客観的で一貫性のある採用活動を行うためには、採用基準の明確化が欠かせません。自社の社員として、どのような能力や人柄を持っている人材が望ましいのか曖昧なままでは、行き当たりばったりに人材を集めるだけになってしまうでしょう。
本記事では、そもそも採用基準とは何のために必要なのかという基本事項からはじめ、採用基準の決め方やその際の注意点を解説します。採用活動のクオリティを高めるために、ぜひご参考にしてください。
目次
採用基準とは
「採用基準」または「選考基準」とは、企業が採用活動をする際に、自社の求める人材を選考・採用するために用いる評価基準です。企業として、客観的な数値や指標などを使って採用基準を明確化することで、採用担当者の主観などに左右されずに、透明性のある一貫した指針に基づいた採用活動をしやすくなります。採用基準は、自社がどのようなスキルや能力、人格的な特性を持った人材を必要としているかという「採用要件」に基づいて作成していきます。
採用基準の必要性と目的
企業が採用基準を作成するのは、適切な採用という目的を達成するために必要であるからです。具体的には、以下の理由が挙げられます。
1. 面接精度を改善するため
採用基準の目的のひとつは、面接の精度を改善することです。企業の中には、面接で応募者に尋ねるべき事柄を事前に明確化することなく、行き当たりばったりで行ってしまっているところも多く存在します。
そうなると、面接官が応募者を評価するポイントは面接ごとにバラバラとなってしまい、採用する人材の質にも差が生じやすくなります。その点、採用基準を明確にしていれば、面接官は互いに共有した観点を持って応募者の適性を見極めることになり、面接官ごとに選考プロセスや評価方法がぶれる危険性を小さくできます。採用基準があれば応募者に質問すべき事柄などにも一貫性や合理性が生じやすくなるため、面接時間をより有意義なものにすることが可能です。
2. ミスマッチをなくして早期離職率を下げるため
早期離職率を低下させることも採用基準が果たす重要な役割です。採用基準がないと採用する人材に質や能力の差が生じやすくなります。不明瞭な基準によって採用され、入社した人の中には、業務をこなすためのスキルや能力が不足している人や、自社の企業風土にそぐわない性格を持った人なども混じってくるでしょう。あるいは逆に、自社が提供する職務に対してその人がオーバースペックで、仕事にやりがいを持てない人も出るかもしれません。
こうしたミスマッチは結果として社員の早期離職を招く大きな要因です。企業は採用活動のために多大なコストと労力を割いています。それは入社後の育成についても同様です。それゆえ、企業は自社に適合しやすい人材の特性を採用基準に組み込むことでミスマッチを減らし、早期離職率を低下させようと努めます。
3. 効率よく採用活動を行うため
採用基準を明確化することは、効率的に採用活動を行うためにも必要です。明確な採用基準がない場合、誰をどのような基準で採用するかは面接官個々人が判断することになります。しかし、「自社にどのような人材がふさわしいのか」「応募者の適性を見るにはどこに注目すべきか」といった課題は、面接官一個人がその都度判断するのには大きすぎるテーマです。
あらかじめ採用基準が設定・共有されていれば、上記のような問題にいちいち悩まされることなく、限られた面接時間を有効に使って正当な評価をしやすくなります。また、面接官同士で誰を採用すべきか議論する際も、採用基準という共通の指標があれば、意見のすり合わせが行いやすくなるでしょう。
採用基準の決め方
上記のように採用基準は企業の採用活動において決定的な重要性を持ちますが、採用基準はどのように作ればいいのでしょうか。続いては、採用基準の決め方を解説していきます。
1. 求める人物像を明確にする
第一にすべきは、自社が採用したい人材の人物像を明確にすることです。そのためには、各部署へのヒアリングを行い、どの部署がどのような人材を求めているのか明らかにしなければなりません。というのも、採用担当者が望ましいと思っている人物像と、現場の欲しがっている人物像のあいだにはしばしばギャップがあるからです。
各部署へのヒアリングが終わったら、そこで入手した内容を基に、採用すべき人材に求められる能力、スキル、経験、性格的特性などの要件を明らかにしていきます。その際に重要となるのは、それらの要件をただ列挙していくのではなく、それらの要件を備えた具体的な人物像「ペルソナ」を思い描くことです。
ペルソナとは簡単に言うと、具体的かつ詳細な設定が付与された架空の人物です。ペルソナは単に仕事をするだけの機械人形ではなく、家族や友人を持ち、独自の考え方や価値観を持って生活する生き生きとした人間として設定します。このようなペルソナを作ることで、自社が求める人物像を明確にするだけでなく、そうした人材を採用するにはどのようにアプローチすべきかもより鮮明になってきます。
2. 活躍している社員の行動特性を洗いだす
実効的な採用基準を作るには、活躍している社員の行動特性(コンピテンシー)を分析することも重要です。採用活動においてはできるだけ優秀な人材を獲得したいものですが、優秀な人材とはどのような行動特性を持った人物なのか0から考えることは容易ではありません。
そこでおすすめなのが、身近に存在する優秀な社員をモデルケースとして取り上げ、その優れた成績がどのような行動に由来するものなのか分析する手法です。この分析によって、優秀な人材に固有の行動特性を抽出できれば、その内容を採用基準の中に組み込み、優秀な人材を見極めやすくできます。
3. 就活や転職市場の相場を把握する
就活市場や転職市場の相場を把握することも重要です。自社が求める人物像を明確化できたとして、はたしてそうした人物が実際に存在するのでしょうか。実在したとして、その人物を雇用するには、どのような待遇や賃金が必要になるのでしょうか。
実際の市場の状況やトレンドを把握することで、設定したペルソナや採用要件が現実的に見て妥当かどうか判断しやすくなります。たとえば「AIを扱える高度IT人材」を欲したとして、2022年現在の売り手市場において、生半可な条件ではそうした貴重な人材は寄ってきません。自社に必要な人材を明確化することは大切なことですが、実際の採用活動で結果を出すためには、現在の市場の実情やターゲット層の価値観に沿った内容に調整することも必要不可欠です。
4. 評価項目を決定し優先順位を明確にする
ここまでのステップを通して、採用要件はかなり具体化してきたのではないでしょうか。ここからは、上記のステップで明らかになった採用要件に基づいて評価項目を設定し、どのような要素を持った人材を採用すべきか、あるいは逆にどのような人材は避けるべきか、優先順位を決めていきます。
基本的な評価指標としては、必ず欲しい「必須条件」、できればあったほうが望ましい「歓迎条件」、避けたほうがいい「NG条件」の3つを設定するのがおすすめです。こうした優先順位を決めることで、採用活動をスムーズに進めやすくなります。なお、「評価項目を満たしているか/いないか」という単純な基準だけでは緻密な判断をするには心許ないので、必須要件や歓迎要件の枠内でもさらに優先順位を設定したり、同じ要件の中でも「どのくらいのレベルでその要件を満たしているのか/満たしていないのか」など、評価にランク制を導入したりするのがおすすめです。
5. 各選考フローに反映させる
ここまでのステップを通して採用基準が完成したら、それらを各選考フローに反映させていきます。たとえば中途採用で一定の実務経験を応募者に求めているなら、履歴書や職務経歴書などの書類選考時点である程度応募者を絞り込めます。また、基本的な学力や一般常識、ある種の性格的特性などを求めているなら、適性検査などを実施するといいでしょう。
その他にも、一次面接、最終面接など、各選考フローにおいて評価すべきポイントを採用基準に基づいて決めていきます。あるいは、「一定のコミュニケーション能力」という採用基準を応募者が満たしているか判断するためにグループ面接を導入するなど、採用基準に合わせて既存の選考フローを調整することも重要です。
採用基準に入れるべき項目例
採用基準に入れるべき具体的な項目としては、以下のような例が挙げられます。
スキル
自社の職務をこなすために必要なスキルを備えているかを評価します。たとえば経理部門の人材を中途採用で欲しい場合は、「経理・会計部門の実務経験を〇年以上」というように設定します。「日商簿記〇級以上」や「税理士資格」などの資格を必須・歓迎要件に入れるのもおすすめです。特に専門職の場合、こうしたスキルの有無は非常に重要です。
適性検査の点数
学力や一般常識、基礎的な知的能力の程度などを重視するならば、適性検査の点数が客観的な指標として役立ちます。英語に堪能な人材が欲しいのなら、他の分野に比べて英語のテストだけ合格ラインを厳しくするなど、総合点だけでなく分野別に合格ラインを設定するのもひとつの手法です。
行動特性(コンピテンシー)
優秀な人材を獲得する可能性を高めるには、優秀な人材に共通する行動特性を応募者が有しているか分析するのが有効です。行動特性は性格検査などからもある程度窺えますが、「コンピテンシー面接」を導入するのがおすすめです。コンピテンシー面接においては、応募者の体験談といった特定の話題を深く掘り下げ、「なぜそうした行動に至ったか」などを説明させることを通して、応募者の行動の動機や思考プロセスなどを見極めます。
人柄
組織の中で活躍していくためには、周囲の人と良好な人間関係を築ける人柄やコミュニケーション能力も重要です。特にコミュニケーション能力は、職務を円滑に遂行するため必ず求められます。応募者の人柄やコミュニケーション能力を評価するには、性格検査のほか、面接での直接のやりとりが判断材料になります。面接だけでも性格検査だけでも、人の性格面を正確に判断するのは難しいので、検査結果と面接の両面から多角的に見極めることが重要です。
志望度
応募者がどれほど自社への入社を希望しているかも判断材料として重要です。自社に対する熱意を感じられない人材に合格を出しても、他社に流れたり、早期離職したりすることが懸念されます。志望度は面接において、自社に関する理解度を測る質問などを通して測りましょう。
採用基準を決めるときの注意点
採用基準を決める際には、以下の点に注意することが重要です。
公正な選考を心掛ける
採用基準や実際の選考活動は、応募者の基本的人権や就職の機会均等の権利を尊重した公正なものでなければなりません。たとえば、職務に必要とされる各種の要件が他の応募者を上回っているにもかかわらず、「女性だから」「障がい者だから」といった差別的な理由で採用を見送ることは公正さに欠けています。もちろん、採用基準そのものに、そのような差別につながるような項目を組み込むことも避けなければなりません。
厚生労働省では、公正な採用基準を作るための基本的な考え方を下記のサイトに掲載しています。採用基準を決める際には、この内容を参考に、応募者の適性や能力に基準を置くように注意しましょう。
言葉の定義を明確にする
採用基準を作る際には、言葉や要件の内容を厳密に定義することが重要です。たとえば「英語に強い人材」とするだけでは、具体的にどのような英語レベルの人材が必要なのか、捉える人によって解釈が分かれます。人によっては簡単な日常会話レベルの英語ができるだけでも十分に凄いと捉えるかもしれませんし、人によっては専門書の翻訳やビジネス英語を同時通訳できるくらいでないと「英語に強い」とは認めないかもしれません。
それため、採用基準を設ける際には、基準が曖昧にならないように、具体的な内容を記載することが重要です。たとえば実務経験を採用基準に組み込むなら、「経験年数3年以上」というように、明確な記載をする必要があります。
中途採用と新卒採用では基準が異なる
採用基準は中途採用と新卒採用で基準を変える必要があります。企業は通常、中途採用者に対して即戦力としての活躍を期待します。したがって中途採用の採用基準には、すぐに自社の業務で活用できそうなスキルや経験を定めるのが一般的です。
一方で、高校や大学を卒業したばかりの新卒人材に、中途採用者と同等の即戦力性は期待できません。新卒の採用基準では、自社において長い目で育成したいと思えるようなポテンシャルや人柄を見極めることが大切になります。
採用基準を見直すべきケースとは
採用基準を設定しても、それが思うような効果を上げられていないような場合もあるでしょう。以下では、採用基準を見直すべきケースについて解説します。
人事と現場の求める人物像が一致してない
人事と現場で求める人物像が一致していない場合、基準の見直しを図るべきです。採用担当者が高評価を下した人材でも、現場からしたら不適格であることは珍しくありません。人事採用に対して現場から不満が噴出していたり、人事と現場のあいだで合否の判断に食い違いが生じたりする場合は、改めて両者のあいだで採用基準をすり合わせる作業が必要になります。
転職市場を考慮せず採用基準が高い
中途採用の場合、採用基準を決める際に転職市場の相場やトレンドを十分に考慮することが必要です。市場の相場に比べて採用基準が高ければ、その分だけ条件に合致する人材の絶対数は少なくなります。厳しすぎる採用基準を設けることは、優れたポテンシャルを持った人をいたずらに逃がすことになりかねません。それゆえ、中途採用の採用基準を考える際は、現行の転職市場の相場を十分に調査し、一部の必須要件を歓迎要件に変えるなど、市場の実情に沿った内容にする必要があります。
面接官により結果のばらつきがある
面接官によって評価や合否の結果にばらつきがある場合、採用基準に曖昧な部分が存在する可能性があります。言葉の定義を明瞭にする必要があるのと同様に、選考において評価すべきポイントが分かりにくいと、面接官が自分の主観に頼らざるをえない場面が増えてきます。もし面接官の判断にばらつきが出ているのであれば、一度採用基準を見直し、読む人によって解釈が分かれるような曖昧な部分がないか精査することが必要です。
定めた採用基準を満たしているかどうか確認できる「ラクテス」
応募者が自社の採用基準を満たしているかどうか確認するには、スキルチェックテスト作成ツール「ラクテス」の導入がおすすめです。
ラクテスとは、自社オリジナルの採用テストを簡単に作れるクラウドツールです。ラクテスでは「職業適性チェック」、国語能力や計算能力を測る「基礎能力チェック」、Excelやプログラミングなどの実用的なスキルの有無を確認できる「スキルチェック」など、多種多様なテストを簡単に作れます。ラクテスを使って、自社の採用基準に最適化されたテストを応募者に実施することで、効率的に採用基準に適合した人材を見極めることが可能です。
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まとめ
採用基準を明確化することで、企業の採用活動に明確な評価基準を与え、面接官の主観による評価のばらつきを抑えられます。これによって企業は採用者の能力や適性レベルを一定に保ち、早期離職率を減らすことが可能です。
採用基準を決める際には、読む人によって解釈にずれが生じないように、厳密に言葉や要件を定義することが重要です。また、採用基準が高望みしすぎた内容にならないように、現実の市場状況なども考慮しなければいけません。もし自社の早期離職率が高かったり、採用した人材の質にばらつきがあったりする場合は、ツールなども活用しつつ、採用基準を整備し直すことをおすすめします。