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オウンドメディアリクルーティングとは?
オウンドメディアとは、企業が自ら保有するメディアのことです。自社の採用サイトやメルマガなどが該当します。オウンドメディアリクルーティングとは、オウンドメディアで自社の求人情報だけではなく、ミッション・ビジョン・バリュー、社員の働いている様子、事業内容の詳細、会社の制度・労働環境などについて幅広い情報発信をすることで、求職者に自社の魅力を伝えて応募してもらう採用方法です。さまざまな情報を隠すことなく発信することで透明性が高まり、ミスマッチを減らすことにもつながります。
オウンドメディアリクルーティングが必要になってきた背景
求職者の志向は多様化しつつあり、インターネット上で自ら能動的に求人情報を検索、確認するようになってきています。また、有名な求人ポータルサイトなどで求人を発見したあとに、すぐに応募はせず、まずは企業のホームページや採用専門サイトを確認する人も増えてきています。仕事を選ぶときにやりがいや成長などを求める人もいれば、企業規模やポジションや安定性を求める人もいるでしょう。企業のサイトをを確認することで求職者はその企業の雰囲気をつかむことができます。
Indeed Japanが2018年12月に実施した調査によると、求職者の8割以上がオウンドメディアを訪問いています。(データ参照:書籍 オウンドメディアリクルーティングの教科書)
ジョブ型雇用が増加してきているのもオウンドメディアリクルーティングが増える要因の1つです。ジョブ型雇用では、職種ごとに詳細な募集要項(ジョブディスクリプション)が必要になるなど、メンバーシップ型雇用での一括募集よりも伝えるべき情報が増えるためです。オウンドメディアであれば自由に細かく切り出して情報を伝えることができる一方で、求人情報サイトなどは料金プランなどの都合で掲載できる職種が制限されてしまうことがあります。また、多数の求人情報サイトで各ジョブディスクリプションを都度更新するとなると、コストや手間が増えてしまいます。
オウンドメディアリクルーティングの導入メリット
自社の魅力を伝えることができて求人応募者が増える
自社の魅力をさまざまな角度で伝えることで、認知度が高まり、求人の
掲載期間を気にせず求人できる
有料で掲載期間が決まっている有料の求人サイトと異なり、オウンドメディアであれば掲載期間を気にせずに情報を追加していくことができます。掲載期間やサイトごとに登録しなおす手間がなくなります。
転職潜在層にもアピールできる
すぐに転職しようとは考えていない潜在層に向けてアピールできます。情報収集していたらたまたまサイトを見かけて会社を認知してくれた人に、数カ月後、数年後などに転職しようと思いたったタイミングで想起してもらうことを目指します。
優秀な人材で現在の勤務先に満足していて、積極的に転職先を探そうとしていない人でも、興味の引く情報発信を継続的にしている会社があれば社名を覚えてくれることもありえます。これは特に採用だけを目的としたオウンドメディアではなく、広く情報発信している会社ではよくあることです。実際同じ業界内で有名なサイトを制作している会社だと、面接に来る候補者のほとんどが自社のオウンドメディアに目を通していることもあります。
文化や雰囲気を伝えて自社に適した人材獲得ができる。ミスマッチが減る
会社の文化や雰囲気を隠すことなく伝えることで、ミスマッチを減らせます。たとえば、勉強会や懇親会などのイベントの様子を採用サイトに掲載しておけば、それらが良いと思う人は応募してくる一方で、懇親会などはできるだけ参加したくないと思う人は応募してこなくなります。
すべての制度がすべての求職者にとって良い印象を与えるかというとそうではなく、合わない人もいます。良し悪しではなく、合う合わないのすり合わせのためにさまざまな角度から自社を紹介します。
ジョブディスクリプションから、適した人の応募を集めやすい
それぞれの職種について詳細な説明を書いて募集できるので、合致したスキルや経験を持つ人からの応募を集めることができます。オウンドメディアであればいくらでも細分化して募集できるため、ニッチなキャリアのニーズも拾えます。
PDCAをまわしやすい
Googleアナリティクスに代表されるアクセス解析やサーチコンソールなどから、流入経路、検索キーワード、人気のコンテンツなどのデータを取得できます。データをもとにどういった要素を強調して情報提供していくと自社にあった求職者に見てもらえるのか分析してPDCAをまわせます。
コンテンツが資産化することで費用対効果が改善していく
一度制作したコンテンツが継続的に流入や応募を集めてくれることがあるため、積み上がっていく性質があります。そのため、少しずつ費用対効果が改善されていきます。
オウンドメディアリクルーティングのデメリット
成果が出るまでに時間がかかる
オウンドメディアを作ったからといって、すぐに採用できるわけではありません。また、いつから採用に貢献しはじめるのか事前に予測するのは難しいです。そのため、直近の採用ニーズを満たすには間に合わないことが多いです。
基本的にオウンドメディアだけに採用経路を絞るということなく、さまざまな他社の求人情報サイトと組み合わせて利用することが必要になります。
まとまった工数が必要
安定して更新し続けることで成果につながる性質のものです。
成果を出すまでにはまとまった工数が必要になります。担当者が複数の業務と兼務で進めている場合、更新が止まってしまいがちですので、開始するタイミングで他の業務の一部をやめるか、新しい担当を採用するなど、人員の確保することをおすすめします。
採用サイトとの違いは?
オウンドメディアリクルーティングと採用サイトの違いについて質問されることがあります。採用サイトはオウンドメディアに含まれていますので、厳密な意味でいうと特に違いはありません。ニュアンスの違いでいうと、採用サイトはどちらかというと最初に制作するところまでで、オウンドメディアは構築後の運用が中心の文脈で語られていることが多いように感じます。
たとえば予算が500万円あったとして、採用サイトというと初期費用400万円、更新のために100万円といった予算の割り振りなのに対して、オウンドメディアは初期費用100万円、運用のために400万円の配分をするといったイメージです。
ただし会社や人によって言葉から想像するものは大きく異なっています。オウンドメディアリクルーティングという言葉自体ができたばかりですので、定義の認識が人によってずれていることがあるのも仕方がないことです。
オウンドメディアリクルーティングの具体的な進め方
目的の設定
母集団掲載、潜在層のタレントプール化、マッチング精度向上、コスト削減、インナーブランディング、自社採用比率アップなど、オウンドメディアリクルーティングを実施する目的を決めましょう。
KGI・KPI設定
次に、目的を達成するのはどういう状態なのかを目標数値を決めて定義しましょう。いつまでに、どの数字をどこまで変えるのかを決めます。
職種ごとの採用人数の計画策定をして、その後オウンドメディア経由で集客するためにそれぞれの職種に向けたコンテンツをどれくらい制作するか決めます。
また、オウンドメディアのセッション、ページビュー数や求人応募者数、書類選考通過数、面接設定数、面接実施数、内定数、採用数など採用までの途中経過の数値をKPIとして設定します。
いきなり採用数を目標にして取り組むと、遠く感じてしまって途中でプロジェクトが頓挫しやすいため、まずは年間のコンテンツ数や掲載求人数などの行動量を追うことを推奨します。その後、セッション数やPV、応募者数、採用数など少しずつ目標として設定する数字を本採用に近づけていきます。
予算もKGIとKPIとセットで決定しておき、社内で承認をとります。
事業部の役職者などに理想の人材像の確認
入社後に働くことになる部署の役職者から、その職種に適した人材はどのような特徴があるのかをヒアリングします。すでに活躍している人材の見極めと特徴の抽出をします。活躍中の人材はどの媒体経由での応募が多いか、なぜ自社を選んだのか、今後のキャリアプラン、過去の経歴などいろいろ聞くことで、求人でアピールするべき職種ごとの求職者ペルソナを制作します。ポジションごとに採用時に必須の要件も決めます。
ジョブディスクリプションの作成 事業部責任者に関与してもらう
役職者とポジションごとの採用必須要件を決めます。ジョブディスクリプションには以下のような情報を含めます。
- 職種・職務名
- 職務等級
- 具体的な職務内容とそれぞれの配分イメージ
- 職種に求められるミッション・役割
- 組織との関わり方
- 責任や権限の範囲
- レポートライン(直接やり取りする上司や部下の役職や人数など)
- 雇用形態、勤務地、勤務時間などの条件
- 待遇や福利厚生
- 必須の経験・知識・スキル・資格など
- あると良い経験・知識・スキル・資格など
たとえば同じエンジニア職でもマネージャーとプレーヤーでは必要な要件が異なるでしょう。必須の経験やスキルと、あると望ましい経験やスキルは切り分けて設定してください。
ジョブディスクリプションの詳細について知りたい方はあわせて以下をご覧ください。
ジョブ型雇用のためのジョブディスクリプション(職務記述書)の作り方とポイント
自社や事業の特徴・強み弱みの整理、自社の魅力の深掘り
自社や事業の特徴や強み弱みを整理し、自社の魅力のうちどこをアピールすれば、ペルソナとして設定した求職者に応募してもらえるのかを検討します。求職者が他社と比較するときに、どんな基準をチェックしているのかを洗い出しましょう。できるだけ客観的な視点で良い点、悪い点を整理します。社内の活躍人材からヒアリングしたポイントも参考にしましょう。
優秀な人材ほど意味報酬を求めているので、給与や福利厚生などのわかりやすいメリットだけではなく、社会的意義、一緒に働くことになる人材像、裁量などの仕事のやりがいなどもしっかりと整理していきましょう。「どう働くか」だけではなく、「なぜ働くか」も含めて候補者の方に伝わるようにします。
このステップできちんと独自性のある要素を抽出できていると、読んでもらいやすい採用コンテンツを作りやすくなります。
情報設計と掲載先のWebサイトのデザインや構築
オウンドメディアにどう情報を掲載するか整理します。ジョブディスクリプション、社員インタビュー、イベント、プロダクト紹介などのカテゴリを設計します。
掲載先のオウンドメディアの機能やデザインを決めるときには、最初はあまり複雑にしすぎないようにしてください。ただし、最低限のCMS(コンテンツマネジメントシステム)は入れておきます。CMSとは、ブログやSNSのように簡単にオウンドメディアに情報をアップできるシステムのことです。CMSを入れておけば、プログラミングやHTML/CSSなどの特別な知識がない人でもオウンドメディアにコンテンツを追加できるようになります。WordPressのようにオープンソースになっている無料のシステムを使えば、安価に導入できます。
編集体制の構築
オウンドメディアリクルーティングはやることが大量にあります。そのため、今までやってきた仕事と兼務の形で新しい仕事としてただ追加すると、進まなくなってしまうことがあります。今までしていた仕事の一部をやめてしっかりとオウンドメディアを更新するための時間を捻出するか、別途編集者やライターを採用したり、社内で配置転換したりして取り組むことを推奨します。
採用人事の担当者以外の事業部のメンバーも巻き込んで、協力してもらいながら進めることになるので、あらかじめ関係各所などに承諾を得ておくとよいです。また、経営陣のコミットを引き出すことも重要です。スタートアップや中小企業の場合は、全員が採用に何らかの関与をする意識を持てるとよいです。大企業の場合はさすがに全員は難しいと思いますが、各部門に数名ずつ協力者をつくりましょう。経営陣の積極的な協力を得られていれば、担当役員や事業部長などに協力者を作る後押しをしてくれる可能性があります。
ネタの整理と公開スケジュールへの落とし込み
キャンディデートジャーニーマップという求職者が取る一連の行動を整理してまとめたものを作ることがあります。すぐに転職しようと考えている人だけではなく、潜在層の行動も含めて対象にします。タッチポイントはオウンドメディアだけとは限りません。
たとえばSNSや友人・知人からのクチコミなど、さまざまなシチュエーションを想定します。最近ではTwitter、Instagram、YouTube、TikTokのような媒体で採用を進める企業もあり、ホームページだけで人を集める時代ではありません。自社が採用したいと考えている層の人たちはどんなSNSを普段見ているか確認して、適切なチャネルで情報を届けるようにします。
採用目的だけではない勉強会などのイベントを開催して潜在的な転職希望者と接点を作る会社もあります。
コンテンツフォーマットや掲載媒体の決定
ユーザーとのタッチポイントとなる媒体とコンテンツはセットで考えます。ネタの整理と同時にどのようなコンテンツをどの媒体で公開するかを考えます。採用コンテンツはテキスト+画像の記事形式だけではなく、動画やインフォグラフィックや音声などのフォーマットもあります。
企画、構成、取材、執筆、校正校閲
実際にコンテンツを作成します。複数名で編集会議を実施して企画を立て、構成を考えてから、取材や執筆をします。初稿が書き終わったらライター担当以外の人があわせてチェックするようにします。複数名の視点で修正することでより良い内容にブラッシュアップされていきます。
とにかくわかりやすく書くことと、堅くなりすぎないようにすることを意識します。求職者視点を常に意識して、内輪ネタにならないように気をつけます。たとえばうっかり社内の専門用語などを含めてしまい、外部の人には意味が伝わらないようなことがあるとせっかくの原稿がもったいないです。
真面目すぎる書き方は避けて、書き手やインタビュイー(取材を受ける人)の人柄が伝わるような表現を意識します。
SNSなどで拡散
制作した採用コンテンツは自社や関係者のSNSアカウントなどで拡散します。協力してくれる従業員の数が多ければそれだけ見てもらえる数が増えます。また、依頼しなくても自社の従業員がSNSに投稿してくれるかどうかは、会社に良い印象を持ってくれているか、良いコンテンツを制作できているかのバロメータにもなります。
改善
閲覧数、応募数、内定数、承諾数などの指標を元にどのようなジョブディスクリプションやコンテンツが採用につながりやすいのかを分析して改善していきます。同じ職種でも、伝え方によって応募者数は大きく変わります。たとえば弊社の例でいうと、編集者/コンテンツディレクター/インハウスエディターのように社内向けコンテンツの編集職でも、職種名称の付け方は複数パターンあるえます。それぞれ伝わりやすい相手や魅力を感じてもらえる人の層は変わりますので、応募者数も変わってきます。
オウンドメディアに流入している検索キーワードも貴重な情報です。どのように求人を探している人が自社に応募してくれているのかを確認することで、求職者が探している情報にそったコンテンツを制作できます。
PDCAサイクルを回して、少しずつ応募が増えるコンテンツを増やしていき、積み上げていきます。
採用オウンドメディアに掲載する情報の種類
採用向けオウンドメディアに掲載する情報に特に制限はありません。大切なのは、良いところだけを見せるのではなく、悪いところもすべて包み隠さず伝える透明性です。
良い面だけを見てもらって入社が増えたとしても、定着して活躍してくれる人材が増えなければオウンドメディアリクルーティングは失敗です。
たとえば福利厚生についての情報を充実させたとして、そこに興味をひかれて応募した人を積極的に採用したいでしょうか?会社のステージによりますが、できたばかりでこれからハードに働いて急成長していくような志向を持つ会社の場合、福利厚生がきっかけとなって応募してくれた人はマッチしないかもしれません。
自社の採用したい人材像に向けた情報を整理して公開しましょう。
- なぜ事業をしているのか根本となる企業理念
- 事業の社会的な価値、存在意義
- 社風を伝えるようなエピソードや制度など
- 行動規範
- 社員インタビュー
- 社員紹介(プライベートな写真なども含まれているとよりよいです)
- キャリアパス
- オフィス環境
- 組織データ(平均年齢、平均給与、離職率、平均在籍年数、性別の比率など)
- 福利厚生・社内制度
- 懇親会や勉強会や納会など社内のイベント
- ジョブディスクリプション
採用オウンドメディアのネタに困ったときには、入社したばかりの同僚に他社のものも含めてどんなコンテンツをチェックしたのかを聞くのがおすすめです。実際に転職活動を最近していた人からヒアリングすることで、実態に即したネタを見つけることができます。
オウンドメディアリクルーティングについてのよくある質問
目的や目標によります。数を増やすほど数字は積み上がっていく傾向はあります。まずは無理のない範囲で継続的に公開し続けることが大切です。
会社の知名度やコンテンツ公開のペースによって異なりますが、多くの場合で効果がでるまでにはかなりの時間がかかります。6ヶ月~2年程度は想定しておくことを推奨します。
ストック情報とフロー情報で分けて考えます。ストック情報とは時間が経過しても価値が変わりにくいコンテンツで、フロで情報は時間の経過で価値が薄れていくものです。たとえば会社の定期イベントを制度として紹介する記事はストック情報で、開催した社内のイベントの様子を定期的に写真つきで紹介するのはフロー情報です。毎月開催しているイベントで去年実施された分の記事は現時点では価値が少なくなっています。
最初は編集、ライター、校正校閲担当などをすべて兼務する形でも始められなくはないですが、進みが遅くなるので分業したほうがよいかと思います。編集者(インハウスエディター)、ライター、校閲、デザイナーなど役割分担することで、採用コンテンツの幅が広がりますし、公開数も増えます。