変化の激しい現代市場で企業が持続的に発展していくためには、人的資源の効率的な育成と戦略的な活用は欠かすことができず、人材育成の目標設定は適切に行わねばなりません。本記事では目標設定の方法や数値化する重要性について解説し、職種別における目標設定の具体例や注意点も紹介します。ぜひ、参考にしてください。
目次
人材育成で目標設定が重要な理由
目標設定は各省庁での人事評価や地方自治体でも採用されており、人材を育成するうえで極めて重要だと考えられています。その理由としては、組織の一体化、社員のスキルギャップ分析、自律的な社員の育成のそれぞれに有用であることが挙げられます。
組織の一体化
企業とは事業活動によって製品やサービスを顧客に提供し、利益を獲得する組織です。昨今では、収益性を追求するだけでなく、事業の成長を通して地域社会の発展に貢献することもまた企業の存在意義として重視されています。市場の競争が激化するなかで企業が発展を続けるためには、最も重要な経営資源である人材の成長を促す仕組みが必要です。企業理念や経営ビジョンを人材育成プロセスに統合することによって、従業員は企業の使命やあるべき姿を共有し、組織が一体化して行動することの重要性を理解できます。
社員のスキルギャップ分析
スキルギャップとは、経営目標の実現に必要な人材のスキルと、実際に従業員がもっているスキルの差異のことです。各従業員のスキルを把握し、必要なスキルが明確化できていれば、不足しているスキルを埋めるために必要かつ適切な人材育成計画を立案・策定できるようになります。
自律的な社員の育成
企業の成長と発展には、自発的に考え、自律して行動する従業員が不可欠です。人間のモチベーションは大別すると、
- 罰則の回避や報酬の獲得などの外部要因に起因する「外発的動機付け」
- 好奇心や探究心といった内面から沸き起こる「内発的動機付け」
に分類できますが、従業員の自己成長やキャリアアップにつながる目標や、社会的意義のある目標を設定できれば、内発的動機付けによるモチベーションが期待できます。従業員が適切な目標を設定できるようにするためには、企業理念や経営ビジョンを組織全体に浸透させ、長期的な視点にもとづいた人材育成計画が必要です。
人材育成の目標設定を数値化する理由
人材育成の目標設定は必ず数値化する必要があります。具体的な数値目標を設定することで、従業員には、行動計画を立てやすくなる、モチベーションを維持・向上できる、進捗を把握できるといったメリットがあります。
行動計画を立てやすくなる
目標設定を数値化する理由のひとつは、具体的にどのように行動すればよいのかを従業員が計画できるようになるからです。例えば「新規顧客の獲得件数を前期比+10%にする」という目標を掲げた場合、成約率から逆算することで、必要な新規訪問件数やテレアポ件数などを割り出すことができます。割り出された訪問件数やテレアポ件数などから、目標達成に向けた具体的な行動計画を立てやすくなります。
モチベーションの維持や向上
目標設定を数値化することによって、従業員が高いモチベーションを維持できるというメリットも得られます。目標が抽象的であったり、定性的であったりすると、達成度合いを可視化しにくく、モチベーションを維持できない場合があります。具体的で定量的な目標であれば、達成度合いが客観的に把握できるため、労働意欲の維持や貢献意識の向上が期待できます。
進捗の把握
さらに、ゴールに対する進捗や達成度を可視化できるようになることも、目標設定の数値化によるメリットです。目標達成に向けた行動計画は、実行途中において修正や調整が求められることも少なくありません。目標を数値化しておけば、ゴールに対する現状の進み具合を把握することが可能です。行動計画の軌道修正や方針転換が必要になった場合でも、比較的容易に対応できます。
人材育成における職業・職種別の目標設定具体例
人材育成するうえで、個人の具体的な目標設定があることで、日々の業務を効率化でき、組織としても評価しやすくなります。ここでは、営業、エンジニア、総務、経理、事務、さらには管理職、新入社員といった職種・ポジション別の目標設定例を紹介します。
営業
営業部門の人材に求められるのは交渉力やコミュニケーションスキル、傾聴力、課題発見力、プレゼンテーションスキル、クロージングスキルなどです。例えば、交渉力やクロージングスキルの能力開発では以下のような目標を設定します。
目標項目 交渉力とクロージングスキル
達成基準 提案からクロージングに至る平均日数を30日から25日に削減する
行動計画
- トップ営業マンのトークスクリプトを作成
- 定期的なフィードバックセッションの実施
- 返報性の原理や松竹梅の法則などの心理学を導入
- ドアインザフェイスやフットインザドアといった交渉術の体系化
マーケティング
マーケティング部門の目的は新規顧客の獲得と既存顧客のロイヤルカスタマー化であり、そのためには企画力や分析力、キーワード選定能力、Webメディアの運用スキルなどが必要です。例としてデジタルマーケティングの人材育成では、以下のような目標を設定して取り組みます。
目標項目 デジタルマーケティングのスキル
達成基準 LPを介した新規顧客の獲得件数を前期比10%向上
行動計画
- SNSやオウンドメディアから誘導する導線の設計
- ヘッドコピーのABテストを実施
- アクセス解析を活用した定期的な改善とフィードバックを実施
- OATHの法則やQUESTフォーミュラなどの手法を取り入れる
エンジニア
ひと口にエンジニアといっても、職種やスキルによって目標設定の内容は変わってきますが、基本的に求められる能力はプログラミングやフレームワーク、論理的思考、スケジュール管理などです。経歴の浅いフロントエンドエンジニアであれば、以下のような目標や達成基準、行動計画に沿って取り組むのが一般的です。
目標項目 Webサイトのコーディングスキル
達成基準 コーディングに要する期間を20%短縮
行動計画
- 育成カリキュラムの実施
- HTMLとCSSの写経・模写
- オンライン学習サービスの活用
- JavaScriptやPHPを学ぶ
総務
総務部門では部署間の調整能力やコミュニケーションスキル、PCの基本的なスキル、マルチタスクへの対応力などが必要です。間接部門である総務は目標の数値化が困難な傾向にあるため、労働意欲や貢献意識といった情意評価の割合を高くするケースが少なくありません。
目標項目 調整能力とコミュニケーションスキル
達成基準 時代にそぐわない社内規定の改正
行動計画
- 社内のよくある質問や相談事項の体系化
- 長時間労働を美徳とする企業文化の改善
- 待遇格差の是正を推進
- 副業禁止規定の緩和・撤廃
経理
経理部門の人材には会計の基本原則、会計システムの知識、法的要件への理解、業務に対する注意力などが求められます。総務と同様に目標設定の定量化が難しいため、簿記の知識や業務の正確性などが評価対象となるのが一般的です。
目標項目 会計処理の正確性と注意力
達成基準 会計処理のエラー率を削減
行動計画
- 書類やデータの整理整頓
- エラーが発生しやすい業務領域の特定
- 定期的な監視とフィードバックの実施
- マニュアルや教育プログラムの作成
事務職
事務職には、来客対応や各部署との連絡を図るコミュニケーションスキル、書類作成におけるPCスキルや作業の正確性が必要で、企業によっては簿記の知識などが問われることもあります。特に重要なスキルが作成した書類の情報伝達力や作成時の処理速度であり、例えば以下のような目標を設定します。
目標項目 書類の情報伝達力と処理速度
達成基準 日次報告書の作成時間を25%短縮
行動計画
- フォーマットや定型文の作成
- 項目の優先順位を策定
- 箇条書きと定量的な表現を意識
- Officeソフトやタッチタイピングの習熟
管理職
管理職に求められるのはリーダーシップやマネジメント、チームビルディング、決断力、問題解決などのスキルです。管理職は一般の従業員とは異なり、俯瞰的な視点や戦略的な思考が求められます。例としてマネジメントスキルの向上を目標項目に設定した場合には、以下のような目標を設定し、取り組みます。
目標項目 マネジメントスキル
達成基準 チームのOKR達成率を60~70%で維持する
行動計画
- 定性的な目標と定量的な成果指標の具体化
- 個人のOKRとチームのOKRとを紐付ける
- 定期的な進捗状況の把握と行動計画の修正を実施
- フィードバックで得た知見をフォーマット化
新入社員
新入社員に求められるのは基礎的な職務遂行能力はもちろんですが、学習意欲や成長志向、適応力、成長性、貢献意識などのポテンシャルがより重視されます。職種によって異なりますが、新入社員の業務も定量化が困難な傾向にあるため、一般的には以下のような目標を設定します。
目標項目 学習意欲と基礎的なビジネススキル
達成基準 組織が求める最低限の能力を獲得する
行動計画
- 学習を繰り返して担当業務の工程を覚える
- ExcelやWordなどのPCスキルを会得
- 時間厳守・整理整頓・報連相の徹底
- 挨拶や身だしなみなどのビジネスマナーを習得
人材育成につながる社員の目標設定5つのポイント
目標設定では組織が従業員を評価する基準と成果指標を設けるとともに、目標の達成が人材の成長につながることが大切です。人材育成における目標設定の重要なポイントとしては、自己分析、他己評価、長期的なビジョン設定、スモールゴール設定、アクションプランの作成の5つが挙げられます。
ポイント①自己分析
目標を設定するうえでのポイントのひとつが、自己の特性と組織のニーズとを融合させることです。そのためには組織が求める人材像を理解し、従業員自身がどのように貢献するべきかを理解しなくてはなりません。自己分析によってスキルの棚卸しを実施し、自分の長所や短所を客観的に把握できれば、現状と理想の差異を可視化できます。自分に何ができて、何が足りないのかを把握することで、人材育成につながる目標を設定できます。
ポイント②他己評価
目標設定の際には、企業理念や経営ビジョンの実現に沿った形で、部門や従業員個人の目標を設定することが重要です。そのためには俯瞰的な視点で自分の特性を分析・評価する必要があり、第三者による他己評価の実施が求められます。他己評価によって、主観では気づきづらい自分の特性や資質、あるいは苦手分野なども把握できるようになり、自己成長に関する新しい視点や洞察を得られる可能性が高まります。
ポイント③長期的なビジョン設定
長期的な視点にもとづいたビジョンを描くことも大切です。例えば、産業機械やITシステムの導入といった設備投資であれば、比較的短期間で成果を可視化することも可能ですが、人材育成では目に見える成果が得られるまでに相応の時間が必要です。もちろん短期的な目標設定も重要ですが、過度な成果主義に陥るリスクが懸念され、不要な社内競争を招く要因になりかねません。人材育成につながる目標設定では、短期的な目標を設定する一方、最低1年単位の長期的なビジョン設定も必要です。
ポイント④スモールゴール設定
長期的なビジョン設定とともに、スモールゴールを設定することも欠かせません。スモールゴールとは短期的な目標ではなく、長期的な目標を細分化して小さなゴールを積み重ねることを意味します。遠すぎる目標設定は実現が困難であり、短期的な目標設定では達成によってモチベーションが失われてしまうかもしれません。長期的な目標を細分化してKPIを設定し、小さな成功体験を積み重ねることで、モチベーションを維持しながらの人材育成を実現できます。
ポイント⑤アクションプランの作成
自己分析と他己評価で従業員の特性を掘り下げ、長期的なビジョンとスモールゴールを設定できたなら、目標を達成するための具体的な行動計画を策定する工程が必要です。つまりアクションプランを作成することです。例えば営業職であれば、年間の売上目標を定めて、期末に定量的なKPIを設定し、その実現に必要な商談数や新規訪問件数、提案数、テレアポ数などの細分化した目標値を設定します。作成したアクションプランを実施し、フィードバックを受けながらKPIの改善や見直しを図っていきます。
上述した①から⑤までのポイントを押さえた目標設定を行い、従業員と企業とで実施していくことが人材育成につながります。
人材育成につながる目標を立てる際の注意点
人材育成における目標設定で注意すべきポイントが、達成可能な目標にすること、人事評価制度との一貫性をもたせること、従業員個人の目標に配慮すること、進捗可能性と測定可能性を確保すること、従業員の成長を促す体制を構築することの5つです。
達成可能な目標の設定
目標設定では達成基準をどこに置くのかが重要です。高すぎる目標設定は挫折する可能性が高く、低すぎる目標設定は簡単に達成できるため、いずれにしても人材育成には有効ではありません。目標は挑戦的でありながらも現実的であり、なおかつ具体的な数値や基準にもとづいた指標を設定する必要があります。さらに目標に対して達成期日を明確にすることも重要です。
人事評価制度との一貫性を確保
人材育成の目標設定は人事評価との整合性を保たれていなければなりません。目標の実現が組織内の評価に直結し、自身の成長につながれば、内発的動機付けにもとづくモチベーションを維持できます。例えば営業職であれば、成約率や商談数、ITエンジニアであれば、習得言語の難易度や成果物の品質といったことが評価につながる仕組みが必要です。
個人のキャリア目標への配慮
人材育成では、従業員のキャリア設計と目標設定とは個別の独立したものではなく、連携している必要があります。例えばフロントエンドエンジニアが、バックエンドエンジニアとしてのスキルを獲得したいという希望があるのなら、目標設定に組み込むことで、個人のキャリアアップと人材育成を同時に実現できます。そのためには各従業員が目指すキャリアと、組織内で果たしたい役割とを明確化してもらわなければなりません。
目標の進捗可能性と測定可能性を確保
目標設定においては進捗可能性と測定可能性を確保しなくてはなりません。目標の進捗状況を可視化し、その度合いを定量的に測定できれば、仮に行動計画に問題があった場合でも、問題点を特定し、改善策を考えたり、行動計画そのものを修正したりすることも可能です。重要なことは、組織や自身の成長に寄与し、実現可能で進捗状況がわかる目標設定を行うことです。
従業員の成長を促す体制の構築
設定された目標を達成するためには、自らが成長していると感じられるような支援体制作りも欠かせません。例えば、ワークショップを開催することによって、従業員には新しい技術や知識を習得する機会が与えられ、スキルアップにつなげることができます。業務においても新しい課題や挑戦的なプロジェクトに取り組む機会を与え、人材の成長を促進するといった仕組みが必要です。
人材育成につながる目標設定の構築はラクテスで実現
これまで述べてきたように、人材育成につながる目標設定には、従業員の成長度合いを定量的に評価する工程が求められます。しかし、客観的かつ公正な視点にもとづいたスキルチェックや採用テストの作成は決して容易ではありません。そこでおすすめしたいのが、オリジナルテストを簡単に作成できるラクテスです。
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まとめ
企業の持続的な発展には人材育成の仕組みが不可欠です。適切な人材育成の目標設定を行うことにより、従業員のキャリアアップを支援しつつ、経営基盤の強化も図れます。また、企業が求める能力の確保と人材の課題の解消を並行して行うことが可能です。個々の従業員においてはスキルギャップを可視化し、その差異を埋めるために必要な人材育成計画を立案・策定できるようになります。
ただし、スキルチェックは客観的なデータにもとづいた根拠が必要であり、決して容易な作業ではありません。ラクテスならオリジナルテストを簡単に作成し、現状の能力と不足している部分を可視化できます。類似サービスもありますが、豊富なテンプレートや自由度の高さがラクテスが選ばれる理由です。ラクテスは以下のリンクより無料会員登録でお試しできます。