人事戦略において、将来経営者や事業責任者を担う後継者の存在は非常に大切です。安定した経営を維持していくためには、そのような重要ポストが欠けてしまうことを防ぐ必要があり、重要ポストに就くことができる人材の育成・管理が大きな課題となります。
この記事では、後継者の管理に役立つサクセッションプランニングについて、その概要から運用方法、事例まで幅広くご紹介します。
目次
サクセッションプランニングとは?
企業の将来を担う幹部候補を育成・管理することをサクセッションプランニングといいます。
サクセッションプランニングと似た取り組みに、タレントマネジメントがあります。どちらも優秀な人材を育成・管理するという点は共通していますが、サクセッションプランニングは人材の中でも、特に経営者や事業責任者といった企業の幹部候補に焦点を絞っています。
サクセッションプランニングのメリット
昨今、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」をはじめ、あらゆるところでサクセッションプランニングの重要性が訴えられています。
では、サクセッションプランニングがもたらすメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
人事評価の可視化
大きなメリットとしてあげられるのは、人事評価が可視化されることです。
幹部候補を育成するためには、幹部に求められる知識やスキルを明確にする必要があります。必要な知識やスキルを明確化することで、経営層や人事が育成する候補者を選出する際の基準を定められます。また、人事評価が可視化されると、評価されるために努力するべき方向性が分かります。そのため、従業員のモチベーションを高め、それを維持することも可能になります。ただし幹部候補を公表している場合、幹部候補として選出されない従業員のモチベーションが下がってしまう可能性もあるため、運用にあたっての従業員のフォローには注意する必要があります。
ポスト不在の解消
事故や病気、転職など、いつどんな理由で重要ポストに就いている人材が企業から離れてしまうかは分かりません。サクセッションプランニングによって、あらかじめ幹部候補者を確保しておけば、すぐに後任を充当でき、ポストが不在に陥ることを回避できます。また、普段から幹部候補を公表しておくことで、次に誰が幹部になるのか従業員が認識できます。幹部が交代した際にも環境変化を受け入れやすく、安定した企業運営が実現できます。
採用コストの削減
幹部候補を新たに採用するのではなく、自社にいる従業員を幹部へと育てていくことがサクセッションプランニングの特徴です。
一般的な公開求人では、幹部候補に相応しいスキルを持った人材を採用できる見込みが低いです。そのため、幹部候補を新たに採用する際、人材紹介会社に依頼してヘッドハンティングを行うことが多くあります。その場合、採用を達成すると多額の紹介手数料が発生します。
しかし自社で幹部候補を育てておけば、そういった採用経費を削減できますまた自社の従業員は、企業理念や経営戦略などを過去の研修や経験からすでに学んでいるため、育成コストも削減できます。
サクセッションプランの作り方
サクセッションプランニングは、「人材要件の設定」「育成する従業員の選出」「育成の実行」というフローで流れていきます。それぞれの概要やポイントを見ていきましょう。
経営ビジョンの明確化
育成計画を立てる際にまず考えるべきは、どのポストを担う人材を育てるかです。そのためにはまず、自社の経営ビジョンを明確にする必要があります。経営理念や事業内容といった内側だけではなく、社会情勢や業界の動向といった外側にも目を向けることが大切です。経営層が変わっても変わってほしくないものは何か、逆に環境によって変えていくべきものは何かを明確にし、育成していくべきポストを定めましょう。例えば今後の経営ビジョンによっては、代表取締役だけを育成すればいいのか、もっと視野を広げて事業部長まで育成すべきなのかが変わってくるはずです。
人材の要件を明確化
経営ビジョンを明確にし、今後育成が必要となるポストが決まったら、その人材の要件を設定しましょう。そのポストに求められる役割と、役割を果たすために必要なスキルや経験を設定します。
スキルとは、プログラミングなどといった技術的なものだけではありません。リーダーシップや親しみやすさといったヒューマンスキル、物事を論理的にとらえ、将来のビジョンを創造するコンセプチュアルスキルといったように、さまざまなものがあります。人材に必要となるスキルを幅広く設定し、ポストに就くべき人材の要件を誰の目からも分かるようにしましょう。
スキルの明確化については、スキルズインベントリーを有効活用することがおすすめです。
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従業員の選出
人材要件が定まったら、その要件に合う従業員を選出します。選出のポイントは、必ず多角的かつ客観的な視点から評価を行ったうえで従業員を選出することです。設定した要件に当てはまるかどうかということに加え、どんな実務経験があるか、リーダーシップやコミュニケーション力などの資質を備えているか、などを考慮して人材を選出します。ここで重要なのは、今後の育成次第で要件を満たす見込みがある従業員も選出の対象とすることです。すぐに次期ポストとして登用できる人材、数年後には登用できそうな人材、将来的には登用を検討できそうな人材と、登用可能となる見込みの時期で分けて従業員を選出しておくとサクセッションプランニングを安定的に継続できます。
誰が幹部候補として選出されたかを公表するかどうかは企業によってさまざまですが、企業の透明性のために公表する場合、人材要件の見直しなどを行った際に要件から外れてしまった従業員へのフォロー体制を整えておく必要があります。
育成の実行
対象となった従業員に育成を実行します。実務的なスキルは普段の社員研修やOJT研修でも学ぶため、サクセッションプランニングではチームの責任者を任せてみたり、経営を学べるようなポジションを経験させたりする機会を設ける企業が多いです。
サクセッションプランニングの事例
では、サクセッションプランニングの事例を紹介します。
りそな銀行
りそな銀行では、本社とグループ会社の「社長」から「新任役員候補者」までを対象として、2007年6月からサクセッションプランニングを導入しています。選抜や育成については外部コンサルタントの視点を取り入れることで客観性を保持し、従業員の評価は指名委員会に報告される仕組みになっているのが特徴的です。また指名委員会の活動状況は、社外取締役が多い取締役会に報告されます。このようにさまざまな立場の人々が関わることで、透明性の高いサクセッションプランニングを維持しています。
トヨタ
トヨタでは「モノづくりは人づくり」と考え、人材育成に非常に力を入れています。「知恵と改善」「人間的尊重」といった経営哲学などの根幹的な考えを「トヨタウェイ」として共有し、全従業員に浸透させる仕組みを採っています。
その他、トヨタは役員や部長クラスの人材育成プログラム「GLOBAL21プログラム」を実施し、グローバル幹部として相応しい能力・見識の習得を目指しています。トップ役員の秘書業務や海外ビジネススクールへの短期派遣などの経験を通して、経営トップが直接従業員を見極める機会を設けるとともに、役員候補者の心構えを養成しています。
まとめ
企業の人材の中でも、特に企業の未来を担う幹部候補の育成に焦点を当てたサクセッションプランニングが注目されています。自社で中長期的に幹部候補を育成していくことは、企業運営の安定化のみならず、人事評価の透明性の実現やコスト削減にも有用です。
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