デジタル人材育成とは? IT人材との違いや育成方法を解説

テクノロジーが急速に進化する現代において、企業が成功するためにはデジタル人材が欠かせません。本記事では、デジタル人材育成の重要性と育成方法について詳しく解説します。

デジタル人材とは

デジタル人材とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を担う多様な人材の総称です。IoTやAI、クラウド、ビッグデータなどの最先端のデジタル技術を使いこなし、DXに代表される企業の変革・改革に貢献します。

デジタル人材とIT人材の違い

「デジタル人材」と「IT人材」は、しばしば混同されることがありますが、それぞれ異なる意味を持っています。

中小企業庁の定義によれば、IT人材は「ITの活用および情報システムの導入計画、推進、運用を行う人材」とされており、一般的に3つのカテゴリーに分類されます。それには、従来型のIT人材(ITツールの開発や運用に従事する人々)、高度なITスキルを持つ戦略的なIT人材(高度なITツールの活用が可能な人々)、および最先端の技術(例:IoTやAI)を扱う先端IT人材が含まれます。IT人材は、主にシステムやツールの実行・運用に携わります。

一方、デジタル人材は、企業へ新たな価値を提供するという幅広い役割を担います。

デジタル人材の職種例

DXの実現に必要なデジタル人材の職種について、情報処理推進機構(IPA)が「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」の中で紹介しています。IPAの定義に基づき、DX推進に必要なデジタル人材の主な職種は以下の7つです。

  • プロダクトマネージャー

DXを推進するリーダー的存在で、明確なビジョンを持ち、それを実行に移す能力が求められます。

  • ビジネスデザイナー

DXやデジタルビジネスの企画と推進を担当し、ビジネスに精通し、積極的に行動できるスキルが必要です。

  • テックリード

DXやデジタルビジネスのシステム設計から実装までを担当する人材です。高度な専門スキルが求められます。

  • データサイエンティスト

収集したデータの分析と解析を行う専門家です。技術的スキルだけでなく、知的好奇心やビジネス感覚、コミュニケーションスキルも必要です。

  • 先端技術エンジニア

ブロックチェーンや機械学習などの先端技術を専門とするエンジニアです。

  • UI/UXデザイナー

デジタルサービスのユーザー向けデザインを構築し、ユーザーの視点から使いやすさと魅力を追及するスキルが必要です。

  • エンジニア/プログラマ

エンジニアは開発の上流工程を担当し、プログラマはコーディングを含む下流工程を担当します。インフラ構築やシステムの実装、運用、保守など、幅広い役割を果たす人材です。

これらの職種は、DXの推進において重要な役割を担います。デジタル技術の急速な進化に伴い、新たな職種やスキルセットが登場しています。

なぜデジタル人材が求められるのか

近年、デジタル化を推進する組織や企業が増加し、DXが急速に進展しています。DXを推進し、組織へ変革をもたらすためには、ITやデジタル技術に精通したデジタル人材が欠かせません。

現代社会では、テクノロジーが急速に進化し、新たなプラットフォーム、ツール、ITサービスが次々と登場しています。企業が競争力を維持し、発展するためには、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルやサービスを生み出す必要があります。このため、新たなテクノロジーを理解し、適切に活用できるデジタル人材がますます求められています。

さらに、ビジネスにおける意思決定はデータに基づいて行うことが一般的になりつつあります。そのため、データの分析や解析スキルを持つデジタル人材が高く評価されています。

また、デジタル人材は、企業をサイバーセキュリティの脅威から保護する役割も果たします。サイバー攻撃の手法は年々巧妙化しており、企業は大きな被害を受ける可能性があります。デジタル技術に詳しい人材は、情報セキュリティを強化し、外部の脅威から企業を守る重要な存在です。

特にグローバル市場で競争する企業にとって、デジタル技術の活用は不可欠です。デジタル技術を駆使して効率的な課題解決を実現することで、グローバル市場で競争力を獲得できるでしょう。

デジタル人材需給の現状

「DX白書2021」によると、デジタル事業に必要な人材の「量」の確保状況について、多くの企業が「大幅に不足している」または「やや不足している」と回答しています。また、DXを推進するために不可欠な全ての職種において、人材不足の問題が浮き彫りになっています。特に、プロダクトマネージャー、ビジネスデザイナー、データサイエンティストの3職種では、「大幅に不足している」あるいは「やや不足している」と回答する企業が55%を超えており、人材不足が深刻です。

さらに、デジタル事業に必要な人材の「質」についても、ほとんどの職種で「大幅に不足している」または「やや不足している」と回答する企業が70%前後であり、量だけでなく質についても課題を抱えていることが分かります。

(参照元:DX白書2021

「DX白書2023」でも、DXを推進する人材の不足は非常に深刻で、全体の83.5%が「量」の不足を回答し、86.1%が「質」の不足を指摘しています。量と質の両面で不足が顕著な状況です。

(参照元:DX白書2023

デジタル人材が不足する理由

IT業界拡大による需要高騰

デジタル人材が不足する理由の一つとして、デジタルサービスの進化や拡大によるデジタル人材の需要急増が挙げられます。AIやIoTを活用したサービスが急速に増加し、その運用と保守に多くのエンジニアが必要とされています。多くの企業が積極的にデジタル人材を確保するための措置を講じていることが、人材不足の原因となっています。

経済産業省が公開した「DXレポート」によると、現在のままではIT人材不足が2025年には約43万人にまで拡大すると予測されています。さらにDXを実現できない場合、2025年以降に最大12兆円の経済損失が発生するおそれがあるとも指摘されています。

(参照元:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~ 経済産業省

少子高齢化による労働人口減少

日本の少子高齢化は深刻な社会問題となっており、これに伴い労働人口が減少しています。多くの企業が労働力不足に直面しており、IT人材やデジタル人材も例外ではありません。労働人口の減少が、人材不足の問題を一層深刻化させています。

経済産業省が公表した「IT人材の需給に関する調査」によると、2030年までのIT人材の需要と供給のギャップは最大79万人に達するとの予測があります。これは需要が高まる9~3%の高位シナリオに基づくものですが、79万人のギャップは非常に驚くべき数値です。

(参照元:IT 人材需給に関する調査 みずほ情報総研株式会社

デジタル人材に求められるスキル

デジタル人材には、高度なハードスキルとソフトスキルが求められます。ハードスキルは、過去の学習や職務経験から得られた専門知識や技術を指し、ソフトスキルは課題解決能力やコミュニケーションスキルなどが該当します。

ハードスキル(ITに関する技術・知識)

ハードスキルは、研修や個人の学習によって習得できる専門的な知識や技術です。デジタル人材に必要なハードスキルは、ITやデジタル技術に関する知識とスキルに関連します。以下に、デジタル人材に求められるハードスキルをまとめました。

  • プログラミングや開発のスキル

JavaやPHP、Pythonなどのプログラミング言語を使用してソフトウェアを開発できる能力です。

  • データ関連スキル

データの収集や整理、分析、可視化、予測などを行えるスキルです。また、データベースクエリ言語(SQL)やデータ分析ツールの使用経験が求められます。

  • Web開発やデザインのスキル

HTMLやCSSを使用してWebページをコーディングできるスキルです。ユーザーインターフェース(UI)およびユーザーエクスペリエンス(UX)のデザインに関するスキルが含まれます。フロントエンドやバックエンド開発において、フレームワークを扱える力も必要です。

  • サイバーセキュリティの専門知識

サイバーセキュリティに関する知識とスキルです。セキュリティ対策の計画と実行に関するスキルも求められます。

  • ロボティクスと人工知能に関するスキル

ロボットプログラミング、AIアルゴリズム、ディープラーニング、機械学習などのスキルを指します。新たなテクノロジーに対する知識と技術が必要です。

ソフトスキル(対人・課題解決能力)

DXには、組織全体での協力が不可欠であり、デジタル人材には人間関係や問題解決能力などのソフトスキルも要求されます。

  • コミュニケーションスキル

組織内での協力や情報共有のため、デジタル人材には優れたコミュニケーションスキルが必要です。異なる部門間で連携し、DXプロジェクトを推進する能力が求められます。

  • 課題解決能力

デジタル課題の解決策を考え、実行に移す能力です。プロジェクト管理スキルを使用してタスクを効率的に進行し、期限を守る能力も重要です。

  • リーダーシップ

デジタル人材がリーダーシップを発揮し、チームメンバーをうまくけん引することでDX実現のスピードアップを図れます。

  • 学習意欲

デジタル技術は急速に進化し続けているため、デジタル人材は新しい知識とスキルを継続的に学び続ける意欲を持つ必要があります。

デジタル人材の育成方法

デジタル人材の不足が深刻で、外部からの採用が難しい状況下では、内部の有望な人材をデジタルの専門家に育てることが重要です。

レベルの高い外部研修を実施する

デジタル人材の育成には、高品質な外部研修を導入することが効果的です。自社には不足しているスキルや知識を補完し、デジタルスキルを向上させることができます。外部研修の内容と難易度は多岐にわたりますが、DX推進の基礎から応用までカバーするカリキュラムを選ぶことが大切です。

自社のニーズに合わせて、デジタルスキルの向上に貢献する外部研修を選定しましょう。経済産業省とIPAが提供する「マナビDX」は、デジタルスキルの習得をサポートするさまざまな講座を提供しており、一部の講座では受講費用の補助が受けられるため、コストを抑えてデジタル人材の育成が可能です。

デジタルスキルの育成において、自社のニーズに合った外部研修を検討し、有望な人材をデジタル専門家に育てるための投資を検討しましょう。

学習に適した社内環境を提供する

DX人材を社内で育成するためには、適切な学習環境の整備が必要です。最先端のIT・デジタル技術や知識を習得できる研修プログラムを提供し、eラーニングの利用環境を整備しましょう。

さらに、資格取得のサポート体制を整えることも重要です。一部の資格は、習得までの過程で高度なデジタル知識や技術を学べるため、従業員の学習を奨励することが大切です。資格取得にかかる費用の一部を補助し、社内の会議室などを学習スペースとして提供するなど、学習をサポートする施策を検討しましょう。

DXを実現するには、全従業員にDXの重要性とメリットを理解してもらわなくてはなりません。DXを理解し共感するためのデジタル教育プログラムを実施し、D学習意欲を高める取り組みも不可欠です。

スキルアップにつながる業務を任せる

デジタル人材を育成するためには、スキルアップにつながる実務を担当させることが有効です。座学だけでは理解が難しい場合も、実際の業務を通じてスキルを磨くことができます。

例えば、デジタル戦略に関連するプロジェクトのリーダーとして経験させることで、リーダーシップスキルの向上だけでなく、経営に関する洞察を得ることができます。また、製品やサービスの設計に携わる実務は、UI/UXデザインの知識を深め、ユーザーエクスペリエンスに対する理解を高めるのに役立ちます。

デジタル人材を採用するためのポイント

採用ターゲットを明確化する

デジタル人材を採用する際には、明確な採用ターゲットを設定することが重要です。採用過程でのミスマッチを防ぐために、上層部だけでなく、実際にデジタル人材を必要とする部門との詳細な協議が必要です。

採用基準を設定する際に、必要条件、十分条件、不要条件を明確に定義しましょう。これにより、求めるデジタル人材のプロファイルが明確になり、求人広告の募集要項の作成やアピールポイントの設定がスムーズに行えます。また、採用戦略を策定し、応募者に訴求するためのキャッチコピーや募集文言も検討できます。

競合他社と差別化する

優れたデジタル人材を採用するためには、競合他社との差別化が必要です。競争が激化している現状では、自社を選んでもらうためのアプローチが重要です。

まず、自社が持つ独自の魅力や特徴を明確に伝えましょう。他社にはないポイントや働く魅力を強調することで応募者の心に響きます。SNSや公式サイトなどを活用して、企業情報を積極的に発信しましょう。採用情報や社内の雰囲気、文化などを透明かつ魅力的に伝えることで、応募者にとって魅力的な企業としての印象を構築できます。

応募者に入社後の姿を明確にイメージできるよう、従業員のインタビュー記事や業務中の動画などのコンテンツを提供するのも有効です。これにより、応募者は自社でのキャリアを具体的に想像できるようになります。

デジタル人材の定着に必要なこと

株式会社NTTデータ経営研究所の調査によると、デジタル人材の1/3は、直近1年以内の転職を検討しています。流動性が高いデジタル人材を定着させるにはどうすればよいかを、以下で説明します。

(参照:デジタル人材定着に向けたアンケート調査 株式会社NTTデータ経営研究所

優秀なマネージャー・リーダーを配置する

株式会社NTTデータ研究所が公開した資料によると、職場に対する不満を抱いているデジタル人材の多くは、「尊敬できる上司」を求めていることが分かりました。デジタル人材の定着率を高め、長く働いてもらうには、彼らをまとめるマネージャーやリーダーの人選を慎重に行う必要があります。

尊敬される優秀なマネージャーやリーダーとは、人材の能力を正確に把握し、適材適所な人材配置を行える人材です。また、部下のモチベーションを高めるようなアクションを起こし、パフォーマンスの向上を図れるような人材が該当します。

適正な評価を行う

転職の意向があるデジタル人材の多くは、評価面にも不満を抱いています。頻繁なフィードバックや能力に応じた昇進を望む人材が多いため、こうした要望に応えられる体制と環境を整備することが、デジタル人材の定着につながります。

例えば、月に一度、デジタル人材と1対1のミーティングを実施したり、1日の終わりにビジネスチャットを通じてフィードバックを送ったりする仕組みを導入するのも一つの方法です。また評価制度を見直し、能力や実績に応じて昇進が可能な仕組みへの変更を検討することも有益です。

ワークライフバランスを実現する

快適で自由度の高い働き方が可能な職場であれば、従業員が長期間働く意欲が高まるでしょう。残業時間の削減、リモートワークやフレックス制度の導入など、働き方の改革に取り組みましょう。

働き方改革の推進によって柔軟な労働条件が整えば、ワークライフバランスが向上します。仕事とプライベートの充実を両立させ、従業員のモチベーションが維持されるため、長期間の従業員定着につながります。

有給休暇の取得を奨励し、出産・育児や介護に関連する制度を充実させ、リフレッシュ休暇を導入するなども効果的です。

まとめ

AIやIoTを活用するサービスの需要が高まっていることや、少子高齢化による労働人口の減少により、デジタル人材の不足が深刻となっています。本記事ではデジタル人材を採用・育成するポイントについてお伝えしました。デジタル人材の長期的な定着には、優秀なマネージャーやリーダーの配置、適正な評価体制、ワークライフバランスの実現が重要です。そして、デジタル人材採用の際には競合他社との差別化や明確な採用ターゲットの設定が不可欠です。デジタル人材を育成し、定着させるための施策が必要です。

デジタル人材の不足は、今後より悪化すると予測されています。デジタル人材の育成や採用に早めに着手しましょう。

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ラクテス

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