少子高齢化や働き方改革などの影響により、多くの企業で従業員の質向上やエンゲージメントの強化が求められています。そのための手段のひとつとして人材育成が重要視されています。本記事では、人材育成の目的やメリット、人材育成に効果的な研修の種類、階層別研修で重要なことや研修を成功させるポイントを解説します。人材育成の種類・方法を理解し、自社の持続的な成長に効果的な研修を設定しましょう。
目次
人材育成の目的とは?
多くの企業や組織では、さまざまな研修や学習教材などを使って人材育成に取り組んでいますが、業種に関わらずどの企業もその目的はほぼ同じです。まずは、人材育成の基本的な目的を確認しましょう。育成・学習は手段であって、目的ではないことに注意が必要です。
究極的には組織の目的を達成するために人材育成を行います。企業経営に寄与して組織や事業の存続に貢献するために人材育成があるのです。その他の副次的な目的としては以下のようなことがあります。
従業員の定着率を高めるため
企業が積極的な人材育成を行うのは、従業員に「自分は会社から将来を期待されている」と早い時期から認識してもらい、定着率向上を図る目的があります。
ベテランに比べ、若手や中堅は転職する割合が多い世代です。さらに、IT技術が日々進化し、働き方改革や新型コロナウィルスの影響でテレワーク化やサテライトオフィスの設置などといった、多様な働き方が実現しています。このような働き方の自由度が増したことで、海外では一般的であった人材の流動が日本でも活発化しています。それにより、年功序列や終身雇用といった日本の伝統的な雇用制度や既存のキャリアパスは崩壊しつつあり、さらに人口減少によって大きな人手不足の環境が発生する見込みです。
パーソル総合研究所と中央大学の調査によると、2030年までに644万人の働き手が不足するとされています。(参考:労働市場の未来推計2030 8ページ)
このような環境の中で、従業員の定着率をいかに向上させるかが、企業の大きな課題のひとつとなっています。そのために人材育成や研修で成長してもらい、活躍の場を広げることが有効です。
従業員の生産性を高めるため
企業の持続的な成長には、従業員の生産性向上が必要不可欠です。近年の少子高齢化の影響による労働力不足も相まって、今後ますます生産性向上に取り組む企業が増えるものと予想されます。人材育成は、従業員ひとり一人のポテンシャルを最大限に引き出すための手段であり、企業の生産性向上に大きく寄与するものとして期待されています。将来的に不足する労働力を既存人材の生産性向上で補うことができれば、業績拡大につながり、副産物として企業文化の醸成や商品・サービスの新しい価値を創出するきっかけになる可能性もあります。
従業員のモチベーションを高めるため
3つ目の目的は、「従業員のモチベーションを高めるため」です。2014年に厚生労働省が報告した「働きやすい・働きがいのある 職場づくりに関する調査」によると、人材育成を行っていない企業に比べて、行っている企業の方が、「働きがい」を感じている従業員が多いという結果が出ました。また、人材育成で行われた研修や学習から得た知識やスキルを活かしながら仕事に取り組むことで、業務を進めやすくなるなど「モチベーションの向上」にも寄与します。
そして、働きがいを感じながらモチベーションを高く持って業務に取り組む従業員が増えれば、企業の業績向上と同時に働きやすい職場環境の構築や従業員エンゲージメントの向上も期待できます。
参照:「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」平成26年5月厚生労働省・職業安定局雇用開発部雇用開発企画課
企業の組織力を高めるため
人材育成に積極的な企業は高い組織力を生み出しています。組織を構成する上で重要な一員であることを従業員に意識してもらうことで、目指す方向性が明確になり一体感を生み出す効果が期待できます。
例えば、新人研修では企業の根幹となる企業理念やパーパスをよく理解してもらい、スタート時の意識をそろえます。中堅社員研修では、次のステップに進むためのスキル習得に加え、将来的な企業ビジョンや経営方針を理解してもらい、リーダーとして企業を担うための自覚を引き出します。
人材育成に効果的な研修の種類
人材育成には、学習教材を使ったものから講義スタイルの研修や実践形式のものなど、さまざまな手段があります。身につけたい知識やスキル、能力に応じて使い分けするのが効果的です。
OJT
「OJT」とは、「On-the-Job Training」の頭文字を取った略語で、仕事をしながら訓練を行うことです。新しく配属された新人スタッフを早い段階で戦力として育成することで、マニュアルや座学などでは得られないスキルやノウハウを、現場での実務を通して学んでもらうのが目的です。
現場で活躍してくれる人材がすぐに必要な企業にとって最適な手法です。全体研修後、OJTはそれぞれの配属先で実施されるのが一般的です。
この手法は、正しく学べば早い段階で即戦力として活躍できるようになるのがメリットです。教える側の従業員にとっても、指導力や基礎知識の向上などさまざまな効果が期待できます。
一方で、実務と教育を同時並行で行うため、教える側の負担が大きくなる傾向があります。先輩社員が忙しくて新入社員や後輩の面倒を見る時間がなく、OJTという名のただの作業となっている状況に心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
現場と人事部門の連携不足などしっかりと準備ができていないことで、新人スタッフが身につけるべき能力にバラつきが出たり、教える側の都合がつかず放置されたりといったデメリットがあります。また、OJTを担当する管理職(マネージャーなど)に教育の品質が依存してしまい、管理職の能力範囲を超えて学べないという問題点もあります。
したがって、OJTを実施する際は、発生するリスクをあらかじめ想定し、新人スタッフが質の高い教育を受けられるように事前準備と適切な配慮が重要です。
Off-JT(研修)
「Off-JT」とは、「Off-The-Job Training」の略称です。直訳すると「職場外研修」という意味で、現場から離れた場所で実施される研修などのことを指します。ビジネスマナーや業務マニュアルなど、実際に業務を行うのに必要な知識やスキルなどを習得します。現場では学べない専門性を要する知識を専門家から包括的に学べる点や、一定の研修時間を確保しているので、学習に集中できるなどのメリットがあります。
一方で、参加者を一か所に集めて開催するのが一般的なため、講師や参加者のスケジュール調整、会場設営、研修内容の考案や資料作成などに手間がかかります。ほかにも、研修の目的や意義がしっかりと腹落ちできていないせいで、ただ聞いただけでその後何も仕事に変化はないことがよく発生します。「ただでさえ忙しいのに、外部の研修なんて聞く意味があるのか」みたいな姿勢で参加している人が多ければ、研修の成果はでないでしょう。
したがって、Off-JTの参加者は、事前準備に多くの時間が費やされていることを理解し、事前資料の読み込みやアンケート回答などもしっかり行い、実のある研修となるように積極的に取り組むことが大事です。
eラーニング
「eラーニング」とは、「electronic learning」の頭文字を取り、一部をカタカナ表記した略称です。ICT(情報通信技術)を用いることによって、「いつ・どこでも・何度でも」研修を受けられる手法です。受講者は、移動中などの隙間時間に研修を受けられます。また、運営側も集合研修のように講師を依頼したり会場設営を行ったりする手間が不要です。
また、定型的ではあるものの、パッケージ化された教材を扱うため、研修部門の負担が軽減されるなどのメリットがあります。一方で、受講者の自発性に頼った研修システムであることや、疑問点があった場合にすぐに質問に回答してくれる相手がいないなど、対面式の研修にはないデメリットが予想されます。また、個々のニーズに合った学習を提供するのが難しい側面もあるため、あくまでも補助教材として活用するのが適当です。
研修は内製化するか、外注するか
研修を社内で制作して社員が他の社員に教育するのか、それともアウトソーシングするのか、これで迷われている企業の経営者、人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
自社にとって競争優位性となるポイント(コアコンピタンス)に近いテーマであれば内製、若手向けのビジネスマナー研修のような一般的なテーマであれば外注といった形で使い分けるのがおすすめです。
自社が専門とする領域の研修は外部に委託するのは難しいでしょう。仮に自社の強みとなる部分の研修の開発を外部に委託できるのであれば、それは本当の意味での競争優位性となる要素ではありません。
自社独自の差別化されたノウハウや知見を磨き込み続け、それらを研修に落としていく必要があります。その作業は内製化するしかありません。
研修内製化のメリット
- 教えることで学習できるため、講師を担当する社員が成長する
- 教育への関心が高まり、育成や学ぶのに前向きなカルチャーができる
- 部門を横断した研修が実施されることで横のつながり、社内ネットワークができる
- 担当者によるブラックボックス化を減らせる。暗黙知から形式知に切り替えられる
- 研修のためにマニュアルやチェックリストの作成などをするため、業務改善をする機会が増える
研修外注のメリット
- すでにあるカリキュラムをそのまま使えるうえに、研修会社のスタッフが講師をするので、導入までのスピードが早い
- 社内にまったく知見のない未知のテーマで研修を受けられる
- 社員が本来の業務に集中できる
階層別の人材育成ポイント
人材育成を行う上で最も重要なのが、「対象者に適した内容であること」です。これには役職や勤続年数、担当部門などさまざまな要素が含まれます。
新入社員
社会経験の浅い新入社員に対しては、遠慮することなく的確な指導を心がけてましょう。社会人としてのマナーはもちろんのこと、社内ルールや企業文化、仕事の進め方など分からないことが大半であるため、間違っていることがあれば「何がどう間違っていたか」を的確に伝える必要があります。
ここで大事なのは、「間違いがあった後、どのように対応すればよいのか」を自分で考えてもらうことです。
答えをすぐに教えてしまうと、思考を止め「言われたことだけやる」意識になってしまう可能性があります。ときにはヒントを出しつつ、自分で答えを見つけて行動する癖をつけてもらうことで、主体性と責任感をもって業務に取り組むきっかけを掴めます。また、間違いを指摘されたり、仕事をうまくこなせなかったりするとモチベーションの低下を招いてしまうため、適度にフォローを入れながら成長を促すようにしましょう。
中堅社員
中堅社員に対しては、企業内での自分の立場と役割をしっかりと理解してもらえるように指導しましょう。ある程度の業務経験があれば、基礎の振り返りよりもリーダーとしてのスキル向上の方が重要です。組織の利益となるように自分がするべきことを意識してもらいます。しかし、いきなり「組織の利益を考えろ」を言われても、すべてをうまくこなせる人材はそう多くはありません。そのため、リーダー職に就く前に、研修などに参加してもらい、必要な知識やノウハウを習得してから今以上に責任ある役職を任せるのがおすすめです。
管理職(次世代リーダー)
次世代リーダーに対して、企業が期待する役割や動き方を明示するために有効なのが、OJTで職務上位者(管理職)の仕事を代行させる方法です。もし、管理権限などでOJTが困難な場合は、Off-JTで管理職の業務を体験してもらうなどの施策も効果的です。管理職の主な業務は事務処理など実務的なものではなく、部下やプロジェクトのマネジメントなどが大事な業務です。そのため、職務上位者と一緒に部署の方針を立てたり、管理職だけの会議に出席したりするなど、経験を積むことが重要です。
人材育成の研修を成功させるには
人材育成のための研修を実施しても、参加者が開催者の求める知識やスキルを身につけなければ意味がありません。ここでは、研修を成功させるために必要な5つのポイントを解説します。
企業の抱える課題を把握する
人材育成を行う前に現状を把握し、企業の発展のために何が必要なのかを知ることが重要です。抱えている課題に対して、どのような人材育成が行われれば解決できるのか分析し、課題解決へのプロセスを組み立てる必要があります。そのためには、各部署のさまざまな役職・立場にある従業員の声をよく聴き、多角的な視点から自社が抱えている課題を把握して解決策を考えるようにしましょう。
社員の学びをサポートする
企業の抱える課題を把握し適切な研修制度を展開しても、社員に学ぼうとする姿勢がなければ効果的な研修はできません。したがって、社員が自発的に学習するような仕組み・環境作りが重要です。そのためには、研修制度の他に学習教材(書籍など)や外部講習などの必要経費を企業が負担するような仕組みを構築するのもひとつの方法です。学びに対して自発的な社員が増えると、周りにもその影響が波及し、結果として「学びのサポート」が人材育成を成功に導くきっかけとなります。
適切なKPIを設定する
研修の効果があったかどうかを検証するためには、測定可能なKPIを設定するのが重要です。例えば、売り上げや残業時間の削減具合・離職率など、定量的なものから、働きがいなどの定性的なものまで幅広くゴール設定を行います。研修後は振り返りや検証を行い、達成度を算出することで、人材育成で強化できたポイントや、今後も改善が必要なポイントなどが明確に計測できます。改善点を踏まえて研修内容を進化させ続ければ、社会変化にも迅速に対応できる強い組織が構築されていくでしょう。
社員の声を参考に目標を作る
将来的な事業目標を達成するための人事施策の方針を明確化し、何年後にどういった人材が何人名必要かなどを算出し、人事施策に則り運用を進めていくことが重要です。また、方針を決める際には、経営者だけではなく現場の社員や中間管理職の意見を参考にすることも怠らないようにしましょう。現場のニーズは、経営者が考えつかないような視点・考察から生まれてきたものかもしれません。したがって、経営者の視点と現場のニーズを掛け合わせ、自社にとって最適化された目標を作るようにしましょう。
評価基準を設定する
人材のスキルアップに貢献したにも関わらず、それが人事評価に含まれないこともあります。新人や研修の受講者に教える立場の従業員は、知恵を絞ってスキルやノウハウを伝える努力をし、そのために貴重な時間を割いています。しかし、その取り組みが誰からも評価されないと、人材育成に対するやりがいやモチベーションを失ってしまうリスクがあります。そのため、OJTの成果や育成した人数によってインセンティブをつけるなど、明確な評価基準を設定することで人材育成の質向上につながると考えられます。
研修後の確認テストには「ラクテス」がおすすめ
研修を行った後は、しっかり理解したかどうか確認する必要があります。「ラクテス」では自社オリジナルのテストを簡単に作成することができるので研修後の理解度チェックにおすすめです。
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まとめ
企業や組織の人材育成は、従業員の「定着率」、「生産性」、「モチベーション」の向上、そして「組織力の強化」が主な目的です。目的が不明確な状態で行っても大きな成果は期待できません。したがって、自社の課題を見直したときに、人材育成を行うことで課題を解決できるかどうかを確認し、そのうえで適切な研修や学びのサポートを実践することが重要です。また、研修内容は階層によって大きく異なるため、多角的な視点から課題の本質を捉え、それぞれの階層で自社に最も適した形の人材育成を行うようすることが大事です。
タグ: #人材育成, #新卒採用, 研修