう社員を目指してほしい」というメッセージの役割も果たします。従業員はそこから企業の求めるものを読み取り、明確な目標に向かってスキルアップを目指すことが可能です。例えば上司と部下の会話においても、企業が求めているものがはっきりしていることから、意思の疎通が図りやすくなることが期待できるでしょう。
関連記事:ジョブ型雇用のためのジョブディスクリプション(職務記述書)の作り方とポイント
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まとめ
ジョブディスクリプションは、企業が従業員に職務内容や評価方法などを明確に示すためのツールです。企業が従業員に求める条件を簡潔に伝えられるため、人材とのミスマッチを事前に防げます。
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