新卒の筆記試験を見直すべき3つの理由

新卒の筆記試験を見直すべき3つの理由

売り手市場が続く新卒採用。東京商工会議所の「2024年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」によれば、新卒採用における充足率50%未満の企業は4割超。内定を出しても辞退され、採用枠が埋まらないまま4月を迎える。そんな企業が珍しくないなかでも、就職みらい研究所「就職白書2024」によると、従業員5,000人以上の大企業における筆記試験・適性検査の実施率はほぼ100%に達し、300人未満の中小企業でも約8割にのぼります。

ほぼすべての企業が実施している筆記試験。しかし、「そのテストは本当に採りたい人材を見極められているのか」「候補者の辞退を招いていないか」と問われて、研究データに基づいて答えられる企業は実はそれほど多くないのではないでしょうか。2020年以降、オンライン化の急速な進行不正リスクの顕在化、そして「どの選考手法が本当に有効か」を示す海外研究の大幅な更新。この3つの変化が重なり、筆記試験を取り巻く環境は大きく変わりました。

本記事では国内の最新調査と海外の学術研究をもとに、新卒採用の筆記試験をなぜ今見直すべきなのか、その理由を整理します。

📌 この記事で分かること

  • オンライン化が当たり前になった今、筆記試験で差がつくポイントはどこか
  • Webテスト不正に企業も学生も不安を感じている実態と、選考体験が企業イメージに与える影響
  • 最新の海外研究が示す「面接だけでもテストだけでもダメ」な理由
  • 学力テストの予測力が見直された背景と、日本の新卒採用でどう活かすか
  • 市販テストとオリジナルテストの市場動向、受検形式5タイプの比較
  • 自社の筆記試験を点検するための3つの問い

1. 競争軸はテストの「中身」から「運用」へ

Web方式での適性検査実施率は79.9%(ヒューマネージ「採用担当者アンケート調査 2021卒」)。筆記試験のオンライン化はもはや「移行期」ではなく、定着期に入っています。最終面接は「全て対面」が約7割(マイナビ「企業新卒内定状況調査」)と、対面とオンラインの使い分けも進みました。

しかし、「うちもWebに移行した」で話は終わりません。オンライン化が前提になったことで、筆記試験の競争軸そのものが変わっています。

大企業の多くがSPIや玉手箱といった同じ市販テストを使っている以上、テストの「中身」では差がつきません。差がつくのは、テストを選考プロセス全体のなかでどう位置づけ、結果をどう活用し、受検者にどんな体験を提供するかという「設計と運用」の部分です。実際、就職白書2023によれば学生1人あたりの平均受検社数は10.39社。同じSPIを10社で受けた学生は、テスト後に届くメールの文面、結果通知までのスピード、フィードバックの有無を企業間で見比べています。

加えて、オンライン化により不正行為のリスクが可視化され、「公正さをどう保つか」「不正をどう防ぐか」が、選考の質を左右する新たなポイントになりました。

2. 不正リスクと「公正に評価されたい」学生の声

Webテストの普及に伴い、不正行為への懸念は企業・学生の双方で高まっています。

ヒューマネージの「採用担当者アンケート調査(2021卒)」では、Webテスト運用上の懸念として「替え玉受験やカンニングなどの不正行為」を挙げた企業が65.9%にのぼりました。2022年11月には、Webテストの不正代行業者が逮捕される事件が社会問題として報道され、「採用テストの不正」が人事部門だけの内部課題ではなく、広く認知されるリスクとなりました。

注目すべきは、不正対策の必要性が企業側からだけでなく、学生側からも発信されている点です。何週間もSPIの問題集を解いて本番に臨んだ学生が、SNSで「代行業者に頼んだ」という投稿を目にする。そのとき感じるのは、「自分の努力が正当に評価されないかもしれない」という不信感です。就活生の間では「不正受験ができない仕組みにしてほしい」「公正に評価されたい」という声がSNSや口コミで広がっています。

この問題は、採用の歩留まりや「採用市場での企業イメージ」にも直結します。就活口コミサイトやSNSでは、選考プロセスの体験が企業評価の一部として共有されるのが当たり前になりました。

口コミサイトに「Webテストの監視が厳しすぎて萎えた」と書かれた企業と、「テスト後にフィードバックがあって好印象だった」と書かれた企業。候補者がどちらを選ぶかは明らかです。テスト結果を見る以前に、「選考の仕組み」の段階で辞退者を生んでいる可能性があります。

海外の研究もこの見方を裏づけています。Zibarras et al.(2025)によれば、候補者が選考を「公正だ」と感じるかどうかを最も左右するのは、その手法の「職務関連性」、つまり「このテストは実際の仕事に関係がある」と候補者自身が納得できるかどうかです。テストの送付メールに目的や評価基準の説明がなければ、候補者は「なぜこのテストを受けるのか」がわからないまま受検することになり、納得感は得られません。

ここで問い直すべきは、「自社のテスト設計と運用を、前年踏襲で放置していないか」という点です。テストの変更には社内調整が伴いますが、放置のコストも年々大きくなっています。テスト結果と入社後の評価が噛み合わない、選考途中の辞退率が上がる、口コミサイトの選考体験スコアが下がる。こうした兆候が出ていないか、一度点検する価値はあります。

不正対策の具体的な方法論については、本シリーズの第3回「Webテスト時代の運用設計 不正対策・生成AI・受検体験の最前線」で詳しく解説します。

3. それでもテストを使う理由

不正リスクがあるなら、テストをやめて面接だけにすればいいのではないか。そう考える人もいるかもしれません。しかし、最新の学術研究は、テストと面接の併用がもっとも合理的な選考設計であることを示しています。

3-1. 3,000人に面接はできない

面接は最も予測力の高い選考手法ですが、応募者全員に構造化面接(評価基準と質問を事前に統一した面接)を実施するのは物理的に不可能です。仮に応募者3,000人に1人30分の構造化面接を行えば、面接官1人あたり約1,500時間(約9か月分)の稼働が必要になります。テストで母集団を合理的に絞り、面接の質と精度を高める。この「二段構え」の有効性が、近年の複数の研究で確認されています。

テストの目的は「足切り」ではなく、面接をより効果的にするための情報収集です。この考え方は、テスト結果の活用方法にも直結します(本シリーズ第4回で詳述)。

以下、この結論を支える研究を紹介します。

3-2.「学力テスト最強説」の修正

この分野の転換点となったのが、Sackett et al.(2022)による25種類の選考手法のメタ分析(過去の多数の研究結果を統合して分析する手法)です。この研究により、2つの重要な事実が明らかになりました。

まず、構造化面接が入社後の活躍を予測する力においてもっとも高い値を示したこと。次に、いわゆる学力テスト(認知能力テスト)は、これまでの研究で報告されていたほどの突出した予測力を持たないこと。採用研究の分野で50年にわたり「選考の王道」とされてきた学力テスト最強説が、データの再検証により修正されました。

📌 この研究が実務に意味すること

学力テスト単体の予測力は従来の報告より低い。ただし「テスト不要」ではなく、面接など他の手法と組み合わせれば従来と同等以上の選考精度を達成できることが後続研究で確認されています。テストの使い方を変えることがポイントです。

3-3. 組み合わせの時代へ

ただし、この発見はテストが不要になったという意味ではありません。むしろ、テストの使い方を変えるべきだという示唆です。

Sackett et al.(2023)は、構造化面接やワークサンプル(実際の業務に近い課題を解かせるテスト)など実際の仕事に近い手法が、幅広い能力を測る一般的なテストよりも高い予測力を示すことを整理しました。そのうえで、複数の手法を組み合わせれば従来と同等以上の選考精度を達成できると結論づけています。

Berry et al.(2024)はさらに踏み込み、学力テストを外しても選考全体の予測力にはほぼ影響がなく、むしろ性別や人種など特定のグループが不利になる偏りが減り、公平性が改善されることを報告しています。

3-4.「優秀さ」の中身が変わった

学力テストの予測力が以前ほど高くないとされる背景には、「優秀さ」の中身が変わったことがあります。現代の職場では、一人で黙々と作業をこなす場面よりも、部門横断のプロジェクトチームで合意を形成したり、想定外の変化に対応したりする場面が増えました。

実際、複数の研究が、21世紀のデータでは学力テストの予測力が低下していること、そして現代の仕事で求められる成果はタスク遂行だけでなく、周囲への自発的な貢献・適応力・創造性など多面的に構成されていること(Woods et al., 2024)を示しています。学力だけでは活躍を説明しきれない時代になったということです。

一方、米国人事管理局(OPM)のガイドラインでは学力テストの予測力が職種を問わず安定的に確認されており、テスト自体の有用性が否定されたわけではありません。重要なのは、テスト単体に頼るのではなく、面接やその他の手法と組み合わせて選考全体を設計することです。

3-5. 日本の新卒採用にどう活かすか

ここまで紹介した研究は、主に欧米の選考を前提としています。通年採用で、職種別に採用枠があり、複数のテストを段階的に実施する方式です。日本の新卒一括採用は事情が異なります。短期間に大量の応募者を処理しなければならない。入社時点で職種が未定の総合職採用が主流である。面接の構造化の度合いも企業によってばらつきが大きい。

だからこそ、研究知見の実務的な意味は大きいと考えます。

テスト結果を面接の質問設計に活かす

日本の新卒採用では面接の構造化が十分でないケースが多いとされています。テストで得られた情報を面接の質問設計に活用する「テスト→面接の接続」は、構造化面接の導入コストをかけずに面接精度を底上げする現実的な手段です。たとえば、テストで論理的推論の得点が低かった候補者に対して、面接で「複数の選択肢を比較して意思決定した経験」を掘り下げる。テスト結果を面接官の手元に届け、質問の方向を変える。これだけで面接は「なんとなくの印象評価」から一歩抜け出せます。

総合職採用には多面的な評価が欠かせない

総合職採用では入社後の配属先が多岐にわたるため、「学力だけでなく、チームワークや適応力を含めた多面的な評価が必要」という研究の指摘は、日本の大企業にこそ当てはまります。ところが、市販テストの導入時にベンダーの営業資料を確認しただけで、「このテストが自社のどの職種のどの能力を測定しているか」を自社で検証した企業はどれほどあるでしょうか。ベンダーが提供する標準レポートを眺めるだけでは、この問いには答えられません。

テスト結果と入社後の活躍を突き合わせているか

マイナビの調査で企業の8割以上が「入社3年目以降の活躍」を採用の成果指標に挙げている点は重要です。しかし多くの企業では、テスト結果のPDFは合否判定が終わるとフォルダの奥に眠り、入社後の育成データと突き合わされることはありません。テスト結果と入社3年目の人事評価を並べて「このテストは本当に活躍を予測できているか」を検証する。この「PDCA」を回せるかどうかが、研究が示す「テスト+面接の相乗効果」を自社で実現できるかの分かれ目ではないでしょうか。

4. テストの種類と受検形式

ここまで「筆記試験」と総称してきましたが、実際には内容も実施形式も多岐にわたります。自社に合ったテストの選択・設計に進む前に、現在の市場と受検形式を整理しておきます。

4-1. 市販テストのシェア

SPI3は利用社数15,500社、年間受検者数231.4万人(2023年度実績)と、市販テストとして圧倒的なシェアを占めています。日経HRの「2024年内定者調査」によると、内定者が受検した適性検査の種類はSPI(Web版)が38.3%、玉手箱が17.1%で、この2つで過半数を占めます。

一方、企業オリジナルの筆記試験の実施割合は9.8%にとどまります。少数派ではありますが、オリジナルテストには対策本が出回らないため受検者の素の力が測れる、自社の職務で実際に求められる能力に合わせて問題を設計できる、という2つの利点があります。

近年ではゲーム型のアセスメントも注目されています。Leutner et al.(2022)は、ゲーム形式の学力テストが従来の筆記テストと同等の予測力を持ちながら、受検者の体験も向上させることを実証しました。

4-2. 受検形式の比較

テストの「中身」だけでなく、「どの形式で実施するか」も選考設計の重要なポイントです。以下に主要な5形式を比較します。

形式 メリット デメリット 主な用途
テストセンター 本人確認が確実、不正リスク低い 移動負担・コスト大 SPI等の大手市販テスト
Web(非監視型) 手軽・低コスト、地方/海外対応 不正リスクが最も高い 一次スクリーニング
Web(AI監視型) 利便性と不正抑止のバランス プライバシー懸念、環境依存 TG-WEB eye等
ペーパー 厳密な管理が可能 採点工数・データ化の手間 専門職・最終確認
オリジナルWeb 自社仕様に最適化、対策されにくい 作成・メンテの手間 ラクテス等

大企業の選考では、フェーズや職種によって複数の形式を使い分けるケースが増えています。一次スクリーニングはWeb(非監視型)で効率的に実施し、二次以降はAI監視型やテストセンターで精度を確保するといった設計です。

オリジナルWeb方式は現在9.8%と少数派ですが、前述のとおり自社の職務要件に合わせて設計でき、テスト結果をそのまま面接の質問項目や入社後の研修プログラムに反映しやすい設計が可能です。ラクテスのようなプラットフォームを活用すれば、テンプレートをベースに効率よく構築できます。

5. 自社のテストを点検する3つの問い

2020年以降、新卒採用の筆記試験を取り巻く環境は3つの軸で変化しました。オンライン化の定着と、それに伴う競争軸の移行。不正リスクの顕在化と、企業・学生双方から上がる公正さへの要求。そして、「どの選考手法が本当に有効か」を示す海外研究の大幅な更新です。

こうした変化を踏まえて、採用チーム内で一度議論しておきたいのが次の3点です。

💡 自社の筆記試験を点検する3つの問い

① 今のテストは「何を測って」「何に使って」いるか、言語化できるか?
ベンダーからの契約更新メールにそのまま「継続」と返していないか。テスト結果は合否判定の後、誰かが開いているか。誰も開いていないなら、そのテストは本当に必要か。

② テストと面接の役割分担は設計されているか?
テストの結果が低い候補者を面接で再評価する設計になっているか、それとも単に二重の足切りになっているか。テスト結果が面接官の手元に届いているか。届いているとして、面接官はそのデータをもとに質問を変えているか、それとも全員に同じ質問をしているか。

③ テストの「効果検証」を行ったことがあるか?
テストの得点と入社後のパフォーマンス評価を突き合わせたことがあるか。なければ、テストの予測力は推測でしかない。

これらの問いに明確に答えられるなら、今のテスト運用はそのまま続けてよいでしょう。答えに詰まる箇所が一つでもあれば、そこから手をつけてみてください。

次の記事では、市販テストに頼らず自社の求める能力を測るオリジナル試験をどう設計し、どう問題を作成するかを具体的に解説します。


自社のテスト、見直してみませんか?

筆記試験の見直しは、問題の作り替えだけでは終わりません。「何を測るか」「どう運用するか」「結果をどう活かすか」。この3つをセットで設計し直すことで、選考の精度と候補者の体験が同時に変わります。

ラクテスなら、800種類以上のテンプレートから自社オリジナルのテストをすぐに作成できます。無料プランですぐにお試しいただけます。

ラクテスのサービスを見る オリジナルの入社試験の作り方

参考文献

国内調査

No. 資料名 内容
1 就職みらい研究所「就職白書2024」 大企業の筆記試験実施率ほぼ100%、中小企業でも約8割
2 就職みらい研究所「就職白書2023」 学生1人あたりの平均受検社数10.39社
3 就職みらい研究所「就職白書2022」 選考プロセスにおける適性検査・筆記試験の位置づけ
4 マイナビ「2023年卒 企業新卒採用活動調査」 企業の8割以上が「入社3年目以降の活躍」を成果指標に
5 マイナビ「2023年卒 企業新卒内定状況調査」 最終面接「全て対面」が約7割
6 ヒューマネージ「採用担当者アンケート調査(2021卒)」 Web方式の適性検査実施率79.9%、不正懸念65.9%
7 東京商工会議所「2024年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」 充足率50%未満の企業が4割超
8 日経HR「2024年内定者調査」 SPI(Web版)38.3%、玉手箱17.1%で過半数
9 SPI3 利用データ(2023年度) 利用社数15,500社、年間受検者数231.4万人

海外論文とガイドライン

No. 研究 掲載誌
10 Sackett, P. R., Zhang, C., Berry, C. M., & Lievens, F. (2022). Revisiting meta-analytic estimates of validity in personnel selection. Journal of Applied Psychology, 107, 2040–2068
11 Sackett, P. R., Zhang, C., Berry, C. M., & Lievens, F. (2023). Revisiting the design of selection systems in light of new findings regarding the validity of widely used predictors. Industrial and Organizational Psychology, 16(3), 283–300
12 Berry, C. M., Lievens, F., Zhang, C., & Sackett, P. R. (2024). Insights from an updated personnel selection meta-analytic matrix. Journal of Applied Psychology, 109(10), 1611–1634
13 Woods, S. A., & Patterson, F. (2024). A critical review of the use of cognitive ability testing for selection into graduate and higher professional occupations. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 97, 253–272
14 OPM (U.S. Office of Personnel Management). Cognitive Ability Tests: Assessment & Selection. 米国人事管理局ガイドライン
15 Leutner, F., Codreanu, S.-C., Brink, S., & Bitsakis, T. (2022). Game based assessments of cognitive ability in recruitment. Frontiers in Psychology, 13, 942662
16 Zibarras, L., et al. (2025). Applicant perceptions of selection methods: Replicating and extending previous research. International Journal of Selection and Assessment
page top