ピープルアナリティクスとは? 必要なデータや分析手順、課題、事例を解説

ピープルアナリティクスとは? 必要なデータや分析手順、課題、事例を解説

人事・採用全般の強化に力を入れている企業で注目されているのが、ピープルアナリティクスという分析手法です。この記事では、ピープルアナリティクスとはいかなるものか概説し、分析に必要なデータ、分析手順、得られるメリット、導入時の課題、企業における導入事例について解説します。

人事・採用全般を強化するために、導入する企業が増えているのが、ピープルアナリティクスという分析手法です。この記事では、ピープルアナリティクスとはいかなるものか概要を示し、必要なデータや手順について解説します。また、ピープルアナリティクスを自社に導入した場合に期待されるメリットや起こりうる課題、企業での導入事例についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

ピープルアナリティクスとは?

ピープルアナリティクスとは、従業員や求職者に関するデータを集めて分析することで客観的な人事を可能とし、組織の合理的な運営を行うための分析手法を指します。ピープルアナリティクスは、People Analyticsという英語をカタカナ表記した言葉です。

ピープルアナリティクスは、2006年ごろにGoogle社の人事部門で誕生しました。同社が人事業務のデジタル化に取り組み、ピープルアナリティクスを活用してデータに基づく意思決定を人事業務に取り入れたのをきっかけに広まったと言われています。同社が掲げるピープルアナリティクスの定義は「人事に関する慣行、プログラム、プロセスなどをデータに基づいて理解すること」です。

引用元:Google re:Work|ピープルアナリティクス

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントとは、個々の従業員が保有する能力・スキル・経験などの情報をすべての従業員について収集して一元管理し、戦略的に人事配置や人材開発を行う人材マネジメントです。タレントマネジメントという概念は、1990年代に米国のマッキンゼー・アンド・カンパニー社が広めたとされ、ピープルアナリティクスよりも古くから使われています。

ピープルアナリティクスもタレントマネジメントも、従業員データを一元的に管理して、人事に活かすという点では同じです。しかし、タレントマネジメントではデータ収集の対象があくまでも人材であり、組織というよりも個人に着目しているところが、ピープルアナリティクスとは異なります。ピープルマネジメントでは、タレントマネジメントのようにデータ収集の対象を人材データに限定するのではなく、広く組織に目を向けて様々なデータを分析に活用します。

ピープルアナリティクスに必要なデータの種類

ピープルアナリティクスを行うにあたって、収集すべきデータは、以下の6つに分類されます。

1. 人材データ

人材データは、ピープルアナリティクスを行ううえで土台となる中心的なデータであり、欠かすことができません。人材データには、年齢・性別といった個人情報、所属している部署、職歴、保有している資格やスキル、給与などがあります。

人材データの収集に役立つツールとして多くの企業で利用されているのが、社内の人材情報をまとめて一元管理できるタレントマネジメントシステムです。具体例をあげると、従業員の顔写真が画面上に並ぶことで、文字だけでは伝わりにくい人物や部署の雰囲気が感じ取れる「カオナビ」や必要な機能を柔軟に選んでプランをカスタマイズできる「スマカン」などがあります。

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2. 勤務データ

勤務データは、従業員の勤務状況に関するデータです。勤務データには、出退勤時間、勤務時間、有給取得日数、欠勤日数などが含まれます。働き方改革を行う場合や離職率の低下を図る場合に活用すると効果的です。勤務データの収集に役立つシステムには、勤怠管理システムなどがあります。

3. デバイスデータ

デバイスデータは、PCやスマホなど社用デバイスから取得できるデータです。デバイスデータには、デバイスの使用時間、インターネット閲覧履歴、アプリの使用履歴、電子メールの送受信先、通話履歴、メールやチャットの履歴などが含まれます。デバイスデータを分析すれば、従業員の業務状況がわかり、業務量を調整して最適化することが可能です。また、誰と誰が頻繁にやり取りしているかを把握することで、パフォーマンスの向上にもつなげられます。デバイスデータの収集に役立つツールの代表的な例は、ログ管理システムやビジネスチャットツールです。

4. オフィスデータ

オフィスデータは、オフィスの設備や備品に関連するデータです。オフィスデータには、会議室の使用履歴、休憩室の利用状況、水道光熱費、空調の使用状況、エレベーターの稼働状況、複合機の利用状況などが含まれます。オフィスデータを収集して分析することで、間接的に従業員の行動パターンやコミュニケーションについての調査が可能です。分析結果を受けて設備の数や配置を見直せば、より良い労働環境の整備に役立てられます。

オフィスデータの収集に役立つツールの代表例は、会議室予約システムや出力機器を最適化して運用・管理するマネージドプリントサービス(MPS)です。

5. 行動データ

行動データは、就業時間中に従業員がどのように行動をしているかを示すデータです。従業員が自分の行動を自己申告するのではなく、実際にとった行動から読み取れる客観的なデータを指します。行動データに含まれるのは、オフィスの入退室履歴、会議への出席状況、社用の車や携帯デバイスの位置情報などです。

6. 認知データ

認知データは、従業員の自己申告に基づく主観的データであり、行動データのような客観的データではありません。従業員の意識や考え方を把握するための認知データには、従業員満足度調査(ES)、ストレスチェック、キャリア志向、目標管理シート(MBOシート)などの回答結果が含まれます。

ピープルアナリティクスの手順

ピープルアナリティクスでは、以下のステップを順に実施します。

STEP1:データの収集・蓄積

ピープルアナリティクスは、分析対象となるデータが存在しなければ実施できません。まずは、前述のピープルアナリティクスに必要なデータの種類を参考にして、簡単に収集できるデータがないか検討し、できるところから収集・蓄積を開始しましょう。

社内データが一元管理されていない企業の場合には、各部署に声をかけてデータを収集していかなければなりません。その場合には将来を見据えて、全社のデータを一元管理できるプラットフォームの導入を検討し、各部署から了承を得たうえで導入を進める必要も出てきます。

STEP2:目的・仮説の設定

データが集まってきたら、どのような課題を解決するためにピープルアナリティクスを行おうとしているのか、目的をはっきりさせ、目的に応じて仮説を設定しなければなりません。

たとえば、組織全体のパフォーマンスを向上させるため、自社の人員を可能な限り適材適所に配置することを目的として設定した場合について考えてみます。この場合、各部署の適材とはどのような特徴をもった人物なのか、収集したデータに基づいて仮説を立て、検証する必要があります。特定の部署でエースとして活躍している従業員の特徴を抽出し、「チャットやメールの頻度が高い人材はコミュニケーション能力に優れ、パフォーマンスが高い」といった仮説をとりあえず立てみましょう。

また、ピープルアナリティクスの実施で従業員の不信感や反発を招かないように、収集したデータの使用目的や情報の取扱い方法についても明確に設定して、従業員に周知することも大切です。

STEP3:データの分析

目的や仮説が明確に定まったら、収集したデータを使って目的や仮説を立証すべく分析を開始します。企業や業界によって求める人材は異なり、個々の従業員が有する特性も多岐にわたるため、ピープルアナリティクスには共通の分析手段はなく、はっきりと決まった分析方法もありません。

分析の取り掛かりとしては、勤続年数、部署、役職、年齢、性別などの属性に着目し、属性ごとにデータを分析して、出現する傾向について調べていくのがおすすめです。

STEP4:施策計画の立案・実施

分析を行って何らかの傾向が発見できたら、それをもとに課題解決のための施策計画を立案します。立案した施策を計画通りに実行したら、そこで改善すべき点を探しましょう。施策を実行して期待通りの効果が得られた場合であっても改善点を見つけ、STEP1に戻ってSTEP1からSTEP4を繰り返すことで、改善を続けることが大切です。

ピープルアナリティクスがもたらす5つのメリット

ピープルアナリティクスを上手く活用すれば、人事面で以下のような幅広いメリットが期待されます。

メリット1:採用力を強化できる

新たな人材を必要とする部署でパフォーマンスが高い従業員をピックアップし、そのデータを分析して特徴を抽出し、求職者のデータと比較して、近似値の人物を選ぶといった客観的基準を定めることで、採用を効率化できます。

新たな戦力を採用する際に担当者の主観に頼ると、人によって評価するポイントや基準がバラバラになり、戦力にならない人物や早期離職してしまう人物を採用することになりかねません。しかし、ピープルアナリティクスを導入して客観的な評価基準を作れば、目の前にいる優秀な人材に気づかずに不採用としたり、社風に馴染まない人物を採用してしまったりするリスクを最小限に抑えられます。

メリット2:合理的な配置転換・配属先の決定に役立つ

従業員の配属先を決める際に、各部署で活躍するために必要な属性やスキルなどの条件を人材データの分析結果をもとに設定し、その条件に適合する従業員を選ぶことで、合理的な配置転換や配属が可能です。ただし、従業員の意に背く配置転換や配属は、モチベーションの低下を招き、組織全体のパフォーマンスを下げることにもつながりかねません。認知データを利用して本人の希望を尊重することで、真の意味で適材適所の配置転換や配属ができるようになるはずです。

メリット3:人材育成の効率化につながる

人材データから個々の従業員に不足しているスキルや資格などを分析することで、研修の内容や方法を最適化し、人材育成を効率よく行えます。また、研修実施後にもデータを収集して分析を行うことで、研修の効果を計測して改善点を発見できるようになり、さらなる改善による効率アップも図れるでしょう。

メリット4:人事業務の標準化に役立つ

従来、従業員の処遇を決めるしくみである人事制度に基づいて従業員の評価を行う人事業務は、属人的なものでした。しかし、ピープルアナリティクスを導入して人事制度を分析すれば、データによる公平で客観的な評価ができるように人事制度を見直すことが可能です。客観的データを活用する人事制度に再構築できれば、人事業務を標準化でき、属人化の解消につながります。

メリット5:従業員の定着率が向上する

退職者が多いせいで必要な人材が確保できないという課題がある場合には、退職した従業員のデータを分析して、その傾向を把握することで、何らかの解決策を講じることが可能になります。会社を辞めるのには理由があるはずなので、その理由をつきとめて問題を取り除けば、退職者数を抑制できるはずです。また、退職者データの分析結果から、退職前の従業員がとりがちな行動がわかれば、そのような行動をとる従業員に声をかけて悩みを聞くことで、退職を未然に防げる可能性もあります。

さらに、ピープルアナリティクスを実践し、本人の希望を尊重した配置転換や合理的な人事制度が実現できれば、従業員の不満が減って、定着率の向上が期待できます。

ピープルアナリティクスを進める際の課題

ピープルアナリティクスを進めるにあたっては、特に注意を払わなければならないポイントがあり、それが成功するかどうかの鍵を握る重要な課題となります。

課題1:個人情報の取扱いに注意する

ピープルアナリティクスでは、必然的に従業員の個人情報を収集して使用することになるので、法令違反とならないよう、情報の取扱いには細心の注意が必要です。個人情報を本人に黙って勝手に収集するのはもってのほかであり、個人情報が目的外のことに利用されたり、外部に漏れたりするようなことがあってはなりません。収集の対象とするデータについては、しっかりと検討したうえで、収集する内容や使用目的を具体的に取り決め、従業員に周知して合意を得てから、情報収集を開始する必要があります。

課題2:データの客観性を保つ

データの収集、入力、分析などを行う際には主観が入り込まないように注意し、常にデータの客観性が保たれるようにしておかなければなりません。たとえば、担当者が事実と異なる内容を入力してしまうと、データの客観性は失われ、分析結果が合理的なものではなくなってしまいます。データの客観性を保つには、社内全体でデータの取扱い方やフォーマットを統一して、標準化するのが効果的です。

課題3:データ分析のスキルを統一する

データ分析のスキルは担当者に依存しやすく、担当者がスキル不足の場合には思うような効果が得られません。したがって、ピープルアナリティクスを導入するならば、従業員にデータの分析に関するスキルを習得させてレベルアップを図り、十分な効果を生み出せる一定のレベルまでスキルを引き上げることが必要です。

ピープルアナリティクスの資格としては、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会が実施する「人事データ保護士(HR DATA Protection Expert)」があります。この資格を人事業務に携わる従業員に取得させて、担当者のスキルを統一するのが有効です。

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会|人事データ保護士 資格認定講座

企業での導入事例

ここからは、大手の企業が取り組んでいるピープルアナリティクスの事例を紹介します。

事例1. Google

ピープルアナリティクスの本家本元であるGoogle社では、ピープルアナリティクスを採用試験、マネジメント、生産性の向上などに活用しています。以前、採用面接で名物だったなぞなぞは、秀逸な答えと実際のパフォーマンスとの間に因果関係がないことが、ピープルアナリティクスの活用によって証明されたため廃止されました。その代わりに、ピープルアナリティクスにより評価基準や質問事項を決定し、手順通りに面接を行うことで、より効果的な採用試験を実現しています。

事例2. ソフトバンク

ソフトバンク社では、従業員の状況や状態を把握して、社内のコミュニケーションを向上させるために、ピープルアナリティクスを取り入れています。また、新卒採用にもピープルアナリティクスが導入され、人間の代わりにAIがエントリーシートを確認することで、確認業務の負担軽減に成功しました。さらに、ピープルアナリティクスを用い、従業員の性格を加味して配属先を決定する取り組みも行っています。

事例3. 日立製作所

日立製作所では、人事業務を進化させる手法として、ピープルアナリティクスを新卒採用に取り入れています。

従業員を人財と捉える日立では、ピープルアナリティクスで人財を4タイプに分類したポートフォリオを作成し、タイプごとに内定者の比率を出しました。その結果、従来の方法で採用を行うと従業員の人財タイプが偏ることに気づきました。そこで、ピープルアナリティクスを用いて望ましい人財ポートフォリオをデザインし、選考手順を大幅に変更して、バランスよく人財を獲得できるようにしています。

日立製作所| 生産性向上と輝く一人ひとりを両立させるHRテック

ピープルアナリティクスを支援するツール「ラクテス」

ラクテスは、ピープルアナリティクスを支援し、企業の人事担当者が自社にふさわしいオリジナルの筆記試験を簡単に作れるツールです。ラクテスを使用すると、求職者の基本的な能力を測定する「論理・国語・計算テスト」から、リーダーシップなどを測定する管理職向けの「企画・経営テスト」まで、多様な筆記試験を作成できます。なかでもおすすめなのが「職種適正チェックテスト」です。テスト結果から人材の傾向が把握できるので、適材適所の配置が可能になり、より的確な人材配置につながります。無料登録で使用できるので、気軽に試すことが可能です。

ラクテス

まとめ

ピープルアナリティクスは、従業員のデータを分析して客観的で合理的な人事を実現するための手法です。分析対象となる人材、勤務、デバイス、オフィス、行動、認知の6種類のデータを収集・蓄積し、目的・仮説を設定して、データを分析し、施策計画の立案・実施を行うという手順で行います。ピープルアナリティクスを進める際には、個人情報の取扱いに注意を払い、データの客観性が損なわれないようにしなければなりません。

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