ワークエンゲージメントを高める方法と取り組み事例を解説

企業が持続的に成長し続けるためには、優れた人材を確保するとともに、労働生産性を高める取り組みが欠かせません。そこで重要な経営課題となるのがワークエンゲージメントの向上です。本記事ではワークエンゲージメントを高める方法について解説し、その具体的なメリットや企業の施策事例を紹介します。

ワークエンゲージメントとは

ワークエンゲージメントとは、仕事に対する心理状態を示す概念です。ワークエンゲージメントが高い状態とは、従業員が仕事に対して肯定的な感情を抱き、仕事にやりがいと熱意をもって取り組んでいる状態を意味します。一時的な気分の高揚や感情の高まりではなく、仕事に向けられた主体的な労働意欲や、組織に対する持続的な貢献意識を指すのが大きな特徴です。報酬の獲得や罰則の回避といった外的要因に依存するのではなく、自らの意思で組織に貢献する意図をもちながら業務に打ち込んでいる状態といえます。

ワークエンゲージメントが注目される背景

近年、国内でワークエンゲージメントが大きな注目を集めている背景にあるのは、少子高齢化に伴う労働力不足の深刻化です。総務省統計局の「人口推計(※1)」によると、2023年11月1日時点における国内の総人口は概算で1億2,431万人となっています。厚生労働省の「厚生労働白書(※2)」では、国内の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに下降の一途を辿っており、多くの産業で生産年齢人口の減少に伴う労働力不足が深刻化しています。

さらに総務省の「統計からみた我が国の高齢者(※3)」によると、日本の高齢化率は29.1%と世界で最も高い水準となっており、労働力不足と同時に就業者の高齢化に悩まされている企業が少なくありません。また、従来はひとつの企業に長く勤めることが美徳とされてきたものの、近年では働き方改革の推進や副業の自由化により、雇用の流動性が高まりつつあります。雇用の流動化が加速すると即戦力を採用しやすい反面、優秀な人材や育成した従業員が離職する可能性も高まります。

このような社会的背景のなかで企業が持続的に発展する上では、従業員の離職率を最小化するとともに、いかにして人的資源の労働生産性を最大化するかが重要です。そのためにはワークエンゲージメントを高めるための取り組みが欠かせません。従業員の自発的な労働意欲と貢献意識を醸成する仕組みを整備できれば、業務プロセスの効率化とそれに伴う労働生産性の向上が期待できます。そして同時に従業員の組織に対する愛着と信頼が深まり、離職率の改善や定着率の上昇につながります。

(※1)参照元:人口推計-2023年(令和5年)11月報-(p.1)|総務省統計局

(※2)参照元:平成27年版 厚生労働白書(p.4)|厚生労働省

(※3)参照元:統計からみた我が国の高齢者(p.1)|総務省

ワークエンゲージメントの3つの要素

厚生労働省は「令和元年版 労働経済の分析」のなかで、ワークエンゲージメントを以下のように定義しています。

“ワーク・エンゲージメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態として定義される。”

引用元:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(p.171)|厚生労働省

つまりワークエンゲージメントは、「活力」「熱意」「没頭」の3要素によって構成される概念と捉えられます。

  • 活力

活力は行動を生み出す力を意味する概念です。ワークエンゲージメントにおける活力とは、仕事そのものから充足感を得ており、困難な課題に対しても積極果敢に取り組むような心理状態を指します。

  • 熱意

熱意は物事に対する意気込みや気勢を意味します。熱意が高い状態とは、仕事に対して旺盛な好奇心と深い探究心をもって臨み、努力や創意工夫の継続にストレスを感じない心理状態です。

  • 没頭

没頭は特定の物事に我を忘れて集中し、専心するあまり周囲の状況を顧みない状態です。仕事に対して時間を忘れるほど一心不乱に集中し、離れがたいほどのめり込むような心理状態を意味します。

ワークエンゲージメントを高める方法

ワークエンゲージメントを高める代表的な方法は以下の3点です。

適切なフィードバックをする

人的資源の労働生産性を最大化するためには、従業員のモチベーションを高める仕組みを整備しなくてはなりません。そこで重要な課題となるのが、公正な人事評価制度に基づくフィードバックの提供です。たとえば人事評価の評価基準と評価項目が曖昧であるか、もしくは評価者の主観が許容範囲を超えて影響する場合、従業員は評価に対して納得を得られず、ワークエンゲージメントの低下を招く要因となりかねません。

従業員の業績に対する貢献度を客観的かつ正当に評価し、適切なフィードバックを与えることでワークエンゲージメントの向上が期待できます。それによって従業員の労働意欲や貢献意識が高まれば、離職の防止や労働生産性の向上につながるでしょう。また、自分の仕事が公正かつ公平に評価され、その貢献度が給与や賞与に反映されることで、業務への活力と熱意のさらなる向上につながる好循環が生まれます。

社内コミュニケーションを見直す

従業員のワークエンゲージメントに多大な影響を与える要因のひとつは職場の人間関係です。マイナビキャリアリサーチLabの「転職動向調査2023年版(※4)」によると、転職を決意した理由として「職場の人間関係が悪かった」が第2位となっています。ワークエンゲージメントを高めるには、職場の人間関係における心理的な負荷が生じにくい組織風土と企業文化を醸成しなくてはなりません。

そこで重要課題となるのが社内コミュニケーションの活性化です。たとえば1on1ミーティングによって上司と部下がカジュアルに話し合える場を提供できれば、 対話を重ねることで自然と距離が縮まり、相互理解を深める一助となります。また、社内コミュニケーションの円滑化を図る仕組みの整備は、部門横断的な情報共有や意思決定プロセスの合理化に寄与し、結果として組織全体における生産性の向上が期待できる点も大きなメリットです。

(※4)参照元:転職動向調査2023年版(2022年実績)|マイナビキャリアリサーチLab

リラックスできる環境を提供する

仕事には適度な緊張感が必要であり、ストレスやプレッシャーなどの心理的負荷が適度な状態にあるときに人間のパフォーマンスは最も高くなります。しかし過度な緊張状態はパフォーマンスを低下させる要因となるため注意しなくてはなりません。この緊張状態とパフォーマンスの関係性を「ヤーキーズ・ドットソンの法則」と呼びます。

業務中に集中力が途切れると作業効率の低下につながることから、労働生産性を高く保つためには適度な休息期間や心身ともにリラックスできる空間が必要です。たとえばオフィスに休憩スペースを設置し、リラックスできる場所を提供できれば、従業員のストレス緩和に貢献するだけでなく、社内コミュニケーションを活性化する一助となります。

現状を把握するアンケートを行う

ワークエンゲージメントの向上や改善に取り組む場合、まずは自社の現状を把握するプロセスが極めて重要です。ワークエンゲージメントの向上に必要な施策は、企業の組織規模や経営体制、ビジネスモデルなどによって異なります。したがって、従業員が現在の労働環境にどの程度満足しているのか、あるいは何を不満に感じているのかを調査しなくてはなりません。

そこで重要な役割を担うのがエンゲージメントサーベイです。エンゲージメントサーベイとは、「自社に属することを誇りに思う」「求められる役割を理解している」「職場で受け入れられていると感じる」といった質問項目を設け、ワークエンゲージメントを定量化するアンケート調査です。仕事に対する情熱や組織への愛着心などを定量的に把握できるため、ワークエンゲージメントの向上に必要な施策を立案・策定する際の役に立ちます。

ワークエンゲージメントを高める施策事例

組織全体におけるワークエンゲージメントを高めるためには、他社の成功事例から本質を抽出して自社の経営体制に応用することが大切です。ここではワークエンゲージメントの向上に取り組んでいる企業の施策事例を紹介します。

1on1ミーティングの実施

金物製造卸売業の老舗である株式会社福井は業績を伸ばしていたものの、離職率の高さが無視できない経営課題となっていました。当時の同社は売上重視の企業文化が浸透しており、数字の伸びない従業員が叱責されることも少なくありませんでした。こうした現状を改善すべく取り組んだのがワークエンゲージメントの向上です。まずは「社員は会社最大の資産であり、企業永続の原動力」という経営理念を第一義に掲げ、全従業員を対象としてワークエンゲージメントのスコア化に取り組みました。

こうした取り組みのなかで高い効果を発揮したのが、一カ月に一度の頻度で実施している1on1ミーティングです。1on1ミーティングとは、上司と部下が一対一で課題や悩みに関して真情を語る個人面談です。仕事の相談はもちろん、カジュアルな話題も取り入れることで上司と部下の心理的な壁が取り払われ、相互理解の深化に貢献します。その結果、すぐには成果に結びつかなかったものの、徐々にワークエンゲージメントが向上し、最終的には離職率の大幅な改善を実現しました。

ワークショップの実施

デジタルマーケティング企業である株式会社エフアイシーシーでは、クライアントのニーズや課題に対して行う、ブランドがもつ社会的意義を起点としたマーケティング戦略のサポートが重要課題となっていました。クライアントが有する付加価値を発掘するとともに、そのブランドならではの市場価値を創出するためには、固定観念にとらわれない柔軟な発想力や独自のアイデアを生み出す独創性が求められます。

そこで同社が採用した戦略のひとつが「クロスシンク」というワークショップの実施です。このワークショップは、従業員の主体性や多様性を育み、既成概念から自由になることでイノベーティブな市場価値を創造することを目的として企画されました。この取り組みによって人材の創造性が強化され、仕事への活力や熱意が高まるとともに、ワークショップを通じて従業員の帰属意識が向上するという成果を生み出しています。

休暇の取得推進

法人向けおよび個人向けの名刺管理サービスを提供するSansan株式会社は、「チャージ休暇」と呼ばれる取り組みによってワークエンゲージメントの向上を実現した企業です。チャージ休暇とは、最大で連続3日間の特別休暇を取得できる制度を指します。日々の業務によって蓄積された疲労を回復し、エネルギーをチャージすることで従業員の労働生産性を高めることがチャージ休暇の主な目的です。

先述したように、過度な緊張状態は従業員のパフォーマンスが低下する要因となるため、高い労働生産性を確保するためには適度な休息期間を設けなくてはなりません。そこで導入されたのがチャージ休暇であり、疲労回復とエネルギーチャージによって労働生産性が高まると同時に、同社のチーム単位におけるワークエンゲージメントの向上につながりました。また、チャージ休暇の取得に向けてお互いが協力し合う雰囲気が醸成され、従業員の相互理解が深まるという成果も得ています。

ワークエンゲージメントを高めるメリット

ワークエンゲージメントを高めることで得られる主なメリットは以下に挙げる3点です。

生産性向上

生産性は人的資源や物的資源、資金などの投入量に対する成果を定量化した指標であり、「生産性=産出量÷投入量」の数式で算出できます。生産性を最大化するためには、いかにして最小のリソースで最大の成果を創出するかが重要です。従業員の労働意欲や貢献意識を醸成できれば、自発的な努力と創意工夫に基づく業務の効率化が期待できます。それによって従来よりも少ないリソースでより多くの付加価値を創出できるため、従業員一人ひとりの労働生産性と組織全体における生産性の向上が期待できます。

離職率低下

仕事に対する活力と熱意、そして没頭の3要素は従業員の主体的なモチベーションを生み出す源泉であり、離職率や定着率に大きく関わる要因です。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析(※5)」によると、ワークエンゲージメントが高いほど従業員の離職率が低く、新入社員の定着率が高いという調査結果が出ています。従業員にとって働きやすい環境を提供することが離職率や定着率の改善に寄与し、さらに人材の採用・育成におけるコスト削減にもつながります。

(※5)参照元:令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-(p.195)|厚生労働省

顧客満足度の向上

従業員のワークエンゲージメントが高まることで、仕事に対する努力や生産工程の創意工夫を苦としない心理状態が維持されます。それによって製品やサービスの総合的な品質向上が期待できるため、結果として顧客満足度の最大化につながる点が大きなメリットです。またワークエンゲージメントが高い人材には仕事そのものを楽しむ余裕があり、営業職やサービス業などでは顧客への対応が向上する効果も期待できます。

ワークエンゲージメントの測定方法

ワークエンゲージメントの向上に取り組む上で重要課題となるのが、従業員の業務に対する熱意や活力の定量化です。ここではワークエンゲージメントの具体的な測定方法を紹介します。

UWES

UWESは「Utrecht Work Engagement Scales」の略称で、ユトレヒト大学によって確立されたワークエンゲージメントの測定方法です。「活力」「熱意」「没頭」の3つに関する17の質問で構成されており、7段階の回答によってワークエンゲージメントを定量化します。具体的な質問項目としては、「仕事をしていると活力が湧く」「自分の仕事に誇りを感じる」「仕事をしていると時間の経過が速く感じる」などが挙げられます。

MBI-GS

MBI-GSは「Maslach Burnout Inventory-General Survey」の頭文字から成る言葉で、バーンアウトのスコア測定をする方法です。バーンアウトとは、特定の物事に対して熱心に取り組んでいた人が情熱を失ってしまう状態を指します。「仕事を辞めたいと思うことがある」「仕事がつまらなく思える」といった16項目の質問を用意し、従業員のバーンアウトの度合いを測定することで逆説的にワークエンゲージメントのスコアを定量化します。

OLBI

OLBIは「Oldenburg Burnout Inventory」の略語であり、MBI-GSと同様にバーンアウトのスコアを測定することでワークエンゲージメントを定量化する方法です。MBI-GSがバーンアウトの度合いを「疲労感」「冷笑的態度」「職務効力感」の3要素で測定するのに対し、OLBIは「疲労」と「離脱」という2つの要素で定量化します。たとえば「業務の終了後に疲れ果てる」「他の職業に就くことは考えられない」などの質問を設けてバーンアウトの度合いを測定します。

自社で作成する

ワークエンゲージメントの向上に必要な施策は企業によって異なるため、自社で測定方法を考案するのも有効です。たとえばWeb制作会社なら「HTMLやCSSのコードを記述するのが好き」、サービス業であれば「接客対応に喜びを感じる」など、自社のビジネスモデルに特化したワークエンゲージメントの測定項目が考えられます。自社でワークエンゲージメントの測定方法を作成するのであれば、ラクテスのようにテンプレートが用意されているソリューションの利用がおすすめです。

合わせて知っておきたいワークエンゲージメントの関連用語

ワークエンゲージメントに関連する用語としては、「活力」「熱意」「没頭」の他に、「バーンアウト」「ワーカホリズム」「職務満足感」などが挙げられます。

  • バーンアウト

ある特定の物事に熱心に取り組んでいた人が情熱を失ってしまう状態です。別名「燃え尽き症候群」と呼ばれます。

  • ワーカホリズム

生活の糧を得る手段の仕事に対して私生活を犠牲にして打ち込んでいる状態です。いわゆる「仕事中毒」と表現されます。

  • 職務満足感

仕事そのものに対する満足だけではなく、給与や福利厚生、人間関係といった点についての、職場に対する総合的な満足度を意味します。

まとめ

ワークエンゲージメントは仕事に対する心理状態を示す概念です。ワークエンゲージメントが高い状態とは、主体的な労働意欲と貢献意識をもち、努力や創意工夫に喜びを感じながら業務に打ち込んでいる状態を指します。

従業員のワークエンゲージメントを高めるメリットは「生産性向上」「離職率低下」「顧客満足度の向上」の3点です。具体的な方法としては「適切なフィードバック」「社内コミュニケーションの活性化」「リラックスできる環境の提供」「現状を把握するアンケート」などが挙げられます。

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