ISO30414とは? 人的資本情報開示のガイドラインの目的と49項目・58指標の紹介

ISO30414は、投資家などのステークホルダーに注目され、世界的に重要性が増しています。しかし、ISO30414に取り組むメリットは投資家へのアピールだけではなく、求職者を引きつける武器にもなります。本記事では人事担当者に向け、ISO30414の概要や制定された目的、構成する項目について解説します。

ISO30414とは? 人的資本情報開示の国際的なガイドライン

「ISO30414」は、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が2018年12月に発表した人的資本情報開示のガイドラインです。ISOはスイスのジュネーブに本拠地を置く、国際規格を制定する非営利法人で、世界162か国が加盟しています。

国際規格がない状態では、国際間の取引で様々な問題が発生します。例えば、国によって製品の安全基準がバラバラだと、輸出国では安全性に問題なかったとしても、輸入国では販売や使用が許されない場合もあります。そのため、ISOが世界の基準となる規格を制定しています。

ISOの規格は大きく分けて、製品に対する「モノ規格」と、組織の経営を管理する制度を対象にした「マネジメントシステム」の2種類があります。ISO30414は、マネジメントシステム規格のひとつで、人事・組織(人的資本:ヒューマン・キャピタル)に関する情報開示のガイドラインです。11領域58項目で構成されています。

人的資本とは、人が持つ能力などを資本として捉える考え方です。企業の資本は数値化されており、社外からも容易に評価できます。しかし「見える化」が難しい人的資本は、社外からはもちろん、社内からも評価は容易ではありません。ISO30414は、企業が保有する人材の能力やマネジメント力を評価することや、人的資本の透明性を高めることを目的に制定されました。

2020年にアメリカのSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化したことを契機として、世界的な情報開示の潮流が生まれています。

ISO30414が注目されている背景

ESG投資への関心増加

ESGは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス:管理体制)」の頭文字をつなげた略語です。2008年のリーマンショックが契機となり、財務情報だけで企業価値を判断することのリスクが広く認識されるようになりました。財務情報以外に環境や社会、ガバナンスなどの複合的な要素から投資先を決めることを「ESG投資」と呼び、判断材料としてISO30414が用いられています。

さらにSDGsの浸透が相乗効果となって、ISO30414に対する注目度は高まっています。企業がサステナビリティ(持続可能性)経営に取り組むためには、環境に対する配慮や長期的なマネジメントが欠かせないからです。

2022年に内閣官房と経済産業省が共同で発表した資料に、投資家へのアンケート調査結果が掲載されています。この調査では、中長期的な投資・財務戦略において投資家が着目する情報として「人材投資(67.3%)」が最も多くなっています。投資家は「IT投資(66.3%)」「研究開発投資(63.4%)」よりも「人材投資」を重視していることが分かります。

参照:内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 経済産業省 経済産業政策局 基礎資料

コーポレートガバナンス・コードの改訂

2021年に東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂したことも、ISO30414の注目度を高めている要因のひとつです。コーポレートガバナンスとは、企業に対して利害関係を持つ株主や顧客、従業員、地域社会などのステークホルダーのために、企業が公正で迅速な意思決定を実行するための仕組みのことです。

改訂コーポレートガバナンス・コードでは、サステナビリティを巡る課題への取り組みが推奨されたほか、各取締役員が持つスキルと備えるべきスキルの対応関係の公表や、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針と実施状況の公表が盛り込まれています。上場企業は人的資本に関する情報開示を求められています。

コーポレートガバナンス・コード

参照:改訂コーポレートガバナンス・コードの公表 | 日本取引所グループ

人材版伊藤レポートの発表

人材版伊藤レポートとは、2020年9月に経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」がとりまとめた報告書のことです。当該研究会は一橋大学特任教授の伊藤邦雄氏が主宰し、人材戦略や人的資本経営を対象に研究を行っています。

人材版伊藤レポートには「ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略との連動が持続的な企業価値の向上には不可欠である」と記されおり、人的資本と経営戦略との連動の重要性が指摘されています。

人材版伊藤レポート

ISO30414に沿った情報開示の目的

自社への投資を呼び込める

ISO30414に沿った情報開示の目的のひとつが、人的資本の情報を判断材料にしている投資家を自社への投資に呼び込むことです。定量化された人的資本に加え、SDGsへの取り組み状況などを情報開示することにより、投資家から高い評価が得られ、投資対象として重視されるようになります。

人的資本の定量化をすることで、企業として、どの項目に人的投資をすればよいのかが分かりやすくなります。人材の確保や育成、マネジメントなどに対する人材戦略が正しく実行できているかの評価は容易ではありません。ISO30414を指標にすることで、自社の人材マネジメントに不足している項目が顕在化します。不足した項目に注力し、投資が過剰な項目はコストカットを図れば、人材マネジメントの最適化につながります。

採用力を高められる

人的資本の情報開示には、採用力を高めるという目的もあります。求職者から見た場合、どの程度の投資を人材育成に対して行っているのかは、企業を選択するうえでの大きな判断材料になります。特にこれから社会人としての経験をスタートさせる新入社員にとっては、企業の成長性とともに、自身をどれだけ成長させてくれる可能性があるのかは重要です。人的資本の情報開示がなされていれば、求職者にとって入社後の自身のイメージを作りやすくなり、入社意欲の向上、ひいては企業の採用力向上につながります。

ISO30414で定められている開示項目

ISO30414で定められている人的資本に関する開示項目は11領域49項目、58指標で構成されています。ここでは58指標すべてを紹介します。たとえばダイバーシティという1つの項目の中に、年齢・性別・国籍・障がい者数などいくつかの指標が含まれています。

コンプライアンスと倫理

「コンプライアンスと倫理」領域は、以下の5項目で構成されています。

  1. クレームの件数と種類
  2. コンプライアンスと倫理に関する研修時間
  3. 外部との紛争解決
  4. 外部監査の回数、種類、および実施元
  5. これらから得た知見と行動

コスト

「コスト」領域は、以下の7項目で構成されています。

  1. 総人件費
  2. 外部人件費
  3. 基本給と報酬の労働者区分ごとの比率
  4. 雇用の総コスト
  5. 採用あたり費用
  6. 採用コスト
  7. 離職関連費用

ダイバーシティ

多様な人材の活用を指す「ダイバーシティ」領域は、「管理職(リーダーシップ)」「従業員」の2項目から構成されます。それぞれの項目に対して、以下を開示し、企業全体の多様性を測る指標とします。

  1. 年齢
  2. 性別
  3. 国籍
  4. 障がい者数
  5. 管理職(リーダーシップ)のダイバーシティ

リーダーシップ

「リーダーシップ」領域は、以下の3項目で構成されています。

  1. リーダーシップへの信頼
  2. 管理職一人当たりの部下の人数
  3. メンターやコーチという正式な機能を持つリーダーの割合

組織文化

「組織文化」領域は、以下の2項目で構成されています。

  1. エンゲージメント・満足度・コミットメント
  2. 従業員の定着率

健康、安全、ウェルビーイング

以下の5項目で構成されています。

  1. 傷害による休業
  2. 労働災害の発生件数
  3. 労災による死亡者数
  4. 安全衛生に関する研修の受講比率

生産性

「生産性」領域は、以下の2項目で構成されます。

  1. 従業員一人当たりの売上、利益、EBIT
  2. 人的資本の投資対効果

採用・異動・離職

「採用・異動・離職」領域は、以下の15項目で構成されています。

  1. ポジションごとの候補者数
  2. 1人あたりの品質 入社前の期待に対する入社後の成果
  3. 欠員を埋めるまでの期間
  4. 重要ポストの欠員を埋めるまでの期間
  5. 移行と将来の労働力能力・スキル評価
  6. 重要なポジションの比率
  7. 社内人材で充当できるポジションの比率
  8. 社内人材で充当できる重要なポジションの比率
  9. 全欠員者に対する重要なポジションの欠員の比率
  10. 社内異動比率
  11. 従業員層の厚さ
  12. 離職率
  13. 自主退職数
  14. クリティカルな理由の自主退職率
  15. 退職理由

スキルと能力

「スキルと能力」領域は、以下の5項目で構成されています。

  1. 人材の育成にかかったコスト
  2. 育成プログラムに参加した従業員の比率
  3. 従業員1人あたりの育成プログラムの受講時間
  4. 様々なカテゴリーの育成プログラムに参加した従業員の割合
  5. コンピテンシー

後継者計画

「後継者計画」領域は、以下の3項目で構成されています。

  1. 後継の効率(重要なポストが空いた際に、内部登用で効率よく充当できているか)
  2. 後継者のカバー率
  3. 後継者の準備度合い(準備済み)
  4. 後継者の準備度合い(1~3年以内)
  5. 後継者の準備度合い(4~5年以内)

労働力

「労働力」領域は、以下の4項目で構成されています。

  1. 従業員数
  2. 常勤従業員数
  3. 外部労働力(業務委託者数)
  4. 外部労働力(非常勤労働者数)
  5. 欠勤発生率(アブセンティーイズム)

ISO30414原本は以下で購入できます。
ISO 30414:2018 – Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting
ISO 30414:2018 ヒューマンリソースマネジメント-内部及び外部人的資本報告の指針 | 日本規格協会 JSA Group Webdesk

まとめ

企業に所属する人材の能力の「見える化」にISO30414のマネジメントシステム規格は有用です。ステークホルダーへのアピールだけではなく、求職者を引きつける武器になります。

しかし、実際にISO30414に従って人的資本を可視化するのは容易ではありません。サイトエンジン株式会社の提供するテストツール「ラクテス」では独自の筆記試験や適性チェックテストを作成し、人材の能力を把握するテストを行えます。また、採用活動や昇進試験、研修内容の確認など多用途に活用できます。無料でも月に10回受験できるので一度お試しください。

ラクテス

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