人材育成における企業の5つの課題とは? 解決策と大切なことを紹介

業績の向上や事業継続のために、人材育成は業界や職種を問わず、多くの企業で重要視されています。本記事では、多くの企業が抱えている人材育成の現状と課題を解説し、人材育成を成功させるために大切なことをお伝えします。

企業における人材育成の現状

ビジネスを取り巻く環境の変化が著しい昨今、自社の経営課題を的確にとらえ、解決していける人材が必要不可欠です。特に中小企業では、経営基盤を強化するためにも、新しい人材獲得・社員育成の両方に取り組むことが大切です。

しかし厚生労働省の調査では「人材育成に問題がある」と感じている企業は76.5%にも上りました。具体的には「指導する人材が不足している」「育成にかける時間がない」という問題意識を持っている企業が多い傾向にあります。
経営者の中でも、人材育成や学習への考え方は様々です。経済産業省の調査では、時間がないこと以外にも、「学ぶ必要性を感じない」という理由から、経営に関する学習を確保していない経営者も多いことがわかりました。


【参照】
令和2年「人材開発政策の現状と課題について」(厚生労働省)
令和4年「中小企業の経営力及び組織に関する調査研究」(経済産業省)

人材育成の目的

安定的に経営を持続させ、企業をより発展・成長させていくためにも、社員の育成は欠かせない取り組みです。その主な目的を以下で解説します。

社員の能力を最大限に発揮するため

組織としての生産性や価値を向上させるには、組織を構成する社員一人ひとりの能力を高めることが重要です。ビジネススキルのような実践的な能力や、仕事への向き合い方といったスタンスなど、人材育成で伸ばせる要素は多く存在します。


育成をする上では、「弱点を克服する」ことよりも「強みを伸ばす」ことを重視するべきです。強みを活かせることは社員の自信にもつながり、仕事に対する意欲を高めます。その結果、業務における生産性も向上していきます。

人材採用におけるコストを減らすため

外部から優秀な人材を引き入れようとすると、高い採用コストが発生します。人材紹介会社に支払うサービス料や求人広告費などの外部コストはもちろん、社内でも書類選考や採用面接に大きな工数を使います。選考中に辞退される、採用してもすぐに辞められてしまうといったケースもあるため、可能な限り採用コストを抑えたいと考える企業は多くあります。


自社の社員を育成することは、採用コスト削減に大きな効果をもたらします。それは、新しい人材を採用して1から育成するよりも、効率よく能力を伸ばせる可能性が高いからです。
自社の社員の多くは組織になじんでおり、企業理念や仕事のやり方をすでに把握しています。そんな社員一人ひとりのスキルを高めていくことで、企業の発展を促進できます。


採用コストに関する詳細は、下記の記事も参考にしてください。
■採用コストを削減するには? 費用相場や効果的な削減方法7選を紹介

帰属意識を向上させるため

帰属意識とは「自分がこの組織の一員である」という意識のことです。組織とは、企業全体を指す場合もあれば、部署などの比較的小さな集団を指す場合もあります。帰属意識が高い人材は仲間意識も高く、チームワークで高いパフォーマンスを発揮します。また、組織としての課題を自分の課題でもあると考えられるため、積極的に課題解決を推進していきます。人材育成は、帰属意識を向上させることにも有効です。


近年は社員も企業を選ぶ時代となっており、この会社になじめない、この会社では成長できないと感じた社員は、他企業への転職という選択肢を選ぶこともあります。。しかし人材育成を強化することで、社員の帰属意識を高められ、退職防止の効果を期待できます。。社内人材育成システムを充実させることで、会社に対する愛着を与えられ、社員のモチベーションを向上させられます。

人材育成でよくある5つの課題

コストや意識など、人材育成における課題は数多くあります。その中でも多くの企業が抱えがちなのは、下記の5つです。

指導するための時間・人材がない

社員が忙しすぎると、指導にあてられる時間を確保できません。優秀な社員に指導を任せようと思っても、その社員が日々の業務を回すことで精一杯というシーンは、どの企業でもよく見られます。指導を受ける社員も同様です。業務の合間に育成の時間を無理に詰め込んだとしても、この後の業務に意識をとられて社員が集中できない状況では、成果が出ない時間となってしまう可能性があります。


人材育成は範囲が広く、1度の研修では身につかないスキルも存在します。社員の能力を効果的に高めるためにも、社員が集中できるまとまった時間が必要です。

人材育成を行うノウハウがない

業務遂行能力が高い社員に人材育成を任せたものの、期待した効果が出なかったという場合もあります。自分で学ぶスキルと他者に教えるスキルは異なるため、現場で活躍できる人が育成もできるとは限りません。育成者には、育成者としての教育が必要になります。


また、スキルアップを推奨する人事評価制度や、勉強に時間をとることを認める風土など、組織としてのノウハウを積み重ねることも重要です。

人材育成のための予算を出せない

外部のキャリアコンサルティングや学習サービスを利用する場合、導入にも継続利用にも費用が発生します。研修のために社外の会場を借りる場合もそうです。これらの費用はかなりの額となる場合もあるので、あらかじめ予算を確保しなくてはいけません。

社員が人材育成の必要性を理解していない

社員が人材育成の必要性を感じていないと、形だけの育成プログラムになったり、そもそも社員がプログラムに参加しなかったりといった問題が出てきます。


近年は、昇給や昇格に消極的な若手が増えています。東晶貿易株式会社の調査では、77.6%もの20代が「役職者になりたくない」と考えているようです。役職者になってしまうと責任が増え、担う仕事が多くなる分プライベートの時間が少なくなってしまうからです。また、スキルを磨いて成果を出しても評価されない環境だと、社員が人材育成の必要性を理解しづらくなります。


企業としては、このような人材が多いことを理解した上で、成長意欲を醸成するための施策を検討する必要があります。

参照:「出世欲に関するアンケート」(東晶貿易株式会社:転職サイト比較plus)

人材育成の目標が決まっていない

人材育成には、売上を3割アップさせる、クレームをひと月5件以下にするといった、明確な目標を定めることが大切です。目標がはっきりしていると育成計画が具体的となり、効果測定や改善も進めやすくなります。
目標が決まっていないまま人材育成を行うと、人材育成への取り組みが作業として形骸化しがちです。期待した効果が出ないばかりか、効果測定や改善がない人材育成は、指導する側とされる側、双方のモチベーションを下げてしまいます。

人材育成の課題解決策

人材育成における様々な課題を解決するためには、以下の具体策が有効です。まだ取り組んでいないことがあればぜひ試してみてください。

人材育成の目標と計画を定める

「社員にどうなってほしいか」という目標やゴールをあらかじめ設定します。目標の項目を決める際には、育成する社員の年齢や役職を考慮して、適した項目を定めます。
例えば若手の新入社員に対しては「基本的なビジネスマナーを習得する」「仕事に必要なスキルや資格を取得する」といった目標を設定し、中堅社員に対しては「自部署だけでなく会社全体の課題を俯瞰し、改善を提案する」などの目標を設定します。

また、最終的なゴールだけではなくスモールステップで目標を設定することで、社員のモチベーションが向上します。

人材育成のメリットを社内で共有し、人事評価制度を見直す

人材育成にはある程度の人的・金銭的コストがかかります。経営層や管理職が人材育成を強化しようと試みても、社員が人材育成のメリットや重要性を理解していなければ、スムーズに進めることは難しいでしょう。「個人の強みを活かして業務分担できる」「自分では気づけなかった課題を発見できる」などの人材育成のメリットを社内で共有し、社員の納得を得た上で取り組むようにします。
人材育成を行うにあたって、適正な人事評価制度の導入は欠かせません。人事評価制度がすでにある場合は、評価基準が客観的であるかどうかの見直しをします。適正な評価を行うことで、社員一人ひとりに具体的に何が足りないのかを把握できます。

人材育成のための予算や時間を確保する

人材育成には十分な予算と時間が必要不可欠です。参労総合研究所が行った2022年度の実態調査結果によると、従業員1人にかける教育研修費用の予算平均額は43,261円でした。限られた予算内で目標を達成できるよう、企業は独自の人材育成方法を構築する必要があります。

参照:「2022年度(第46回)教育研修費用の実態調査」(参労総合研究所)

指導する側の人材を育成する

育成を行う側の指導力が不足していると、効果的な人材育成ができません。また、業務成績が優秀な社員であっても、部下や後輩に業務を教えることが上手いとは限りません。そこで、育成担当者となるマネージャーやチームリーダーの育成にも注力する必要があります。

人材育成のフォローを行う

人材育成の期間は研修によって異なります。単発の研修から、OJT・メンター制度など数か月~数年に及ぶものまで様々です。
どのような研修であっても、実施中と実施後にフォローを行い、定着度を測ることが大切です。単発の研修であれば、終了直後や1週間後などに研修内容のテストを行ったり、研修内容の感想を尋ねたりすることで知識が定着します。長期の研修であれば、定期的に個人面談を行い、進捗状況や不明点を確認するとよいでしょう。

e-ラーニングなどのツールを取り入れる

eラーニングとは、PCやタブレット、スマートフォンなどのデジタル機器とインターネットを利用して教育・研修を行うことをいいます。電子化した資料を配布する、研修動画を視聴してもらうといった方法があります。なお終了後にWebテストを行うと、受講者の定着度を測ることができます。

Webテストを自社で作成・運用するのが難しい場合は、外部サービスを利用するのもひとつの手です。オンラインテスト作成サービス「ラクテス」なら、自社に合ったWebテストを簡単に作成できて便利です。また無料プランもあるため、コストを抑えて導入できます。

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e-ラーニングのメリットは、インターネット環境さえあれば場所や時間、端末を選ばずに受講できることです。テレワークなどでオフィスから離れた場所にいる社員にも、平等に研修の機会を与えられます。

人材育成を成功させるために大切なこと

人材育成における様々な課題を解決し、自社に必要な人材を育成していくためには、以下の3つのポイントをおさえることが大切です。

アウトプットの機会を設ける

仕事の学びに関する法則に「7・2・1の法則」があります。これは「人は成長するために7割を仕事の経験、2割を他者からのフィードバック、残り1割を研修などのトレーニングから学ぶ」という法則です。この法則で表されるように、もっとも効果的な学びは経験することです。セミナーやeラーニングで知識やスキルをインプットした後は、それを活かした経験ができる機会を設けるようにしましょう。


実践の機会は社員だけでは作れない場合もあるため、名刺交換を教わった後は顧客訪問に同行させる、学んだスキルを実践できる業務を任せてみるといったように、上司からのアプローチが重要になります。あえて権限を委譲するのもひとつの手です。仕事の難易度が高いほど失敗するリスクもありますが、失敗からしか得られない学びもあります。インプットとアウトプットを繰り返して、取り入れたスキルを定着させることが大切です。

社員の意識を尊重する

人材育成の場では、社員の自主性が効果を左右します。社員がスキルの習得などに積極的ではない場合、人材育成を成功させるのは難しいです。社員が人材育成の必要性を感じていないのであれば、人材育成の目的から伝えます。スキルを身につけると自分の仕事にどう役立つのか、社員と同じ目線で具体的に話すことがポイントです。


また、成長することをデメリットに感じさせない環境作りも大切です。チャレンジを褒める、失敗は責めないといった空気を作るなど、社員が前向きにスキルの実践に取り組めるようにしましょう。現状にそぐわないルールがあれば、積極的に改善や撤廃を検討してください。

1on1でコミュニケーションをとる

人材育成においても、コミュニケーションは非常に大切です。1on1の頻度だけではなく、質にも意識を向けましょう。その際に重要なポイントは傾聴することです。これまでを振り返って上司目線でフィードバックをするだけでは、一方的な話で終わってしまいます。どうしてできた(できなかった)のか、どんな将来像を抱いているのかなど、社員の話をじっくりと聞く時間を必ず設けましょう。


双方向にコミュニケーションをとることで、社員がつまずいている点などが明確に見えてくるため、一人ひとりの状況に応じたアドバイスを与えられます。今後の目標も、より具体的に設定することが可能です。また個々に寄り添ったアドバイスは、社員に自分のことが理解されていると感じさせ、帰属意識の醸成にもつながります。そのアドバイスで意欲的が上昇する社員もいますし、信頼関係が強まることで組織力の強化にも期待ができます。

階級別の育成ポイント

人材育成は、社員の立場によって研修の方針やアプローチ方法を変える必要があります。「新入社員」「若手社員」「中堅社員」「管理職」に階級を分け、人材育成におけるそれぞれのポイントを紹介します。

新人社員

社会人経験がない新卒社員の中には、まだ学生気分が抜けていない人がいることもあります。そこで新卒社員に対しては、ビジネスマナーや社会人としての心構えを教える基礎的な研修を行います。
新人社員が会社の一員として仕事をできるようになるには、組織になじんでもらうことも大切です。自社の経営方針や企業理念について理解を深められるような研修を行います。また、入社前からメンター(教育担当となる特定の先輩社員)を設定し、定期的に連絡をとるなどのコミュニケーションを行うことで、入社前後のギャップが少なくなり、早期離職を防ぐことができます。
新入社員はビジネス初心者です。わからないことや間違っていることも多いので、指導は遠慮せずに的確に、厳しさと優しさのバランスを保って行いましょう。
新入社員研修については下記でも紹介しているので、併せてご覧ください。
■新入社員研修スケジュールの作り方とは? 目的やコツを紹介

若手社員

若手社員には、主に入社2~5年ほどの20代後半が当てはまります。基本的なビジネススキルを身につけた後は、主体的に業務を遂行し、即戦力となれるスキルの習得に進みましょう。業務のメイン担当を任せてみたり、新入社員の指導を通して育成スキルの基礎を学ばせたりしてもいいでしょう。ただし、丸投げのように任せてしまうと過度な期待と感じさせてしまうので、社員個々の得手不得手を理解した上で任せる業務を選び、定期的なフォローを心掛けてください。


またこの時期はプライベートでも変化の波が激しく、それぞれが将来のキャリアについて考える時期でもあります。そのため、キャリアデザイン研修による自己分析や人生設計を行い、その結果を踏まえた目標管理をすることも大切です。自身の人生設計に紐づく目標は、社員の自主性や積極性の向上にもつながります。

中堅社員

中堅社員にはさらにレベルアップして、組織を率いるスキルを集中的に学ばせます。自分が手を動かすだけではなく、部下に指示を回したり、チームメンバーを取りまとめて目標を達成したりするといった経験をさせます。これにより、マネジメント能力を培っていきます。より俯瞰的な視線を身につけさせるため、部署を横断したチームにアサインしたり、部署異動を行ったりするのも有効な方法です。
ただし、マネジメント能力やリーダーシップを問われる役割は、アサインされて急にこなせる社員は多くありません。まずは研修やセミナーで事前知識を十分にインプットさせて、そこから実践に移行するのが安全です。

管理職

管理職は、将来の幹部候補ともいえます。マネジメント能力に加えて、部下の信頼を得られる人格や迅速な決断力と行動力など、求められるスキルが高度で幅広くなります。業務内容も労務管理や人材育成、人事評価と、責任重要かつ難易度が高いです。
管理職は激務の結果、機能不全に陥る社員も多いです。そのため、十分な研修とサポート体制が欠かせません。ベテランの管理職や経営者がフォローに入り、社員に求めている管理職としての役割と必要なスキルを明確に伝えましょう。その上で、管理職に特化した研修を受けさせます。いきなり管理職に昇格させるのではなく、管理職の補佐につけて経験を積ませる方法もあります。経験豊富な上級管理職に対しては、部門経営者として、経営者層に近い育成を行います。
このような幹部候補への教育は、特にサクセッションプランニングと呼ばれています。下記の記事で別途解説しているので、こちらも参考にしてください。
■サクセッションプランニングとは? 作り方や事例について解説

まとめ

人材育成は社員の能力強化や組織への定着を目的として行われますが、人材育成を行うためのリソースやノウハウが足りないといった課題を抱えている企業が多いのが現状です。本記事では「人事評価制度を整備する」「e-ラーニングを導入する」などの解決策を紹介しました。また、社員の年齢や階級ごとにどのような研修を行うべきかについてもお伝えしました。人材育成を成功させるためには、インプットとアウトプットの両方を行い、それに対するフィードバックを行うことが大切です。社員と積極的にコミュニケーションをとり、自ら成長したいと思ってもらえるような環境を作ることが、育成を成功させるポイントです。

人材育成の設計方法について、下記で詳しく紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
■人材育成を成功させる研修とは? 種類や設計方法をわかりやすく解説


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